皆様こんばんは。『宝塚プラス』事務局員でございます。

標記の件、観劇してきました。以下、あくまで事務局員の感想ですので、『宝塚プラス』関係者全体の見解ではまったくないことをお断りします。


『ラストプレイ』…正塚晴彦演出。

スター、特に長きにわたってトップを張ってきた大トップである瀬奈じゅんの卒業公演はかなりの困難が伴うのは間違いない。トップサヨナラ公演には約束事も多い。その中のひとつに、「劇中の恋愛はめったなことで成就しない」というのがあるが(見送ったりということが多い)、今回はトップ娘役が不定であることを利用して、恋愛成分を極小化という荒業に出ている。話に広がりが出にくいのはそんな関係もあってのことであろうが、瀬奈の大トップの側面よりも「永遠の青年」風の味が、竹宮恵子『変奏曲』風の雰囲気も醸していて、きちっと楽しめる作品となっていた。退団公演でまた引き出しを見せ付けた瀬奈のほかには、クールにしつつ憎めないチンピラ風のジークムントを演じていた遼河はるひ、やや年配の色気のある役を抑制気味に演じていた城咲あい、孤児院で愛情を持って主人公を応援するヘレナをやりすぎずベタつかずに演じていた羽桜しずく、話のチェンジポイントであるアイリーンを堅実に演じて話の構造を明確化していた憧花ゆりのが目を引いた。

個人的には邸宅でピアノを片付けようとするエボニー(麻月れんか)とアイボリー(綾月せり)などのように、すみずみまで芝居を演じる「芝居の月組」の魅力が、末端まできっちり役名を付与する正塚芝居の丁寧さにマッチしていることが気持ちよかった。この魅力を、次期トップの霧矢大夢体制でも維持してほしい。


『Heat on Beat!』…三木章雄演出。

重くなりがちなトップ卒業のショーを、三木らしい勢いで押し切る中盤までは普通に素晴らしいショー。特に、HOT LATINOの場面の「El Viento」は歌詞の格調の高さ(ぜひプログラムなどで読んでみてください)、どこかにフォルクローレ風味を秘めた曲調を完璧に唄いこなす瀬奈の歌唱で、間違いなく2009年のベスト場面・歌唱のひとつで感涙もの。

後半は、El Tango Cでの瀬奈の衣裳を捨てた形での単独ダンス、フィナーレの男役引き連れまくり燕尾ダンスのラストでの笑顔のない思いつめたような表情などから、前半とは異なる雰囲気となり、瀬奈の覚悟というか存在が観客のボディーに刺さる展開。簡単に「素晴らしかった」で済ませられない要素を感じたのは気のせいか。

個人的なポイントは、El Tangoにおいて、苦手な雰囲気もあった歌唱を頑張った遼河はるひ。微妙な声の揺れがベルカント的陰影をタンゴ曲に与えていて表現が深まっていた。


とにかく、宝塚を支えてきた何かがひとつなくなる、ということを明確に自覚させられるボリュームのあるサヨナラ公演であった。チケットは入手困難だったが、見る機会がある人は楽しむというより満腹するというか感動するというか、という状態になると類推する。

この後の霧矢は大変だろうが、月組が誇る娘役陣(退団者は出るが)を有効活用するなど、さまざまに盛り上げていくことを期待している。