©️宝塚歌劇団   新人公演プログラムより抜粋転載
 

御剣海×綾音美蘭 研7コンビ好演!星組「記憶にございません!」新人公演

 

御剣海(みつるぎ・かい)綾音美蘭(あやね・みらん)の研7104期)コンビ主演による星組公演、政界コメディ「記憶にございません!トップ・シークレット」(石田昌也潤色、上演台本、演出)新人公演(雑賀ヒカル担当)が、12、宝塚大劇場で開かれた。稀惺かずとが主演した「1789」大希颯が主演した「RRR」と過去二回が東京のみとなり星組としては天飛華音が主演した「ディミトリ」以来、19か月となった宝塚大劇場での新人公演、満を持した長の期コンビが難しいコメディを鮮やかに決めた。

 

三谷幸喜氏が2019年に発表した同名映画の舞台化である今作。全世界を襲ったコロナ禍はじめロシアのウクライナ侵攻、安倍首相の暗殺とたった4年で世情は大きく変化、アメリカでは初の女性大統領が実現するかもしれず、日本では総裁選真っ最中、さらには宝塚歌劇団自体が昨年来、根底から揺れ動いている有様。そんななか記憶を失った総理大臣を主人公にしたコメディは映画公開当時よりも数倍タイムリーというか生々しいというか、歌詞やセリフにビンビン反応、数年後に再演して面白いかどうか保証はできないが、今ならではの面白さに満ちた作品であることは新人公演を見ても改めて感じた。石田氏らしくかなりきわどい政界風刺描写もあって、それを巧みに笑いでソフトにくるんでいるものの、よくもまあ劇団が上演を許可したものだと思う。

 

そんなことを思いながら見ていた新人公演だったが、新人公演オリジナルの場面はほとんどなくギャグも含めてほぼ本公演のまま。久々の大劇場での公演ということもあって出演者の熱気が尋常ではなく、御剣と綾音の長の期コンビの熱演もあってコメディとしての間がきちんと成立したレベルの高い舞台となった。

 

7で初主演御剣は、「1789」ではカミーユ・デムーラン、「RRR」ではラーマといずれも暁千星が演じた役を新人公演で演じ、その的確な演技で主演を支えていたのが印象的。今回がまさに満を持しての初主演だったが、開演前のアナウンスから礼真琴そこのけの絶妙の間合いで満場をどっとわかせ、舞台と客席の緊張感を一気にほどいた。その後もクリアなセリフと余裕の演技でほぼ満点の出来。オープニングの「献金マンボ」の掛け声も堂にいったもので、幕開けから舞台を自分のペースに持ち込んだ。記憶をなくした総理大臣という難役、黒田啓介は礼が緩急自在に演じており、御剣もそれをお手本にしているせいか礼そっくりなところもあるが、それが逆にほほえましくもあり、とにかくセリフの間合いが抜群で安心して見ていられた。

 

総理夫人、聡子役(舞空瞳)を演じた綾音も104期で新人公演初ヒロイン。「1789」ではシャルロット(瑠璃花夏)「RRR」ではシータ(詩ちづる)と出番は少ないが印象に残る役を演じていて、その可憐な容姿が目に焼き付いていた。今回の聡子役は、政界の実力者の娘で、啓介とは高校の同級生。目下、総理秘書の井坂と不倫しているという設定。清楚さのかけらもない役だが、蓄えてきた実力を発揮した。

 

暁が演じている秘書、井坂は樹澄(きすみ)せいや(106期)が起用された。「RRR新人公演では天飛華音が演じていた主人公ビームの仲間の一人ジャングを演じていたらしいが、申し訳ないがあまり印象に残っていない。今回は大志を抱いて政界に入ったが現実に失望して打算的になっている青年を嫌味なくストレートに演じた。すっきりした二枚目ぶりに眼鏡が似合っていた。

 

極美慎が演じたフリーライター、古郡の大希颯が、やさぐれた雰囲気といい再現力抜群で、そのリラックス感がなかなかだった。前回、センターを演じている余裕が如実に表れたいい例だろう。自分を魅力的に見せる工夫も感じられ今後の活躍に期待といったところ。

 

黒田の恩師、柳先生(美稀千種)の稀惺かずと(105期)、ヒロインの兄、景虎(碧海さりお)の碧音斗和(104期)の二人がヒットで、稀惺が老け役を的確に演じたほか、碧音はコメディ演技の間の取り方が抜群で場をさらった。官房長官鶴丸(輝月ゆうま)の世晴(せはる)あさ(104期)も存在感たっぷり。

 

娘役では白妙なつが演じている官邸料理人寿賀さんに詩ちづる105期)が扮して何をやっても達者なところを見せた野党の党首山西(小桜ほのか)の碧羽陽(あおはね・よう-107期)も体当たりだが何より背伸び感がないのがいい。ニュースキャスター、ボニータ(水乃ゆり)の凰花(おうか)るりな(105期)もドライな感じがよく出ていた。アメリカの大統領スーザン(瑠璃花夏)の瞳きらり(105期)通訳の和田(都優奈)の藍羽(あいは)ひより(107期)、そして秘書官番場(詩)の茉莉那ふみ(108期)もここぞとばかりにアピール。御剣をめぐる幻想シーンのダンスも含めて娘役陣が全員生き生きと演じていて見ていて楽しかった。

 

若手では黒田の息子、篤彦(稀惺)を演じた早瀬まひろ(109期)が清々しくも芯のある演技で目を引いた。

 

カーテンコールで最初にあいさつに立った綾音が「100回のお稽古より一回の舞台」と話した通り、本番がいかに大事かを痛感させた新人公演でもあった。主演の御剣の「いまは無事終わって今は真っ白な状態、課題は後で考えます」という挨拶もすがすがしかった。

 

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