明日海りお、望海風斗 夢の競演「ガイズ&ドールズ」
上田久美子退団後初仕事「バイオーム」開幕

元花組トップ、明日海りおと元雪組トップ、望海風斗 同期トップ同士の人気スターが退団後女優として初共演したミュージカル「ガイズ&ドールズ」(マイケル・アーデン演出)が9日、帝国劇場で、また、数々の名作を生み出した演出家、上田久美子の退団後初の外部での仕事となったスペクタクルリーディング「バイオーム」(上田久美子脚本、一色隆司演出)が8日、東京建物ブリリアホールでそれぞれ開幕した。今回はこの話題の2作品について報告しよう。

「ガイズー」は、1950年初演のブロードウェーミュージカルで1955年には映画化もされているが、日本では1984年、月組トップだった大地真央主演で初演され、以来宝塚ファンにはおなじみの作品。大地以降にも2002年紫吹淳時代の月組、近くは2015年北翔海莉の星組トップ披露として2度上演され、東宝バージョンも1993年に杜けあきの退団後初舞台として田原俊彦主演で、2011年にも内博貴主演で二度上演されている。今回は東宝創立90周年を記念しての豪華キャストによる上演。

初日を前に8日夜に公開ゲネプロが行われ、それを観劇することができた。舞台下手に「CAUTUON(注意)」と書かれた標識とマンホール。演出のアーデン氏が登場して「二時間前にできあがったばかりのホットな舞台。ファミリーとして一緒に楽しんでください」というメッセージがあり、オーケストラがオーヴァチュアを演奏。真っ赤な緞帳が開くとスクリーンには懐かしい「TOHO SCOPE」のマーク。続いてわざと傷をつけたフィルムにタイトルクレジットが次々と現れ、観客を古い映画の世界へ誘っていこうという仕掛け。

幕が完全に開くと1936年ニューヨークのタイムズスクエア。当時の最新の衣装、ヘアスタイルの女性たちやネイビーたちが町を行きかう姿がダンスで活写され、明日海や望海といった登場人物たち全員がどこかせわしなく歩いている。さあ始まるぞというわくわくするオープニングだ。

ストーリー展開、曲の挿入などは宝塚バージョンとほぼ同じ。ギャンブル好きのギャングたちのいかにもそれらしい帽子とスーツ姿がなんともクラシック。田代万里生扮するナイスリーとベニー(武内将人)ラスティ(木内健人)のナンバー「ハッタリ屋のフーガ」から軽快にスタート。ストーリーは宝塚版と同じなので省略するが、重要な舞台となる救世軍の事務所が回り舞台を駆使した地下に続く大掛かりな装置になっているなどすべてがゴージャスでさすが帝劇バージョン。

お目当ての明日海、望海の二人。サラに扮した明日海は真っ赤な救世軍の制服を着て登場。宝塚バージョンでは黒木瞳らが演じた役だが、制服がことのほかよく似合う。歌唱のキーがまだ自分のものになっていないようで少々心もとないが、これは時間が解決するだろう。一路真輝や涼風真世も通ってきた道だ。ハバナでの酔っ払いシーンはじめサラの見せ場はさすが明日海、役作りが深い。きかせどころの「初めて知る想い」もうまく、感じが出ていた。

アデレイドに扮した望海は「恋にメロメロ」「返すわ、ミンク」などセクシーなショーナンバーを歌いこなし、無理に作りこまずのびのびとした演技がみていても楽しい。明日海とのデュエットもあって同期で舞台を楽しんでいる雰囲気がいい。

これは主演のスカイ・マスターソンを演じた井上芳雄にも言えることで、スカイに井上は合わないのではと危惧していたのだがお相手が明日海ということが、功を奏してなんとも言えないいい味を見せた。賭けの対象としてみていたサラに百戦錬磨のスカイが惹かれていく流れに嘘がないのだ。これは演出の勝利かも。

浦井健治のネイサンも、予想以上に役にはまっていて、望海アデレイドとも息があっていていいコンビだった。とにかく主演の4人が、役にはまっていて、久々にスカッとするミュージカルを見たという印象。

ナイスリーの田代、ブラニガン警部補の石井一孝ら脇も豪華。救世軍のカートライト将軍に未沙のえるが出演しているのも面白い。宝塚初演ではナイスリーを演じていたのが懐かしい。

一方、3月末で宝塚歌劇団を退団した演出家上田久美子の外部第一作となる「バイオーム」は、人間の世界と植物の世界が並行的に存在する不思議な物語。人間の世界は、ある政治家一族の物語。植物の世界はその家の庭の樹齢200年近いクロマツを中心とした物語。出演者は双方どちらの役も演じ、二つの世界を行き来できるのは政治家一族の孫である中村勘九郎ふんするルイだけ。植物からみた人間世界の身勝手さが面白おかしく描かれる。

登場する役者たちは基本的に台本を手に持ってリーディングするのだが、いつのまにか手から台本を放して芝居をしていたり、自由な動きで話が進む。ストーリーは後半に大きな秘密が明かされる。

勘九郎のほか父、学に成河、母、怜子に花總まり、いわくありげな老家政婦・ふきに麻実れいといった多彩なキャスティング。いずれも庭の木々とのダブルキャストで物語が進行する。非常にユニークな物語は上田が宝塚で紡いできたものとは一線を画していて、今後の作家活動がさらに期待できそうだ。前半は謎の女性だったふきが後半に大きな存在として浮かび上がり、もうひとつのクロマツ役とともに麻実の圧倒的な迫力が作品全体をさらった。いずれにしても宝塚ではない上田久美子の新たな世界がみえた作品だった。映像を駆使した一色の演出も効果をあげていた。

©宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司