©宝塚歌劇団

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愛月ひかる、桜木みなとら宙組公演「WEST SIDE STORY」役替わり公演開幕

 

今年1月、真風涼帆、星風まどかの宙組新トップ披露公演として上演されたミュージカル「WEST SIDE STORY」(ジョシュア・ベルガッセ演出、振付、稲葉太地訳詞、演出補)の役替わり公演が7月24日から大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕した。

 

「WEST SIDE STORY」は、1957年にブロードウェーで初演、1961年に映画化され大ヒット。日本のミュージカル・ブームの火付け役となった作品。ミュージカルの上演がほとんどなかった1968年、他に先駆けて宝塚歌劇団が日本初演して大きな話題となった。今回の公演は以来50周年であること、作曲家のレナード・バーンスタインの生誕100年、さらには宙組20周年といったアニバーサリーづくめの上演。歌、ダンス、芝居と三拍子そろわないとできないミュージカルの上演が難しかった当時から思うと今のミュージカル全盛時代はまさに昔日の感がある。

 

50年たった今、宝塚歌劇団が「WEST SIDE STORY」を上演しても何の違和感のない時代になった。ただ1960年代にこの作品を見たときには、アメリカの恥部を赤裸々に描いてはいるが、こんな差別主義は、いつかはなくなって平和な時代がくるだろうという未来への希望のようなものがかすかにあったのだが、21世紀もかなりたった今、アメリカも日本も50年前の現実よりさらに厳しい末期的状況になってしまった。こんな未来をあの時、誰が想像しただろうか。真風涼帆ら宙組メンバーの熱演をみていてふとそんなことが頭をかすめてしまった。

 

1961年12月23日、「ウエストサイド物語」日本公開初日に今はない大阪のなんば大劇場(現スイスホテル)の大スクリーンで見て、その迫力にうちのめされて以来57年!映画、舞台を含めて一体、どれだけの回数、この作品を見たか分からない。振付のきっかけやセリフもふくめて、すべてを覚えているほど。歌詞もおもわず原語が頭に浮かぶほどだ。というわけで、この作品に関してはどうしても辛口になってしまうが、この宙組公演を改めて見て、宝塚の歌やダンスのレベルが高くなったなあというのも正直な印象だ。

 

ただし、いまや宝塚だけではなく他の劇団や来日公演がひっきりなしにこの演目を取りあげ、上演している中、今、宝塚で上演する意味というのがあまり感じられないのも、正月に見たときと同じ印象だった。座付作者の演者への当て書きの作品ではなく、すでにある役への挑戦という意味では、出演者たちには勉強になるし、見る側にも思いがけない発見があるとはいえるのだが、ジーンズにTシャツの芝居を宝塚の観客が欲しているとはとうてい思い難い。もっと宝塚らしい演目があるのではと思ってしまった。いっそのこと全キャストをオーディションでやるぐらいの気構えがあればそれはそれで面白いと思う。

 

とはいえ半年ぶりの再演で、真風のトニーは、不良少年グループの一員とは思えないノーブルさをたたえながらも初めての恋に一途に突っ走り、良かれと思ったことがすべて裏目に出てしまう不器用な青年をピュアに演じ切って好演。声質に合わないソロも、音程を工夫して無難に歌い切ったのは立派だった。

 

マリアの星風まどかも「アイ・フィール・プリティ」「トゥナイト」「あんな男に」などを高音まで見事に歌いこなし、恋に恋する可憐な雰囲気も巧みに体現して、半年前とは格段の成長ぶり。

 

芹香斗亜からバトンタッチしたベルナルドの愛月ひかる、桜木みなとから代わったリフの澄輝さやと、その桜木は和希そらが演じたアニータを演じたのが大きな役替わり。ベルナルドは宝塚では二番手役なのだが、冒頭のプロローグと体育館でのダンスシーンに見せ場があるいわゆるダンサーのおいしい役。愛月は、黒塗りに赤いシャツで精悍な感じを出していたが、少ない出番で一気にひきつける色っぽさのようなものがもう少し欲しい。澄輝も本来の持ち味ではない役なので本人的には大きな挑戦。「ジェットソング」や「クール」でのダイナミックなダンスは大いに買え、新境地開拓となった。優しい顔立ちが邪魔をしている感じ。一方、桜木のアニータは、男役の時のフェアリー的な雰囲気をかなぐりすて、姉御肌のアニータを豪快に演じた。さすが男役の迫力「アメリカ」でのダンスの切れ味も素晴らしかった。

 

あとジェット団のアクションが瑠風輝から留依蒔世にかわるなど両軍団ともメンバーチェンジがあり、なかで潤奈すばるから代わったエイラブの七生眞希の端正な顔立ちがひときわ目立ち、スノーボーイの春瀬央季やエニボディーズの夢白あやの何とも言えない可愛さとともにジェット団がなんだか上品なチンピラグループに見えた。

 

ダンスから歌までオリジナルの細かい指定があり、男役の振付以外は宝塚的改変はほぼないといっていい舞台なので、どうこう言える筋合いはないが、ラストのチノ(蒼羽りく)の発砲でトニーが倒れ、マリアが支えるあたりの「間」の「ため」がなく、すぐに歌に入るのがちょっと性急すぎるような感じがしたのだがどうだろうか。初めて見た方の感想をお聞きしたい。

 

初日終演後、カーテンコールで真風が「この作品が伝えたいことをきちんと伝えられるよう千秋楽まで頑張りたい」と挨拶。いつになく男性客の多い客席から総立ちの大きな拍手が送られた。公演は8月9日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月24日記 薮下哲司