珠城りょうがサラリーマンに、月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」開幕 | 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス

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珠城りょうがサラリーマンに、月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」開幕

 

珠城りょうを中心とした月組による異色の2本立て公演、伊吹有喜氏の同名原作を舞台化したミュージカル・プレイ「カンパニー~努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)~」(石田昌也脚本、演出)とショー・テント・タカラヅカ「BADDY(バッディ)~悪党(ヤツ)は月からやってくる~」(上田久美子作、演出)が9日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

昨年のこの時期にも宙組が浅田次郎原作の「王妃の館」を上演、かなり異色の舞台だったが、「カンパニー」も現代の日本を舞台に、トップスターがサラリーマンに扮するという近来にない等身大ミュージカル。ポスターが地味でなんとなく夢がなく、正直なもので客席も初日から2階は後方にちらほら空席が目立った。ところが舞台は、予想をはるかに上回る面白さ。客席は随所で笑い声に満ち溢れ、珠城はじめ出演者はいずれも適役好演、「ヴァンパイア・サクセション」「アーサー王伝説」と好調の石田氏の熟練の手腕が冴えた。

 

 チャイコフスキーの「白鳥の湖」の曲が流れるなか、幕が開くとダンサーたちが勢ぞろい。真ん中の扇がさっと開かれると奥から王子に扮したダンサー、美弥るりかによる「白鳥の湖」のワンシーンが再現される。美弥の鮮やかなステップに見惚れるうちに場面はラッシュアワーの満員電車に。スリ騒動の中、鮮やかな空手と柔道で犯人を捕まえたのは主人公の青柳誠二こと珠城りょう。さっそうの登場だ。

 

「カンパニー」は、昨年5月に出版されたばかりの新作小説。愛妻を亡くしたばかりの製薬会社のサラリーマン、青柳が、同僚の左遷に異議を申し立てたことから社長の娘(早乙女わかば)がプリマを務めるバレエ団に出向させられることになり、世界的プリンシパル、高野悠(美弥るりか)を招いての新解釈版「白鳥の湖」を成功に導く為に、ダンサーや業界人に翻弄されながらも、彼を慕うバレエ団のバレリーナ、高崎美波(愛希れいか)や団員の友情に支えられながら孤軍奮闘する物語。サラリーマン社会の世知辛い現実や、経営の苦しいバレエ団の内情が描かれ、「リストラ」「残業」「有休」「チケットノルマ」などのセリフがポンポン、とうてい夢を売る宝塚の出し物とは思えないが、劇中に「白鳥の湖」のバレエシーンをふんだんに取り入れ、お定まりの主役が降板、代役騒動なども盛り込み、2020年の東京オリンピックムードまで取り入れて今風のバックステージミュージカルとしてうまくまとめている。

 

「一生懸命努力しても報われない現実とそれを知った後の新たな希望を描いた、これまでの宝塚歌劇にはなかったちょっと辛口のエンタテインメント」とは演出の石田氏の弁だが、宝塚らしくない夢も希望もない話のなかから、さわやかな後味の大団円にもちこんだあたりはさすが熟練の腕。思わず笑える楽屋落ちネタや身につまされる身近な会話が頻発する中、ご覧になれば納得してもらえると思うが「今夜はいい月夜ですね」が宝塚での新しい流行語になればうれしい。

 

珠城は、体育会系でバレエのことは何も知らないが、根っから真面目で正義感あふれる青年を、スーツ姿から空手着、浴衣姿まで着こなして、等身大の青年像をさわやかに体現した。

 

11月退団を発表した相手役の愛希は、昼間はコンビニでアルバイトしながら、夜はバレエのレッスンをしている踊ることが大好きなバレリーナ役。出向してきた珠城ふんする誠二にひそかに思いを寄せている。ラストの晴れ舞台のシーンがなかったのは残念だったが、盆踊りの場面でねじり鉢巻きに法被姿で「東京五輪音頭」を披露するなど、愛希らしいキュートさが最大限に活かされた。

 

美弥がふんした高野は国際的に活躍するプリンシパルという設定で、バレエの特技が最大限に生かされ、しかも大スターらしいカリスマ性も十分。外国のバレエ団で体を酷使するあまり表には出さないが実は故障がちという裏事情もいかにも真実味があった。

 

月城かなと演じる水上は、製薬会社がCM契約している人気グループ、バーバリアンのメンバー。リーダーの宇月颯らとクラシックバレエとはうってかわったヒップホップなど今風のダンスと歌で対照的に登場。バレエをかじったことがあるという設定で、王子役に抜てきされるが…。一見、突っ張りタイプだが実は真面目で気骨のある青年という感じを巧く出していた。

 

あと大きな役としては、有明製薬の社長(綾月せり)の娘でバレエ団のプリマバレリーナ、紗良役の早乙女わかばと高崎と一緒に出向させられる瀬川由衣役の海乃美月。今回が退団公演となった早乙女は華やかな個性がうまく生きたいいはなむけになっているし、海乃も珠城の相棒的な役どころから、美弥の付き人兼トレーナーをするうちに…。となかなかおいしい役を安定感のある演技で好演した。ほかにも美波の後輩、長谷川役の暁千星ら脇に至るまで面白い役がいっぱいあって目が離せない。

                                          

 

一方、宝塚歌劇の新たな物語の紡ぎ手として、いまや絶大な信頼を浴びている上田久美子氏初のショー作品となった「BADDY」は、上田氏らしいストーリー仕立てのショー。ラインダンスやフィナーレのデュエットダンス、さらにはパレードまでが、ストーリーの一環になっていて、それらが新鮮で楽しく、しかも斬新で、これは画期的なショーだった。かつて鴨川清作氏や草野旦氏が試行錯誤していたショーの精神を、宝塚で初めての女性のショー作家となった上田氏が受け継いだといっていいだろう。鴨川氏の「ポップニュース」や草野氏の「Non、Non、Non」「ハッピーエンド物語」といった意欲的なショーを思い出した。上田氏のこのショーは定番のラインダンスやパレードを盛り込んだ宝塚レビューの形式に乗っ取って作られていることが画期的だ。

 

舞台は、一つの国家になり平和化された未来の地球の首都TAKARAZUKACITYが舞台。息苦しくなって月に脱出していたバッディ(珠城)が久々に地球に帰ってきたところから始まる。もこもこの宇宙服を脱ぎ捨てると、真っ黒なスーツに黒いサングラス、手にはタバコというワルなスタイル。グッディに扮した愛希が支配する地球にことごとく反抗、悪をまん延させようというのがバッディの狙い。銀行強盗や偽造パスポート、無銭飲食などあらゆる悪事を地球人に教えていく……。珠城VS愛希という構図で展開していく。

 

案内役的に登場するムームーの夏月都、スース―の白雪さち花、プリンの天紫珠李はじめ出演者はすべて通し役で、衣装も基本は変わらない。美弥は男でも女でもない両性具有的なスイートハート。濃い赤が美弥のテーマカラーで、珠城とのキスシーンもあるなど魅力的。月城はグッディに片想いの相棒ポッキー巡査役、メガネにブルーの制服でややとっぽい感じだがなんともかわいい、といった感じ。

 

なかでもバッディ率いるえんじ色のバッドボーイズたちのクールなダンスがかっこいい。この公演で退団する宇月と早乙女にはフィナーレの珠城と愛希のデュエットダンスのあとに魂の役でふたりの短いデュエットダンスがあるという粋なはからいもうれしかった。宇月は珠城と愛希のダンスの時にはカゲソロも歌った。

 

珠城、愛希、美弥の活躍で基本的には快調だが、中盤ややだれるところが課題。しかし、これなら初見の観客にも親切だし、どれも同じような最近のレビューを見ている眼にはずいぶん新鮮に映った。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月10日記 薮下哲司

 

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