宙組ホープ、桜木みなと初主演、バウ公演「相続人の肖像」開幕 | 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス

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宙組ホープ、桜木みなと初主演、バウ公演「相続人の肖像」開幕

宙組期待のホープ、桜木みなと主演のバウ・プレイ「相続人の肖像」(田淵大輔作、演出)が15日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「相続人―」は、20世紀初頭のイングランド西部、貴族階級がまだまだ社会で幅を利かせていた時代のお話。伯爵家の跡取り息子チャーリー(桜木)が、父の訃報を受け、遺産相続のためロンドンからバーリントンハウスの居城に帰ってきたことから巻き起こるライトコメディ。遺言には父の後妻で義母のヴァネッサ(純矢ちとせ)と共に暮らすことが条件とあり、はなからヴァネッサを毛嫌いしているチャーリーは大憤慨。遺産はいらないと啖呵を切るのだが、それでは多くの使用人が失職することになり、仕方なく資産家の親友ハロルド(蒼羽りく)の姉ベアトリス(愛白もあ)と婚約するはめになる。ところが、ヴァネッサの連れ子のイザベル(星風まどか)が出現、チャーリーが憎からず思ったことから話がややこしくなって、というストーリー。「ミー&マイガール」や「アーネスト・イン・ラブ」と同じ、イギリスの貴族社会を舞台にした遺産相続にからむ恋のさやあて騒動だ。

幕が上がるとチャーリーの父親ジョージの葬儀のシーン。いきなり暗い墓場の前での陰鬱な雰囲気のダンスナンバーから始まる。そこへ遺産相続のためいやいや屋敷に帰ってきたチャーリーが登場する。桜木はいかにも貴族の御曹司といったノーブルな雰囲気をたたえてうってつけの適役。音月桂の端正さに樹里咲穂の闊達さをまぶしたような個性といえるだろうか。後妻をめとった父に反発して、放蕩三昧だったプレイボーイのチャーリーが、父のまごころに触れ、自らも愛に目覚めていく青年の成長過程を、さわやかに演じている。

ただ、チャーリーをふくめて主人公たちの考え方があまりにも自分中心で、結末も強引すぎてあまり後味のいいドラマではない。祖母のロザムンド(悠真倫)が最後に「これでダラム家はまた鼻つまみ者になるわね」と嘆息して終わるのだが、まさにその通りである。チャーリーとイザベルの二人に振り回されたアルンハイム子爵家のハロルドとベアトリスには本人たちが納得しているとはいうもののまったく救いがなく、思いやりに欠ける作劇だ。

ヒロインのイザベルに扮した星風は、いかにも宝塚のヒロインらしい清楚で可憐な中にも自己を主張する強さも垣間見せる好演。チャーリーには当初、生意気な妹と映っていたのに、少しずつ気になる存在になっていく様子を巧みに表現した。ただ、イザベルがチャーリーのどこに惹かれたのかあまりよく伝わらなかったのは問題で、そのことがドラマの後味をあまりいいものにしていない原因でもある。
 ハロルドの蒼羽とベアトリスの愛白は、それぞれとんでもない損な役どころなのだが、2人とも大健闘。蒼羽ハロルドは、イザベルに求婚しようとするのだが、はぐらかされてなかなかできないあたりをキザっぽく演じて笑わせ、しかし、その思いが決して半端なものではない純情さもうかがえて、ハロルドの人柄を巧みに表現、一方、ベアトリスの愛白も一途にチャーリーに想いを寄せながらもチャーリーの心に自分が占める位置がないことを知って潔くあきらめる健気な女性を好演。この二人が好演しているだけに、主人公2人がよけいに勝手な人間にみえてしまうのかも。

あとは女役を演じた専科の悠真の圧倒的な貫録。さしずめ今の映画界ならジュディ・デンチが演じそうな役どころを楽しそうに演じた。ヴァネッサ役の純矢ちとせも、もう彼女ならではの存在感で舞台に厚みと深みを出すことに貢献。この二人と執事長フィップス役の松風輝の巧演が、この舞台を支えたといっても過言ではない。なかでも歌に演技に純矢の存在は大きく、かつての条はるきのように、大劇場公演でももっと重用されてしかるべきだと思った。

春瀬央季、七生眞希ら若手男役陣の多くはダラム家の下僕。アンサンブル扱いだったがイケメン?ぞろい。ここは春瀬ら召使い同士の恋模様をもう少し突っ込んで描き、チャーリーたち貴族と対比して描ければさらに面白かったかも。留依蒔世がケガのため休演、代演の水香依千が立派に穴を埋めたのも好印象だった。

フィナーレは蒼羽を中心に電飾で彩られた額縁から登場する男役陣のスタイリッシュな群舞から始まり、スモークのなかの桜木、星風のデュエットダンスへと展開。いかにもロマンチックなムードが漂った。

©宝塚歌劇支局プラス10月16日記 薮下哲司

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