最近SNSで、映画館の鑑賞バリアに関する車いすユーザーの方の投稿が話題になっています。
「車椅子ユーザーも好きな席で見たい」という彼女の想いに、私もとても共感しました。私自身もサポートの関係で最後列席しか選べないことがあるからです。
 
障害の有無にかかわらず、誰もが一緒に楽しめる場であってほしい…それは映画や舞台など文化芸術が好きな人にとって共通の想いではないでしょうか。
 
 
文化芸術を誰もが楽しむために重要なのは、劇場や映画館などの文化施設を建てる前からバリアフリー、アクセシビリティについて検討していくこと。 
建ててからバリアがあると分かっても、後から対応するのはとても大変です。
 
バリアフリー化のための法律はあります。
東京都では「東京都福祉のまちづくり条例」という条例があり、映画館や劇場もその対象となっています。
 
 
 
昨年、新宿にTHEATER MILANO-Za(シアターミラノ座)という約900席の大きな劇場がオープンしました。
東急歌舞伎町タワーの中にあり、私も何度か舞台を観るために足を運んだことがあります。
 
 
この劇場のバリアフリー・アクセシビリティの設備ってどんなものがあるのだろう?
最新の劇場だから素晴らしい設備があるのでは?
私は聞こえにくいので、せめて補聴システムはあって欲しい…と思い、THEATER MILANO-Zaに問い合わせました。
 
※補聴システムとは、音をききやすくするなど、きこえを補うための設備。

 

  THEATER MILANO-Zaの事例

 

以下、劇場から頂いたメールの要約です。
 

1)車いすスペースについて

・場所は主催者が決めるが、1階はR1扉から近いCD列の椅子を外して設けることが多い。2階はR4扉から段差なくアクセスできるB列28番のお席が取り外しが可能。

 

・車椅子をご利用のお客さまには事前にご連絡をいただき、劇場係員が1階までお迎えに上がって6階(もしくは7階)までエレベーターをご利用いただくことを想定している。

 

2)補聴システムについて

・劇場設備には備え付けておりません

 

 

3)他バリアフリー設備について

・オストメイト対応のバリアフリーのお化粧室を1階席エリアと2階席エリアに備えております。

 

 

頂いた回答は以上です。
 
なんと!
昨年建てられたのに、車椅子スペースとバリアフリー対応トイレのみ??
補聴システムなし!?!
 
※後述しますが、あとからこの回答は一部間違っていたことが分かりました。
 
 
また、車椅子スペースについて、車椅子ユーザーの知人に「この場所ってどうなの?」と聞いたら「また端っこか…」と。
更に、車椅子ユーザーはエレベーターを使うのに事前に連絡が必要という謎仕様。一人で自由に劇場に入ることもできんの?

 

ちなみに劇場ホームページには、車椅子スペースの場所は書かれていません。

具体的な場所は主催者が決めるのでしょうが、設備としてどこにあるか書いたらいいのに。これでは安心して観に行けません。

 

最新の劇場がこういう状況だったので、個人的にはガッカリ…。
 

東京都福祉のまちづくり条例の主管である東京都福祉保健局に、THEATER MILANO-Za(シアターミラノ座)からこういう回答が来たのですが…と問い合わせました。

 

  東京都福祉保健局の回答

 

東京都福祉保健局の方は、私の質問にも丁寧に対応してくださいました。

 

東京都福祉のまちづくり条例に基づいて事前に審査をしていれば、補聴システムはあるはず。
 
観覧席や客席の審査は自治体が行っているので、新宿区に問い合わせてください」
 
ということで、新宿区にどうなっているのか問い合わせました。

 

  新宿区の回答

 抜粋です。

東急歌舞伎町タワーについては、新宿区に対して、東京都福祉のまちづくり条例に基づく届出書が提出されており、区は申請図書を通じて、観覧席・客席(集団補聴設備)の整備基準が遵守されていることを確認しています。

区は届出者を通じて、THEATER MILANO-ZA(シアターミラノ座)に集団補聴設備が設置されていることを確認しました。
 
本件につきましては、スタッフの理解不足により、集団補聴設備が整備されていないとご案内してしまったとのことです。

このため、区は届出者を通じて、集団補聴設備を円滑に利用していただけるよう、案内周知を徹底することを事業者に依頼しました。

区は、引き続き適切な観覧席・客席の整備に向けて取り組んでいきます。
 
なんと!THEATER MILANO-Zaに補聴設備はあった模様!!劇場スタッフの理解不足で無いと案内されていたことが分かりました。
 
さらに、新宿区からMILANO-Zaに円滑利用できるよう依頼をされたとのこと。
ありがたいです。
 
今後に期待しつつ、私も改めてTHEATER MILANO-Zaに「補聴システムがあるようなので主催者に利用をお願いしたい、どんなものか具体的に教えて欲しい」と質問のメールを送りました。
(返事はまだ届いていません)
 

 

  補聴システムに関する考察と事例

 

何故、THEATER MILANO-Zaで補聴システムがあっても忘れ去られていたのか。
 
おそらくですが、劇場で補聴システムを含め設備をどう使うかは主催者が決めています。
つまり劇場から主催者にバリアフリー設備として補聴システムを使うように働きかけていないため、宝の持ち腐れになっていたのではないでしょうか。。?
 
 
きちんと活用している劇場もあります。
 
例えば、東京芸術劇場は主催舞台で補聴システム(ヒアリングループ)を利用できるようにしています。また、字幕のある舞台も多いです。
 
また、渋谷のPARCO劇場は2020年に改築、ホームページで補聴システムについて案内しています。
場所は書いていませんが確認したところ、利用できるのはHからL列のセンターブロックだそうです。

  法律の中身について

 
私は法律の専門家ではないので、色んな人に聞いたり条文を読んで感じた内容を書いています。
 
東京都福祉のまちづくり条例に基づく客席・観覧席の審査について、他の自治体にもヒアリングしたところ、ある自治体からはこんなお話がありました。
 
『東京都福祉のまちづくり条例に基づく審査において、劇場の客席エリアでは「車椅子スペース」と「補聴システム」の有無を確認しています。』
 
 
まず、東京都の条例により「補聴システム」設置が必須となっていたのは、大きな進歩だと思います。
 
確かに最近は補聴システムとしてヒアリングループがある劇場が増えてきたなと思っていました。
 
ただ、高度、重度難聴になってくると、ヒアリングループでは台詞を聞き取ることはできない人も多く、設備として「字幕」システムも必要です。
 
条例には字幕システムのことも一応書かれているのですが、、設備的には何か1つでもあればよいということなのでしょうか…。
 
リンク先の120ページから観覧席・客席について書かれています。ヒアリングループは壇上の手話通訳を見るために前の方に全体的に設置することを推奨されています。(123ページより抜粋)

 

また、車椅子スペースも設置数や、垂直水平に分散させることが書かれています。

ただ、端や最後列の見づらい場所に設置されることも多くTHEATER MILANO-Za(シアターミラノ座)も例外ではありません。
もっと様々な場所に車いすスペースが設置され、選択できるようになる必要があります。
中ほどの通路側の椅子が取り外しでき車椅子スペースになる仕様だと見やすいのではないかという意見を聞いたこともあります。
 
 
近年、大きな劇場には必ず車椅子スペースやスロープなどが設けられ、字幕や音声ガイドサービスを実施する劇場も少しずつ増えてきました。
そのため、劇場を訪れる障害ある人の数も増えています。
 
にもかかわらず、新築・改築された劇場の客席スペースに必須となっているものが「車椅子スペースの有無」と「補聴システムの有無」だけでは全く足りていません。
 
自治体に聞いてみて分かったことも沢山あり、対応してくださった方々には感謝しかありません。
 
真の共生社会に向け、当事者の声を元に法律もアップデートし続けて欲しいものです。