記事入力 : 2014/08/29 11:14
産経支局長の虚偽報道、「結論」発表できない韓国検察

 韓国検察が産経新聞の加藤達也ソウル支局長(48)に対し刀を抜いたのは、今月初めのことでした。加藤支局長が今月3日、同紙電子版に「朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」という記事を掲載し、朴大統領の名誉を毀損(きそん)したとする韓国市民団体の告発を受けた直後でした。
 この事件をめぐっては、5日に大統領府(青瓦台)が「断固とした対応」を取る方針を示し、6-7日に市民団体が告発、8日に検察が捜査に着手するなど、非常に速い展開を見せました。検察はすぐに加藤支局長に対し出国禁止措置を取り、18日と20日に事情聴取を行いました。一般の名誉毀損事件の処理が早くても数カ月かかることを考えると、まさに電光石火のスピードで捜査を進めたことになります。
 疑惑の当事者の一人であり、野党が「秘線の実力者」に挙げるチョン・ユンフェ氏に対する取り調べも、迅速に行われました。検察は加藤支局長の聴取に先立ち、今月半ばにチョン氏を出頭させ、事情聴取しました。問題となった産経新聞の記事には「旅客船セウォル号沈没事故の当日、朴大統領がある男性と秘密裏に接触していたといううわさが立った」という内容があり、その男性と目されたチョン氏への事情聴取は必須でした。これが事実かどうかによって、加藤支局長に適用する法律の条項が異なり、量刑や処罰の水準も変わってくるためです。
 加藤支局長は検察で「韓国の新聞などで報じていることを紹介したのがほとんどなので、犯罪事実を認めるのは困難だ」と繰り返したそうです。しかし、検察はすでに捜査の結論を出したようです。チョン氏がセウォル号沈没事故の当日に大統領府へ行った事実はなく、加藤支局長の起訴は避けられないと判断しています。検察は大統領府から当日の入館記録と警護室の関連記録などの提出を受け、分析しました。また、チョン氏も大統領府に行っていないと供述したそうです。 現在までの捜査結果だけを見ると、産経新聞の報道が正道を外れていたことは確かなようです。問題の記事は、一国の女性大統領の動静について、証券街の情報誌に載っているうわさを書き写したレベルに見えます。ところが、これまでスピーディーな捜査を進めてきた検察は、起訴の方針を固めていながらも、最終結論はまだ発表していません。
 それは、検察が幾つかの苦悩を抱えているためです。一つ目は外交的な部分です。加藤支局長を訴追すれば、ただでさえ冷え込んでいる韓日関係がますます悪化しかねないという懸念です。検察の関係者は「捜査結果を見れば、日本政府が加藤支局長の処遇を公に問題視することは難しいだろう」としながらも「日本人に対する刑事処罰問題なので、慎重になっているのは事実だ」と話しています。
 加藤支局長が記者だということも悩みの種となっています。もちろん、記者が免責特権を持っているわけではありませんが、記事が事実と異なっているとしても処罰を受けずに済むこともあります。報道の自由を保障するため、韓国の刑法第310条は「名誉毀損行為が公共の利益に関するものであることが真実だという証明があるか、行為者が真実だと信じる理由があれば、違法性が阻却される」と規定しています。検察は、こうした状況で加藤支局長を処罰すれば、報道の自由を過度に制限しているとの批判が出かねないことを懸念しているようです。
 さらに、捜査の初期から一部で提起されていた「請け負い捜査」との批判も、検察としては気にしないわけにはいきません。市民団体の告発を受けて電光石火で捜査を進めたことに対し、大統領府の意向に配慮し過ぎだとの指摘が出ているのです。
 それでも、今の雰囲気を見ると、検察は朴大統領をやゆするかのような産経新聞の報道を適当にやり過ごすことはなさそうです。検察がどんな結論を出すかが注目されます。

テレビ朝鮮=チョン・ビョンナム記者
チョソン・ドットコム/朝鮮日報日本語版