すばらしくも前衛的な動画を視聴した。NHKが散逸したフィルムの発掘を全国各地に呼びかけている事業「NHKアーカイブス 番組発掘プロジェクト」にて、このたび長年にわたってフィルムが行方不明とされてきた人形劇「ネコジャラ市の11人」の初期オープニング映像が、当時の演出を担当されていた方が保管されていた関係で見事に発掘。音源のみ残されていた主題歌と合わせて同HPにて公開されたのだ。NHKさん、グッドジョブ!(http://www.nhk.or.jp/archives/hakkutsu/news/detail.html?id=059)
この人形劇。昭和45年4月から昭和48年3月まで約3年間にわたって放送された人気番組…のはずなのだが、同じくNHK夕方の人形劇シリーズである「チロリン村とくるみの木」や「ひょっこりひょうたん島」「空中都市008」よりも、残されたフィルムや資料は乏しく(なにしろ、ただの一本すら現存していないというのが凄い!)、後から始まった「新八犬伝」「真田十勇士」「笛吹童子」「紅孔雀」「プリンプリン物語」よりもマイナー扱いされ、現在も人形劇の金字塔とされる「ひょっこりひょうたん島」と同じ、井上ひさし、山元護久らの脚本、人形劇はひとみ座、音楽は宇野誠一郎という強力布陣にも関わらず、不遇な扱いを受けている作品。映像素材が残っていないのだから当然、再放送もなく、ビデオやDVD販売の機会もない。徐々に当時視聴していたはずの人々の記憶からも忘れ去られ、3年間も放送されていたにも関わらず「マイナー作品」「幻の人形劇」などと失礼極まりない肩書きで呼ばれているのである。
「ひょっこりひょうたん島」が終了して、ちょうど2か月後に生まれた私は、この「ネコジャラ市の11人」こそが、最初の記憶にあるNHK人形劇だった。もう一つおまけに、当時住んでいたマンションの隣にNHKの社宅があった関係で、なんだかんだと社宅に住むお友達を通じてNHKの番宣グッズ(ハガキやシール、下敷きなど)をもらう機会が多かった。初めて手にしたマイ下敷きも「カラーテレビにはカラー契約を」という注意書きマークも仰々しい、この番組の番宣用グッズだった。
40年以上ぶりに目にしたはずの「ネコジャラ市の11人」のオープニング映像だが、これがまったく記憶にない…。「♪ネコジャラ行き一日一本、6時5分発ズタボロ列車~」「重い荷物は積めない。重い荷物は捨てて行こう~」とハイテンポにアナーキーな歌詞が続く主題歌もCD等で聴いたことはあるが、私が観ていた「ネコジャラ市~」の主題歌とは違う。というのも、この番組、前半の主要キャラクターは火山の爆発によって、ほとんど死んでしまって(生死不明?)、あまりに唐突にガラリとキャラクターやら何やらが入れ替わってしまったそうなのだ。
幼い私が記憶に残していたのは、おそらく後半も後半の「ネコジャラ市~」だったのだろう。それにしてもNHKが発掘に成功した初期OPのテンポと画面展開の速さ、前衛的かつサイケデリックな感じは驚きの一言! 1970年代の「みんなのうた」にも多いのだが、アニメーションと実写映像(ビデオではなくフィルム)の合わせ技で、何かとてつもない怖い雰囲気を作り出しているモノが多く見受けられる。これを機に人々の記憶から忘れられつつある「ネコジャラ市の11人」の発掘作業が進み、日本、いや全世界のどこかから番組その物のフィルムが見つかることを祈りたい。
写真は、これまた珍しい「ネコジャラ市の11人」のセイカテレビノートという商品だ。大学生の頃(1990年ぐらい?)、授業中にノートがなくなってしまったので、大学そばの文房具店にノートを買いに行ったところ、その文房具店は目下閉店セール中。店主いわく「もう閉店しちゃうから、倉庫の中のモノも全部売り切っちゃうんだ。1冊の値段で1束持ってていいよ」と言われ、未開封の束ごと買ってきたのが、この「ネコジャラ市の11人」のノートだった。まだ現在のように、古いTV番組グッズに「お宝」的な価値を見出す人も少なく、文字通りの投げ売り&叩き売りで昭和30~40年代のさまざまな文房具&グッズを入手してきたものだ。
黄色いノートの表紙はガンバルニャン、ドサ・ザ・グレート、ミス・プリント、ライ・ヤッチャ将軍、ホニャという初期キャラクター(黒猫のガンバルニャン以外は例の火山爆発で死亡)に混じって、後期キャラのズズチャズ・ズチャーズ(声は若山弦蔵)が中央にいるという不思議なイラスト。それでいて後期の実質的主人公である3代目ネコジャラ市長のバンチョ・ホーホケ卿(声は藤村有弘)の姿は見当たらない…。
もう一つのノートはパラシュートで落下しているドサ・ザ・グレート、ライ・ヤッチャ将軍の足にしがみつくクマタン、そしてガンバルニャンというイラスト。セイカノートの定番である裏表紙の工作グッズには、その他、先日亡くなった愛川欽也さんが声を担当していたアップル君やチャビンシュタインの姿も確認できる。しかし、この工作、一体ナニを作れというのか? サッパリ分からないところがミソだ。鉛筆立てでも時間割表でもない。単なる登場人物たちが車に乗っている紙製の置物ってことだろうか…。
「ネコジャラ市の11人」の放送がスタートして45年、このノートを購入してからも早や四半世紀が過ぎた。初期主題歌の歌詞にあるように「みんな捨て~ろ」とはいかず、まだ押入れの片隅でキチンと保管してある。