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 一昨日のに続きですが、ビル・エモット氏は最新のVoice(8月号)で、「世界経済における七つの明白な事実」として、以下を列挙しています。
 まずは前提として、今回の危機について、これまでのインフレ危機とは異なり、金融ショックや需要の大幅減退に起因するとして、唯一、日本のみがこの種の景気後退に順応していると書いています。(あまり嬉しくないけど) 逆の言い方をすれば、世界のほとんどの国にとって、今回の危機の「種類」は戦後初めてのケースになるわけです。
 その上で、以下七つを列挙しています。

Ⅰ.激減する民間需要は、増大する公的需要に代替されているか、少なくとも補償されており、民間負債は公的負債に置き換えられている。

 以前、↓こんな図をご紹介いたしましたが、
日本の民間企業純負債、政府純負債推移 1990年-2008年】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_19.html#junfusai
 バブル崩壊後の日本は、民間負債(日本の場合は主に企業)が減っていく中、政府の負債が増えました。もしもストック上で政府の負債が増えなければ、日本のフロー(GDP)は「少なくとも」二、三割の激減は免れなかったと推定しています。
 今回の危機が問題なのは、政府が負債を増やすと簡単には言っても、かつての日本は国内の金融資産が充分だったのに対し、他の国は必ずしもそうではないということです。
 最近、欧州主要国が相次いで赤字国債の大量発行に踏み切っています。(ついでに札割れも連発していますが。)
 ドイツは今年はもちろん、2010年も861億ユーロ(約11兆円)の国債増発を決定しましたが、これは2008年の約八倍の規模になります。
 ドイツだけではなく、フランスやイギリスも国債発行額が第二次大戦後の過去最高になる予定で、各国の長期金利は上昇していかざるを得ないでしょう。(イギリス以外のユーロ諸国は、ECBによる長期国債買取が可能とも思えませんので。)
 そして、ここが重要ですが、欧州諸国は日本のように国内の金融資産が潤沢ではないので、グローバルな市場でマネーの奪い合いが発生する可能性が高いのです。つまり、国債発行による政府の資金調達が必要なのは、別に英独仏などの主要国ばかりではないわけです。中東欧バルト諸国などの政府も、切実にマネーを必要としていますが、英独仏が国債を増発すると、当然ながらその他の欧州諸国の政府の資金調達に齟齬が生じることになるでしょう。

Ⅱ.中期的な観点に立てば、多くの国で、財政赤字を漸次削減するため税金が引き上げられ、公共投資が削減されるだろう。

 別に↑これを否定する気はないですが、政府の資金調達先が国内か、あるいは海外かにより、財政赤字のリスクは異なります。少なくとも、資金のフローがほぼ国内に閉じている日本は、単純に民間の代わりに政府が負債を増やしているに過ぎないわけです。民間の資金需要が充分に高まるまでは、政府の支出拡大の手を緩めるべきではないでしょう。1997年の二の舞は勘弁です。
 もちろん、政府が外貨建てで海外から借りている国は、日本とはリスクが桁違いです。何しろ、各国政府はドルを刷ることはできませんから。

Ⅲ.世界の三大経済国(日本、米国、中国)において、膨張する財政政策は、長期にわたって政府機能を構造的に拡大させ、とくに社会保障政策が強化されるだろう。

 日米については異論はありませんが、中国の場合、社会保障「ビジネス」が強烈に既得権益化していますので、なかなか難しいのではないかと。方向的には、もちろんそちらの方が望ましいわけですが。そもそもアメリカにしても、政府の社会保障拡大政策について、反対する既得権益者(保険会社など)は少なくなく、パワーも物凄いのです。

Ⅳ.貸し手や投資家は、景気後退のあいだ、また恐らく景気回復後も、リスクを取ることを避け、用心深くなるだろう。

 日本を見ていると、そんな気が致しますが、ウォール街の人たちはどう動くでしょうか。気になります。

Ⅴ.インフレよりもデフレ、すなわち価格や賃金の下落が起こりやすい。

 そりゃそうです。

Ⅵ.製造業とその輸出が大きな役割を果たしている経済大国は、今回の世界的な景気後退の最初の六ヶ月間、最も大きな打撃を受けている。

 特に、日本の場合は資本財が輸出の過半を占めているので、各国の在庫調整の影響をまともに受けてしまいました。とは言え、エモット氏が書いているように、
『しかし遅かれ早かれ、製造業が在庫を拡大した影響は解消されるだろう。生産業者はやがて在庫が少なすぎることに気づき(中略)ドイツや日本、その他の製造業が強い国々は、在庫を補充するため生産が回復するので、急速に力強く立ち直るだろう。これによって、2009年後半の見通しは好転するものと思われる。 Voice8月号 P36』
 在庫調整分は戻るでしょうが、肝心の最終需要減少分、すなわちアメリカの消費縮小分は、しばらくは厳しいままでしょう。

Ⅶ.貧しい国あるいは発展途上国のなかで、国内需要を増大させ、安定して国内から資金調達ができるところは、世界的な景気後退に耐え、素早く力強い回復をすることができるだろう。つまり、中国やインドが、今後の数年間、富める国よりも好結果を生み出せるということだ。

 要するに、政府支出のための財源確保ができる国と、できない国では、天と地の開きが出てしまうということですね。そういう意味で、中東欧バルト諸国は、相当に厳しい状況に突入しそうです。
 また、中国ですが、国債未達三連発をやる前であれば、わたくしもエモット氏に同意したところですけどね。インドはよく分かりません。

 このように見てみると、世界各国はものの見事に「バブル崩壊後の日本化」しつつあるわけです。極端な需要縮小と投資激減によるフローの危機を、政府支出により下支えする。民間の負債が激減していく中、政府の負債が拡大していく、というわけです。
 そして、一部の国は↑これさえもできずに、フローが崩壊してしまう。
 これほどの大変動が、わずか一年も経たずに進行しているわけですから、恐るべき事態と言えます。

 ところで、エモット氏の寄稿はまだまだ続くのですが、氏がヨーロッパ経済について書いた部分が興味深かったので、そこだけご紹介いたします。

『しかしその他(注:イギリス以外という意味)のヨーロッパ諸国、とくにドイツやハンガリー、それに中東欧諸国については確信がもてない。おそらくヨーロッパにおいて銀行の安定性への不安は、アメリカやイギリス、それに日本のそれよりも長く続くものと考えられる。 Voice8月号 P38』

 そりゃあ、銀行のストレステストもやれない、やっても発表できない状況では、そう思いますよねえ・・・。

日本よりも長いって、欧州の銀行はどんだけ酷いんだ! と思った方は

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