「いぇーーーーーい!当選おっめで、とぉ、ぉう?・・・っておいっ!なんで風間がここに入ってくんだよ?」
部屋に入った私を見た直後に、その後ろにぴったりと張り付いて薄桜鬼のメンバーに睨みを効かせている兄を見て平助くんが大声で言った。
「おいおい、関係者挨拶はこのあとだろ?」
「僕たち今からそこの可愛いファンの子とお話するんだから出てってくんないかなぁ?」
左之さんや総司さんもそう続ける。
「土方さん、なにゆえ風間をこの部屋へ」
寡黙な斉藤さんまでもが土方さんに尋ねると、今度は新八さんが土方さんに詰め寄った。
「そうだよ、土方さん!はやく追い出してくれよ!」
「うっ・・・いや、それがだな」
「なんだなんだ、まったく礼義知らずの粗野なお子様たちだな」
(わぁーーーーお兄ちゃんっ!そんな挑発する様な事言わないでよーーーっ!)
「当選者は・・・この・・・風間さん・・・なんだ、が」
のっけからメンバーにギャーギャー言われた土方さんは、ぼそぼそと歯切れ悪く、小声で私を紹介した。
私はと言うと、夢にまで見た生の薄桜鬼メンバーが目の前にいるというのに、予期していなかった兄の登場のせいで嫌な汗をびっしょりかいていた。
さっきまでのドキドキはもう種類の違うものになって、今では私の心臓に重苦しく負担をかけている。
「・・・か、ざま?」
「へ?なぁーに訳わかんねえ事言ってんだぁ、土方さん」
「性格は前からだけど、いよいよ頭までおかしくなっちゃったんですかぁ?」
「冗談だとしても理解に苦しみますが・・・」
「ま、まさか・・・この嬢ちゃん、風間って名前・・・なのか?」
メンバーが一斉に5人5様の感想を口にすると、土方さんが答える代わりに兄が口を開いた。
「ふん、俺様の可愛い妹だ」
「・・・風間、千鶴です・・・」
恥ずかしくて、泣き出したくて・・・複雑な気持ちで私は会釈するとメンバーは兄と私を交互に見比べ、部屋の中には沈黙が落ちた。
しばらくして、土方さんが
「んー・・・と、まぁ、その・・・あれだ。せっかくだから、そのー・・・な、斉藤?」
斉藤さんに無茶ぶりをする。
「んぐっ・・・そ、そう、ですね」
斉藤さんが声を詰まらせると、平助くんが慌てて言った。
「まっ、すっげー偶然っつぅか、神様のイタズラっつぅか」
「そっ、そうだな・・・まさか風間の妹がこぉんな可愛い子だとはな」
「左之さん、それなんか話の流れちがくねぇか?」
「えっ?あっ?そ、そういう事じゃねえのか?」
「ばっかだなぁ、左之は。風間が俺達のファンで、まさか応募してしかも当たっちまうなんて!・・・っていう話だろ?」
「ちげーよ!新八っつあん!ったくどいつもこいつも頭悪ぃな」
「ふぅ・・・ほんと君たちって、アレだよね」
そんな3人のやり取りを見て、総司さんが悩ましげに頭を抱えた。
「おい、土方・・・薄桜鬼はいつから漫才集団になったのだ?」
兄の厭味な一言に、ぐうの音も出ない土方さんは
「・・・ちっ。風間、ちょっと来い」
大きな舌うちをして、強引に兄の腕を掴み部屋を出て行ってしまった。
(こ、こんな状況で取り残されるなんて・・・)
兄が居たら居たでそれは困った状況だったけれど、正体がバレてしまった今、ぽつんと入り口で立ったままの私はどうしていいか分からず途方に暮れてしまった。
すると、
「要するに、だ」
斉藤さんが椅子から立ち上がり、私のすぐ目の前までやって来た。
「君は風間の妹で、今回の当選者なのだな?」
私は間近で見た斉藤さんの瞳に吸いこまれそうになりながら、無言で首を縦に振った。
「君の様子から察するに、風間・・・お兄さんと一緒に居るのは偶然か何かなのだろうか?」
さすが晴らしい観察眼だと思いながら、私はうんうんと頷いた。
「へぇ~、だったら土方さんと風間が外にいるうちに、っと」
今度は総司さんが椅子から立ち上がり、私のすぐ横までやって来た。
(う、うわぁ・・・カッコいいよ、ヤバイよ・・・)
「当選おめでとう、いつも応援ありがとね」
総司さんは右手を差し出し、握手を求めて来た。
「は、はいっ・・・こちらこそ、有難うございます!」
恐る恐る右手を出すと、総司さんの綺麗な指先に触れた。
写真やDVDで見る、マイクを持つ彼の指がとても綺麗だといつも思っていた。
きちんと手入れされているような指先は、女性のものの様に美しかった。
(その指に、今私は触れているんだぁぁああっ)
総司さんとの握手をきっかけに、平助くん、左之さん、新八さんもこちらに向かって歩いてきた。
そしていつの間にか私はメンバー5人に囲まれる形になってしまった。
四方八方、どこを見ても綺麗な顔がこちらに向けられていて・・・この時ばかりは兄を忘れて、もう失神しそうだった。
「改めて、当選おめでと、ありがとな!」
平助くんは人懐こい笑顔で、手を差し出した。
思っていた以上に華奢なこの身体で、どうやったらあんな激しいギタープレイが出来るのだろう?と考えながら、握手を交わした。
「千鶴ちゃん、はじめまして。今日は来てくれてありがとう」
左之さんは耳がこそばゆくなるセクシーな声で私の名前を呼んだ。
握り返した手は、7弦ギターも軽く握って弾きこなす彼のイメージ通り、少しごつごつとして大きかった。
「こんばんは、今日の俺のソロ、どうだったぁ?」
ニヤリと笑って出した新八さんの手は、彼の人柄がそのまま表れているみたいにとても温かくて、力強かった。
「さきほどは、みなが取り乱してすまなかった」
斉藤さんは軽く頭を下げてから、すっと流れるような所作で手を差し出した。
その手は透き通るように白く、いつも地響きのようなベースを弾いている事が信じられないほどほっそりとしていた。
全員と握手を終えると、総司さんが入り口のドアを背にした私の後ろにすっと廻り込む。
カチャ、と音が聞こえたと思ったら
「おい、総司・・・なにゆえ鍵を閉めたのだ?土方さんに後から怒られるのではないか?」
斉藤さんが驚いた表情で総司さんに尋ねた。
「えぇ?だってぇ、土方さんと風間が戻ってきたらウザいじゃん?時間は限られてるんだしさ、今のうちに楽しく歓談しようよ」
悪戯っぽい口調で言って首を傾げ、ねっ?と私に微笑みかけた。
「そうだな・・・だいたいさぁ土方さんてさぁ、マネージャーなのにファンの子に手紙いーーーーっぱい貰ったりしてさぁ、なんかムっかつくんだよなあ」
「そうそう、メンバーの誰かさんよりイケメンってのもどうかと思うよなあ」
「おい、左之・・・なんでこっち見てんだ?こら」
「総司、俺は一応止めたからな・・・」
左之さんの発言に爆笑する平助くん。
新八さんに首を絞められながらへらへらしている左之さん。
そんな2人に噛みつきそうな勢いで怒鳴り散らす新八さん。
総司さんの悪知恵に、呆れ顔する斉藤さん。
ついさっきまでステージで鬼気迫るパフォーマンスと強烈な音を鳴らしていたアーティストだとは思えないほど、5人は自然体で、ここはとっても楽しい空間だった。
ふと、さっき関係者受付で通りすがりのファンに言われた事を思い出して、私は手ぶらで来た非礼を詫びた。
「すみません、私・・・差し入れとか、プレゼントとか何も持って来ていなくて・・・」
「なぁに言ってんの」
「そーそー、そんな風に謝んなって」
平助くんは私の肩にポン、と手を乗せた。
すると、その手を新八さんがぱっと払いのけて
「この企画は日ごろ応援してくれてるファンの子へ、俺たちからのお礼みたいなもんなんだからよ」
「おおっと、新八。お前もたまにはいい事言うじゃねえか」
「なんだと?左之。たまにはってどういう事だよ?」
今度は新八さんの言葉を遮って
「その通りだ、新八の言うようにお礼をすべきなのはむしろこちら側なのだ」
斉藤さんが少し照れくさそうに笑いかけてくれた。
(みんな・・・凄くいい人・・・なのに、どうしてお兄ちゃんたちは仲良くできないんだろう?)
楽しくて嬉しいのに、兄との関係を考えて、また複雑な気持ちになってしまった。
そして私は携帯で集合写真を撮って、1人1人と2ショット写真まで撮らせてもらい、更には今日買ったパンフレットに全員のサインを入れてもらうという大大大サービスを受けた。
集合写真と言っても、ここにはメンバーと私しかいなかったので、何故かメンバー間の多数決で新八さんが撮る係になってしまったのだったけれど・・・。
ちょうど制限時間の10分が過ぎた頃、ドアを強く叩く音と、土方さんと一緒になって部屋に向かって怒鳴っている兄の声が聞こえた。
「はいはいはいはい、もううるさいなぁ」
総司さんがぶつくさ言いながら解錠すると、ドアは勢いよく開いた。
「ばっかやろう!なに鍵なんかかけてやがるんだっ!?」
「おいっ!千鶴・・・大丈夫か?何か変な事されなかったか?」
土方さんは総司さんに、兄は私に向かって大きな声を出した。
「やだなぁ、土方さん・・・鍵、わざとじゃないですよ・・・おっかしいなあ、壊れてたんじゃないですかね?」
「変な事って、お兄ちゃん、失礼な事言わないでよっ!」
私と総司さんは同時に答える。
「とにかく、もう用は済んだのだろう?用が済めばこんな処に長居は無用だ、行くぞ」
私は兄に肩を抱き寄せられて、部屋から連れ出されてしまった。
「じゃあねー、またライブ来てくれよなっ!」
手を振る平助くんを遮るように、兄が廊下側から勢いよくドアを閉めた。
色々とハプニングがあって散々だったけれど、あっという間の10分だったけれど、私は兄に引きずられながらも自然と笑顔になってしまっていた・・・。
【続く・・・】