講演のために仙台に行った私、前泊して作並温泉に宿をとったのである。
が、しかし、北関東と東北を襲った大雨の翌日だったため、宿泊した岩松旅館の名物・渓流露天風呂がどうなったかわからなかったのである。
宿に着いて聞いてみると、渓流露天風呂はやはり大雨ですべてが川に飲み込まれ、土砂に埋もれているそうなのである。
が、しかし、「平さまがせっかくお見えになられたわけですから、いまから従業員総出で手作業で掘り出し、15時にはご入浴いただけるようにいたします」と言っていただいた。
‥‥というのは私の頭に浮かんだ妄想であり、「すべてのお客様のために」渓流露天風呂は掘り出されたのである。この様子は翌日の仙台の地方紙にも載っていた。
お風呂に入るとさすがに少しザラザラしていたのであるが、そんなことは気にならないほどの良泉であった。
とてもまろやかで柔らかな、素晴らしいお湯であった。いままで、この作並温泉に来なかったことが悔やまれるほどであるが、今回、私はこの宿に連泊するのである。
この週末、仙台では年に一度のジャズ・フェスティバルが開催されていた。公園や通りなどで楽器を演奏したり、歌手が歌ったりしているのである。そう、まさに、至るところで、なのである。
さらに、土曜日はミスチルのコンサートともかぶっており、そのせいで、ホテルがまったくなかったのである。
私の講演は1時半からだったのであるが、仙台に来たのだから昼食には牛タンを食べねばならない。せっかくの機会だから、ジャズ・フェスティバルも楽しみたい。朝から大忙しだったのである。
講演後は恒例の打ち上げがあったが、私はお酒が飲めなかったのである。なぜなら、この仙台市内から宿である作並温泉への、45分間にわたるドライブが待っていたからである。
翌日、私は作並温泉から山形方面に向かい、以前から一度、リサーチしてみたいと思っていた山寺に行ってみたのである。
この山寺は、松尾芭蕉が滞在し、あの有名な「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」という句を作った場所である。
が、しかし、登山をするように歩かなければ、山の頂上にある山寺にはたどり着けないのである。そのために、私は宿に宅急便で登山グッズ一式を送っておいたのである。
山形県はフルーツ王国として名高い。山寺に行く途中、ラ・フランス、つまり、洋なしがものすごく安く出ていたので、事務所に送った。
が、のちにこれが一大騒動を巻き起こすのである。
ラ・フランスを受け取った事務所では、「これは、われわれが“用無し”であるというメッセージか?」、「社長からの解雇通告だ!」などと大騒ぎになるのであるが、この話は、後日、書くこととする。
このあとは蔵王温泉を経由して、福島県に向かう予定だった。が、山寺に登頂し、汗だくになっていたこともあり、蔵王温泉でひとっ風呂浴びたかった私は、あの有名な蔵王温泉大露天風呂に向かったのである。
この大露天風呂、とある理由で有名なのである。
私は個人的に“チンコ丸見え温泉”と呼んでいるのである。駐車場にクルマを置き、そこから歩いていくのであるが、もう、その時点で男風呂が丸見えである。
ほんとうに、丸見えなのである。まったく、なんの配慮もされておらず、丸見えなのである。
そして、常連であろうおじさんは、露出狂といっていいかもしれないぐらい無防備である。
この演出のおかげで女性客が2割増えたなどという話は聞いたことはないが、きっと増えたことと思う。
そして、いまから私も動物園の檻の中にいる動物のように、晒し者になりにいくのである。
が、結果的に、この大露天風呂には行けなかったのである。この日はずっと雲行きが怪しかったのであるが、蔵王に着いてから、ものすごい土砂降りになったのである。
露天風呂であるからして、シャンプーする手間が省けるといえばその通りなのであるが、それさえも躊躇するほどの土砂降りだったのである。そこで、さっさと宿に向かい、内風呂で過ごすこととした。
蔵王温泉は酸性泉、つまり、サンポールに直接つかるのと同じぐらい酸が強い。つかったが最後、体中のバイ菌は瞬殺である。目に入ると、とてもしみる。が、目のバイ菌も瞬殺である。
こうして、平さまは久々に殺菌され、浄化され、ピュアーになったのである。
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