津軽では、とうもろこしのことを『きみ』と言う。弘前市の嶽(だけ)地区、そこには美味しい美味しい嶽きみがある。今から2世代前の樺太からの入植者、佐藤さんが初めて栽培した。このアメリカ産のとうもろこしは、日本で誰一人栽培した事のない品種だったが、苦労の末栽培に成功し、寒暖差の激しい嶽地区で次第に栽培農家が増えていく。岩木山麓に広がる丘陵地からは聳える岩木山を望む。
子供の頃、とうもろこしは夏を過ぎてのおやつだった。スイカやメロンが終わったあと、一斉に出てくる。当時は嶽きみは発展途上で、青森市及び近隣の町村で収穫された地物だったろうと思う。
白っぽいもの、黄色っぽいもの、黄色と黒が混ざった、お歯黒きみと呼んでいたものなどさまざまな種類が出回る。
とうもろこしは常に母が買って来た。大きな鍋で一度に5〜6本茹でる。僕は「まだ?」「まだ?」と何度も聞いた。茹で上がった直後は熱くて持てたもんじゃない。しかし、温かい方が美味しいと分かっているので、指3本の先でツンと軽く叩いて、持てる様になったかどうかを確かめたものだ。
一本まるまる食べるとは限らない。もうすぐご飯の時間だから、半分ずつにしておきなさいと言われたり。ところが、子供にとってはとうもろこしを折るのは結構難しかった。割ったあとどちらを食べるかを姉と相談。僕は、大きな粒が揃った頭の方も好きだったが、先細って段々と粒が小さくなる先端も嫌いじゃなかった。塩味を少し強く感じるのが好きだった。
とうもろこしを煮る前の下準備は子供の仕事。新聞紙を広げて、皮を剥いで、ヒゲと呼ばれた細い繊維を取る。これがイライラする。だが適当にやってしまうと、いざ食べる時にやたらと歯に挟まることになり後悔する。
今はあちらこちらの産地で甘くて美味しいとうもろこしが獲れる。しかも、ネットの時代。一本二本じゃなく五本以上だと送料も高く感じないのではないだろうか。色々な食べ物が楽しめる時代である。
もう時期が過ぎているのに、書いている今、頭の中が茹で上がったとうもろこしの姿と匂いで充満している。