番外編
『fate』if…
*10*
M side
「大丈夫だ・・・
俺が、そばにいる・・・
何も、心配するな・・・」
優しく、何度も、背中や頭を撫でる大きな手が、耳元で囁くその優しい低い声が、私に、大きな力と勇気を与えてくれている気がした。
ひとしきり泣いたあと、私が落ち着くのを待って、テギョンさんが、
「子どもに、会わしてくれないか?」
と聞いてきた。
「今すぐじゃなくて、いい。きっと、あっちも、俺も、心の準備が必要だから。
・・・日曜日、子どもが、行きたい場所に、行こう。何処がいい?」
「水族館・・・」
日曜日に会う約束をして、私は、家に帰っていった。
テファに、どうやって話そう・・・
あのコは、受け入れてくれるかしら・・・
夜、ふたりで、一緒の布団に入りながら、今日の出来事を話すのが、日課だった。
「ねぇ、テファ。日曜日にね、会ってほしいヒトがいるの・・・」
「どんなヒト?」
「テファの本当のお父さん。
テファに、会いたいって・・・
お父さんに会ってくれる?」
「わたしに、パパがいたの?」
「・・・そうよ。ごめんね、テファ。ずっと、秘密にしてて・・・。ママがずっと、お父さんに、テファのことを秘密にしてたから・・・。お父さんは、悪くないの。だから、お願い・・・お父さんを、嫌いにならないでね・・・。ごめんね、テファ・・・」
私は、流れ落ちる涙をテファに見せないように、テファを抱き締めた。
「ママ・・・?ママは、パパのこと、スキ?」
「もちろん・・・大好きよ。」
「うん、わかった。じゃあ、わたしも、パパに、会ってみたい。」
「本当に・・・?ありがとう、テファ。あなたは、本当にお利口さんね。大好きよ、テファ・・・。
きっと、お父さんも、喜んでくれる。日曜日に、一緒に、水族館に行こうね。そこで、お父さんが、待ってるから・・・。」
「うん。私も、ママが大好き。」
そして、日曜日。
テファは、一番のお気に入りの服を着て、水族館に向かうけど、どことなく、顔が緊張して、ソワソワしているのが、わかった。
水族館の入口に、テギョンさんがいた。
テギョンさんが、私たちに気付く。
私は、テギョンさんに頭を下げた。
テファは、テギョンさんの顔を見るなり、すぐに、私の後ろに隠れてしまった。
「ほら、テファ。ちゃんと、ご挨拶して。」
「こんにちは、コ・テファです。
ねぇ、ママ、この男の人が、『パパ』になる人?」
テファは、興味津々な目で、テギョンさんを見つめていて、テギョンさんは驚いて、目を丸くしながら、テファを見つめていた。
『すみません・・・勝手に教えて・・・』テギョンさんに頭を下げながら、テファに、テギョンさんを紹介した。
館内に入ると、日曜日だけあって、家族連れが多いように見えた。
一歩前を行くテファは、水槽の中にいる魚や動物たちに、目を輝かせて楽しんでいるけど・・・私たちの一歩後ろを歩いているテギョンさんを、人混みが多く、騒がしい場所に連れ出してしまったな・・・と、後悔していた。
「色々とすみません、テギョンさん・・・」
「別に、気にしていない」
「ねぇ、ママ、見えない!!」
テファが、イルカがいる水槽の前で、背伸びをしている。
水槽の前には、人垣があり、見えないようだった。
どうしよう・・・と考えていると、横にいたテギョンさんが、先に、テファに近寄り、テファを抱き上げていた。
「うわぁ~!!すご~い!!」
「見えたか、テファ?」
「うん!!見えた!!」
他の家族連れと変わらない、父娘の楽しそうな光景に、胸が熱くなった。
大丈夫かな・・・
心配だったことが、またひとつ、減っていく。
テファは、テギョンさんと手を繋ぎながら、ニコニコと楽しそうに笑っている。
お土産に、シロクマのぬいぐるみを買ってもらって、テファは、終始ご機嫌だった。
ただ、別れのとき、テギョンさんの手をなかなか離してくれないテファには、本当に困ったけど・・・
それから、無理を承知で、テギョンさんにテファを預けながら、私は入院の準備を進めていた。
テファは、『今日ね、パパと、〇〇に行ったの』と、夜、私に、楽しそうに報告をしてくれた。必ず、『今度は、ママも一緒に行こうね』と約束をして・・・。
入院に伴い、私たちは、住み慣れたアパートから、テギョンさんのマンションに引っ越すことになった。
私たちが住んでいたアパートより、倍以上ある大きな部屋には、テファの部屋まで用意されていた。
「家政婦のキム・ヒナムさんだ。ファン家で、俺の世話係をしてくれていたんだ。俺が留守の間は、このヒトが、テファの世話をしてくれる。」
「コ・ミニョです。娘を、よろしくお願いします。」
「はい、お任せてください。奥様が、早くお元気になって、お戻りになる日を心待ちしておりますよ。」
『奥様』って・・・
いいのかな・・・
入院前夜
テファを寝かしつけると、テギョンさんに呼ばれた。
「大丈夫か・・・?」
「少し、不安ですけど・・・大丈夫です。」
ギュッと抱き締めてくれる、その温かなぬくもりが、何よりも安心感を与えてくれていたから。
「ミニョ・・・無事に退院したら、結婚式挙げよう。本当は、今すぐにでも、籍だけでも入れたいんだが・・・」
「あの・・・私で・・・いいんですか?」
「今更、何を言ってるんだ?
お前以外、ありえない。
愛してるのは、ミニョ、お前だけだ。
だから、
1日でも早く元気になって、俺の元に、帰ってこい・・・」
「・・・はい
・・・テギョンさん・・・愛してます・・・」
嬉しくて、嬉しくて、泣いてしまう。
テギョンさんは、ニッコリと微笑むと、返事の代わりに、息が出来ないくらいに、たくさんのキスをくれた。
一緒のベッドで、テギョンさんのぬくもりをいっぱいに感じながら、眠りに就いた。
必ず・・・
あなたの元に・・・
帰ってきます・・・
★★★★