「Secret moon」32

「母」




「ミニョ・・・お前は・・・一体・・何を・・・バカなことを言ってるんだ!?俺は・・・腹の中の赤ん坊の生命より、お前の命の方が大事だ。
お前を失ったら、俺は、生きていけないんだ・・・」

ミニョの聞き捨てならない言葉に、テギョンは、ベッドから跳ね起き上がると、ミニョの手首を掴み、ベッドに組み敷いた。
怒っているような、泣いているような、顔を歪ませたテギョンの表情に、ミニョの胸は苦しいほどに締め付けられていた。

“私も・・・同じです。テギョンさんから、離れたくない・・・ずっと、ずっと、一緒にいたい・・・
だけど・・・このコも守りたい・・・自分の命よりも、大事なモノを見つけてしまったから・・・このコを守れるのなら、命を捨てても構わないと、そう思ってしまったから・・・”

どうしようもない思いに、ミニョの瞳からは、堪えきれず、涙が幾筋も流れ落ちていた。

「ごめんなさい・・・テギョンさん・・・ごめんなさい・・・」

泣きながら謝り続けるミニョに、テギョンもまた、胸が締め付けられていた。
テギョンは、掴んでいたミニョの手首を解くと、ミニョの涙を指で拭い、頬を優しく撫でると、ミニョの身体を抱き締めた。

「ミニョ・・・悪かった・・・。
お願いだから、今は、そんなことを考えないでくれ・・・」

「・・・はい・・・テギョンさん・・・ごめんなさい。」

「もう、謝るな。」

暫くの間、テギョンは、ミニョの髪や背中を撫でていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「テギョンさん、食事の用意が出来ましたよ。」

ドアの外で、ジェヒョンの声がする。

「どなたですか?」

「ああ、まだ、紹介してなかったな。俺とお前の命の恩人だ・・・」

首を傾げるミニョに、テギョンは微笑むと、ベッドから身体を起こし、着替えを済ませた。
続いて、ミニョの身体を、ベッドから抱き起こし、ローブを羽織らせた。
そのまま、横抱きをして、リビングへと連れて行くと、ソファーに降ろした。

「おはようございます。お加減はいかがですか?」

ジェヒョンは、柔らかな笑みで、ミニョを見つめている。

「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」

「ちょっと、失礼。」

ジェヒョンが、ミニョのお腹に触れながら、触診をはじめる。

「痛みはありませんか?」

「はい。」

「胎児もだいぶ、大人しくなったみたいですし、暫くの間は、安静にしてた方が良いでしょうね。」

「はい。」

「紹介が遅れましたね。コ・ジェヒョンです。貴女と、貴女のお兄様とお母様には、随分と昔に出会っているんですよ。」

「お母さんに・・・?」

「はい、貴女の容姿は、お母様に似ていらっしゃるようですね。ですが、残念ながら、貴女のお母様は、貴女たちを産んだあと、貴女たちを私に託して、病気で亡くなってしまったようで・・・名前も聞けずに、だから、貴女たちの姓を名付けたのは、私なんですよ。」

「・・・そうなんですか。やっぱり、お母さんは、亡くなっていたんですね・・・」

テギョンは、ただ、静かに黙って、ふたりの話を聞いていたが、母の死を改めて知り、肩を震わせて泣くミニョの身体を、テギョンは、宥めるように優しく抱いた。

「ええ・・・でも、お母様は、貴女たちを、心から愛してたと思いますよ。」

「・・・そうですね・・・今なら、母の気持ちも分かる気がします。」

ミニョは微笑みながら、お腹にそっと触れた。

「さて、食事にしましょう。ミルク粥を作ったんですけど、お口に合うか・・・」

「美味しいです。
あの・・・ジェヒョンさん、ひとつ、お願いがあるのですが・・・」

「なんでしょうか?」

「もう一度、院長様にだけでも、お会いしたいのですが・・・」

「わかりました。シスターに連絡をしておきましょう。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

後日、ミニョは、ジェヒョンの教会で、院長様に会うことになった。




★★★★

実は、今更なんですが、最期に新作を描きたいと思います。
思い立ったのが、昨日でして(;゜∀゜)最期に描いてみたいなぁ~と思ってしまった作品が、「オペラ座の怪人」なんですけどね・・・あらすじは、大体出来てるので、描いてしまおうかな、と考えています。
ホント、今更でごめんなさい・・・なんですけど・・・。いいですかねぇ?もしかしたら、15日過ぎちゃったりしますけど、いいですよねぇ・・・。描いたら、終わりますので、ホント、ごめんなさい。
とりあえず、「Secret moon」と「オペラ座の怪人」最期、二本立てでガンバります。o(`^´*)
「オペラ座の怪人」は、アメ記事付にしますので・・・(* ̄ー ̄)













「Secret moon」31

「守りたいモノ」



テギョンは、ミニョの背中をギュッと抱き寄せたまま、その肩に顔を埋めていた。抱き締められたミニョの瞳は、まだ、覚醒していないのか、ぼんやりと、テギョンを見つめていたが、テギョンの身体が震えているように感じたミニョは、テギョンの背中に腕を回すと、優しく擦った。

「・・・ミニョ」

ミニョの手を背中に感じたテギョンは、埋めていた顔を上げる。濡れた黒髪が額に張り付き、前髪に隠れたテギョンの瞳は潤んでいるように見えた。

「テギョンさん・・・」

ミニョも、同じように濡れた瞳で、テギョンを見つめてながら、テギョンの額に張り付いた髪を優しく指で払い、そのまま、滑るように、いとおしそうに、テギョンの頬を撫でた。
テギョンは、自分の頬にあるミニョの手を掴むと、その手に唇を押し当てると、そのまま手を引き寄せ、ミニョの唇へと口づける。
深く長い口づけから漏れるミニョの甘く荒い吐息に、テギョンも酔いしれていく。
お互いの濡れた肌に張り付く布を取り払い、いつも以上に、優しく、いとおしむように身体を重ね、ミニョの甘い吐息とテギョンの熱く荒い息が重なり合う。
バスルームに充満していた刺激的なフローラルの香りよりも、さらに、濃厚で甘い香りが、バスルームを包み込んでいた。


太陽の光が部屋に射し込む頃、ふたりは、ジェヒョンが用意してくれたベッドルームにいた。
ピッタリと肌を重ねるように、ふたりは、ベッドの中で抱き合っていた。
テギョンは、ミニョを背中ごと抱き締め、ミニョは、うっとりと目を閉じながら、テギョンの胸に背を預けた。
テギョンの手は、ミニョの手を重ねるように、ミニョの大きく膨らんだお腹の上にあった。
ミニョを苦しませた激しい胎動は、今は、とても穏やかに、生命(いのち)の時間(とき)を刻んでいる。

久々に、取り戻すことが出来た至福な時間に、テギョンも微睡んでいた。

「テギョンさん・・・」

「なんだ?」

ミニョが、ゆっくりと身体を動かし、テギョンと向き合う。

「・・・愛してます。

言葉では、本当に足りないくらいに、すごく、すごく、愛してます。」

ミニョの潤んだ瞳が、テギョンを見つめる。

「・・・どうしたんだ?・・・いきなり?」

テギョンは、思わぬ告白に、微睡んでいた瞳を大きく見開いたが、すぐに、嬉しそうに口角を吊り上げると、ミニョの額に口づけた。

「ごめんなさい・・・

どうしても、テギョンさんに、伝えておきたくて・・・・・

私は・・・本当に・・今・・すごく・・幸せ・・・です。

私は・・・このコを授かれたことは・・・私にとって・・・本当に・・この上なく幸せなことなんだって・・・深く感じています。

このコは、テギョンさんに愛された、大切な証だから・・・。

今、私に出来ることは、このコの大切な生命を守ること・・・です。

だから・・・

これから、また苦しい思いをしても、

私は、このコが無事に生まれてくれれば・・・

この先、どうなっても構いません・・・。」

ミニョは、涙で目を潤ましながらも、テギョンを真っ直ぐ見つめていた。





★★★★

























「Secret moon」30


「結晶」




テギョンは、蝋燭の灯りだけが灯されたリビングのソファーに腰掛け、眉間に皺を寄せ、思い詰めたような顔で、手を組みじっと待っていた。

「テギョンさん、ワイン飲みますか?」

ジェヒョンは、持っていたグラスをテギョンに渡し、赤ワインを注いだ。
ジェヒョンも、自分のグラスに赤ワインを注ぐと、傍らにある椅子に腰掛けると、一口ワインを含んだ。

「彼女は、あのときの赤ん坊ですか?」

「・・・あぁ」

「・・・そうですか。やっぱり、彼女が、貴方にとって“運命の相手”だったんですね。
良かったですね。また、出逢うことが出来て・・・」

ジェヒョンは、柔らかな笑みを浮かべた。

「だが、俺は、また、ミニョを苦しめてしまった・・・。
堕胎することだって出来たのに・・・でも、アイツは、どんなカタチであれ、神様から授かった大事な生命だから、産みたいと・・・それに、俺のコを産めて幸せだって、微笑んで、愛しいそうに、大きくなった腹を撫でていた。」

テギョンは、深く溜め息を吐くと、グラスを煽るように、ワインを飲み干した。

「・・・それが、彼女の答えでしょう。

確かに、苦しいかもしれません。
でも、彼女は、苦しいと思うよりも、十分、幸せだと思いますよ・・・きっと。
それに、相手を深く愛して、相手に深く愛されているからこそ、『結晶』は生まれるのですから・・・

さて、そろそろ香油の効果が切れる頃でしょう。

彼女の様子を見て来てくださいますか?」

テギョンは、ソファーから立ち上がると、バスルームに向かった。
バスルームの扉を開けると、バスルームの中に充満していた甘い花の香りが、一気に外へと放たれていく。
バスタブに横たわるミニョの肌が幾分か赤みを増しており、テギョンは、安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした。
テギョンは、紅潮したミニョの頬を撫でていると、うっすらと、ミニョの瞼が開いた。

テギョン・・・さん』

声にならない声だったが、微かに、ミニョの唇だけが動き、テギョンの名前を呼ぶ。

「ミニョ・・・」

テギョンは、服が濡れることも構わず、ミニョの身体を抱き寄せた。







★★★★


またまた、ご無沙汰してしまい、本当に申し訳ないです。
そして、いつも以上に、駄文で本当にすみません。
かなりのスローペースですが、なんとか、最終話まで描けるように、ガンバります。