近代日本の幕開け:夜明けのスキャット 【由紀さおり】-太田忠(ピアノ)
1969年、すなわち昭和44年 ―。
私くらいの世代ならばすぐに換算できると思うが、今の若い人にとってはおそらく何の実感も持てないほどの昔だと思う。昭和44年などと言われると、私ですらとても懐かしい響きがする。
昭和44年は私が5歳の時で、この頃からようやく昔の記憶を手繰り寄せることができる分岐点でもある。それ以前は、正直言ってほとんど記憶にない。
1969年というのは翌年に大阪万博を控え、高度経済成長のレールに乗りながらも日本人がまだまだ貧しく「明日はもっと良くなる」と思っていた時代である。アポロ11号の月面着陸が成功して、アメリカの先進性に憧れていた時代でもある。当時の私にとっては、まだ人生の「夜明け前」の時代であったが、由紀さおりの『夜明けのスキャット』が発売されたのが1969年である。現在、『1969』というアルバムに収録され、今や世界的に大ヒットしていることは昨年11月28日のブログにも書いた。
「夜明けのスキャット」はもともと深夜のラジオ番組のテーマソングとして使用された。歌詞のない“スキャット”だけで歌う1番が番組で流れ、その斬新さや物悲しくも神秘感漂うメロディーラインの美しさが人々の心を捉えた。結局のところ、1969年のオリコンの年間ヒットチャートでトップとなったという発売時から大きな実績を持っていた曲だ。
この曲をソロピアノに編曲してみた。歌だけを聴いているとあまり気に留めないのだが、この曲はたった2つのモチーフだけで構成されている。すなわち、Aメロディーとサビだけであり、全体の曲の構成は「Aメロ-Aメロ-サビ-Aメロ」の形式である。1コーラスでAメロが3回も繰り返されるので、歌詞を歌うことのないピアノで演奏する時は、ちょっと工夫をしないと同じものが繰り返されてとてもつまらない演奏になってしまう。それが最大の問題なので、私のピアノ編曲では2コーラスで6回も出てくるAメロはすべて異なる音域、異なる和音、異なる音使いを使ってみた。
そしてエンディングの印象的な部分(実はここだけ5拍子である)が編曲の腕の見せ所で「右手2声」「左手3声」でⅠ→Ⅰ→Ⅲ/D→Ⅳ/D→Ⅳm/Dというコード進行にしてみた。なお、曲の出だしはいきなり高音域から始めている。これは冒頭でAメロを「鐘がこだまするように」鳴らしてしてみたかったという意図からである。
ソロピアノでもなかなか良い雰囲気が出せる曲である。
太田忠の縦横無尽 2012.2.11『近代日本の幕開け:夜明けのスキャット【由紀さおり】-太田忠(ピアノ)』 **太田忠投資評価研究所のHPはこちら**