ブショネワインは堂々と交換を申し出よう
「ブショネ」(or「ブッショネ」)という言葉をご存じだろうか。
ワインに詳しい人ならば、「ブショネ」という言葉を聞くだけで、おっかなびっくり、絶対に自分には当たってほしくないもの、ということになる。
ブショネ(bouchoneé)とはフランス語であり、その語源はbouchon:ブションからきている。ブションとは「栓、ふた」を意味する。ブショネワインの栓は100%コルク栓であるため、ワインにおいてbouchonと言えばコルク栓のことを指す。もし正確にコルク栓と言いたければ、bouchon en liège とか bouchon de liège(liège:リエージュはコルクの意味)となる。
さて、その「ブショネ」の意味するところは、
Bouchoneé = Ce vin a un goût de bouchon.
(このワインはコルクのカビた味がする)
そう、コルクが劣化して腐ったようになり(黒ずむのがよくあるケース)、「カビたにおい」がワインに移ってしまい、ダメになったものをブショネワインというのだ。カビたにおいにまで行かないレベルだと、「使い古しの雑巾を陰干ししたときのにおい」という感じがまさにピッタリである。
このブショネワインを初めて経験したのが今から12年くらい前のこと。顧客とディナーが入り、帝国ホテルの「ラ ブラスリー」というトラディショナルダイニングだが雰囲気はカジュアルという店に入った。当時、私の勤めていた会社が大和生命ビルにあり、ちょうど帝国ホテルの隣のため、ここにあるレストランは和食、洋食、鮨、鉄板焼きなどよく利用していた。顧客曰く、気軽に料理を食べながらミーティングをしたいということで、カジュアル系の店になった。
いざ料理をオーダーして、ワインのセレクション。当時まだ私はワインに詳しくなかったので、顧客におまかせで選んでもらった。
「I choose this one, Sabini…」
よく聞き取れなかったが、サビニー何とかというワインを注文したのだった。
ブルゴーニュボトルの赤ワインが登場し、ソムリエがテイスティングのため、イギリス人の彼のグラスに注いだ。
「OK, its delicious」
ということで、私とあと1人いた彼の同僚のイギリス人にも注がれた。
ところが、一口飲んでみると、味がしない。というか口に含んだ瞬間は味がわからないのだが、だんだんと「味の芯が消滅した液体」から「カビのにおいがツンとくる湿っぽい液体」に変わった。一言でいえば、「まずい」のである。
「Are you sure that its fine with this wine?」
「No problem」
と返されたので、結局そのワインと付き合ってカラになってしまった。そのブショネワインの名前は忘れもしない。
Savigny les Beaune(サヴィニー・レ・ボーヌ)というワインで作り手はLouis Jadot(ルイ・ジャド)、ビンテージは1997年。だから私の中では、このサヴィニー・レ・ボーヌはまずいワインという意識が強烈に染み込んでしまった。
この話を結婚した当時、妻にすると、
「あれ、よくサヴィニー・レ・ボーヌなんて覚えていたわね。それはブショネだわ。どうして、ソムリエに言わなかったの?」
という意外な返事だった。
「ソムリエに言えば、すぐにテイスティングをして交換してくれるのよ」
そうか、そうだったのか。ということで、コルク栓のワインには必ずブショネワインが出てしまうこと、ソムリエのいるちゃんとしたレストランでは交換してくれることを初めて知った。
そしてその後、家で同じ作り手のサヴィニー・レ・ボーヌを飲んだのだが、とても豊潤でおいしかったのに驚いたのである。実は、先週もこれを飲んだが非常に良かった(ただし作り手はAntoine Chatelet:下の写真)。
最近はブショネがすぐにわかる。昨年、石垣島にダイビングに行ったときにオーベルジュに宿泊したのだが、ブショネが出てきた。
「すみません、これブショネワインですね」
「あ、本当ですね。失礼しました。ただちに交換します」
ブショネと疑わしき場合は堂々と言うべし。
太田忠の縦横無尽 2011.2.8
『ブショネワインは堂々と交換を申し出よう』