逆ダイエットで苦労したあの頃
魔の火曜日である。
それにしても、体のあちこちが……痛い。
日曜日のスポーツクラブでのトレーニングメニューに新しい種目が加わり(うつぶせの状態で両肘だけでピンと伸ばした体を支える:1分間×3回)、さらに負荷がかかっているようだ。金メダルを7個獲得したランニングも調子に乗って、時速14kmで走っていたら累計走行距離がとうとう300kmを突破した。ということで体は痛いのだが、気分は爽快。
この数ヶ月間、体重計に乗ると58.3kg±0.1kgという状態が常に維持されているのもちょっと信じられないのだが(普段は±0.5kgくらいの幅がある)、とても快適である。
私の場合、58.3kgは身長から計算した理想的体重とピタリ一致する。痩せてもおらず、太ってもいない、一見中途半端のようでいて、普通はなかなかなれない状態である。
「社会人になりたての頃に比べて、もし体重が10kg以上増えている人は要注意です。食生活が不規則で、栄養のバランスも崩れ、体にとって非常に良くない状態です」という言葉をTVや雑誌で何度か目にしたり耳にしたし、毎年通っている人間ドックでも担当医にこの質問をされたことがあるのだが、実は私はこの「要注意項目」に該当するのだ。
30歳になる手前まで体重が48kgくらいしかなかった(私が女性であれば理想的な体重レベルか)。標準体重は58kgのはずなのに一度も50kgを超えたことはなかったのである。小さい頃からずっと「痩せた」体質であり、ご飯もあまり食べない人間だった。そういえば、子供の頃から大学を卒業するまでの学生時代に「おかわり」をした記憶がない。食事していてもあまり「おいしい」という気持ちを持ったこともなければ、たくさん食べることに「喜び」を感じることもなかった。そういうつまらない人間だった。
だから、外見上はいかにも「ひ弱」そうに見え、「貧弱」な雰囲気が漂う。これがいつもマイナスに働いていることを自覚していた私は、まともな状態になりたいといつも思っていたのだった。だが、標準体重の58kgは遠い遠い手の届かない縁のない世界にしか思えなかった。だから、世の中がダイエットブームで「もっと痩せなきゃ」とか「10kg減量に成功した!」とか言う人の話が、正直うらやましかったのである。
そういう私がなぜ「要注意事項」に該当するほど体重が増えてしまったのか(要するに単に「普通」になった、ということだけどね)、というのを振り返ってみると意外な事実が思い当たる。それは、毎日の生活において「自分の意志力」=「行動力」という形で合致するようになってから、心と体のバランスがみるみるうちに良くなり、「自分を取り戻した」ということである。ちょうど30歳の時に初めての転職をし、しかも金融の外資系企業という「生き馬の目を抜く」ようなハラハラの連続する職場に飛び込んでしまったため、常に「実績」「力量」がシビアに測定される状況になってしまったことが、皮肉にも強制的に「貧弱」な体質を改善させたのである(冷や汗の日も多々あったが、決して痩せ細ることはなかった)。それまでの自分は意志力もなければ、行動力もなく、体の中は常に閉塞感だった。今から振り返ると有史以前の暗黒時代だった。
ただし、3年くらい前には一時体重が63kg寸前までにいってしまい、体が非常に重く、けだるい状況に陥ったことがある。顧客訪問にはタクシー、企業取材にはタクシー、帰宅が深夜になればタクシー、という超多忙のタクシー生活が続いたため、1日の運動量が「基礎代謝量(私の場合は1日1400kcal程度)」以下になってしまったからだった。この時に初めて、「ダイエット」する人の気持ちが分かった。そして、もちろん「うらやましい」とは思わなかった。「もっと体重を落とさなきゃ」と世間並みになったのである。
それはともかく、私の場合、体重は心と体のバランスが密接に関わっていることを強く実感する。
太田忠の縦横無尽 2010.10.12
『逆ダイエットで苦労したあの頃』