投資をしてはいけない企業には近寄るな-JALの教訓
日本航空が1月19日(火)に会社更生法を正式に申請した。グループの負債総額は2.3兆円。1987年に完全民営化されてわずか23年目のことである。
金融機関に対しては債権放棄、株主に対しては100%減資による上場廃止、そして日本政策投資銀行と企業再生支援機構による資金援助 ―。借金を棒引きして、株式を無価値化した上に、公的資金投入という経営に失敗した「巨額の金食い虫」の姿が明るみに晒された。大胆なリストラを実行しつつ再出発を目指すが、かつての日本を代表する企業のその体たらくぶりは甚だしいと言わねばならないだろう。
「太田さん、JALをどう思いますか?」と株価が100円割れとなった昨年の11月中旬頃から急に尋ねられるようになった。「え、どう思いますかとはどういうことですか?」とその真意のほどを問いただすと、「投資したほうがいいですか?」という質問である。投資といっても売りと買いがあるので、「え、空売りするということですか?」と聞くと全員が口を揃えて「安くなったので、買いたいと思うんですが」とのことだったので驚いてしまった。このような質問を6~7件も受けたのだ。中には「すでに投資をしたのでどう思うか?」という人も数人いた。
「買いは絶対にお勧めしません」と私は言った。「10/3期の中間決算短信から事業継続疑義の注記がつけられています。資金繰りに追い詰められ、最悪倒産する可能性があるからです。航空事業は非常に難しく、世界の数多くの航空会社は倒産していますよ」と説明した。株価が100円を切るレベルにまで売られるということは、危険地帯への突入を意味する。割安で投資するチャンスではないことは確かだ。
航空ビジネスというものはすべての条件がポジティブに整った時には高収益となるが、そもそも規制が厳しい上に激しくなる一方の競争の中で、何かひとつでもネガティブな要素(戦争やテロといった突発的事態も含めて)が出てくるととたんに収益は悪化する。常に完璧主義が求められるビジネスなのである。これまで実に数多くの欧米の航空会社が経営破綻してきた事例を見ればそれがよくわかる。
わざわざ危険な銘柄に投資をして損失を被るような投資行動に出ることを個人投資家はおこなってはならない。「ひょっとして儲かるかも」という甘い期待が最も危ない。いざ正反対の結果が出れば、とんでもない値段でしか売れなくなるのだ。「JAL上場廃止の方向へ」という報道がなされる直前の株価は1月8日(金)の67円。大商いで売れるようになったのが1月13日(水)の7円。実に90%もの価値を失ってからでしか株主は売るチャンスがなかったのである。こんな事態に遭遇すればどうすることもできない。そして、本日1月20日(水)の前場での株価は2円まで売られている。
今回のJALの会社更生法適用から学ぶべき教訓は次の2つである。
(1)株価が大幅に下がったからといって、事業継続疑義がついているような銘柄を優良株の押し目を拾うのと同じ感覚で投資してはいけないこと。「事業継続疑義」はまさしく倒産の可能性を示す危険信号である。個人投資家はこうした重要事実を軽視しすぎる傾向がある。
(2)業績が好調なときは株主の権利は存在するが、倒産のような事態になると株主には何の権利もないこと。権利を持っているのは債権者だけである(JALの場合はその債権者も債権放棄という痛ましい結果となった)。
それにしても私が思っていたよりも早い決着だった。倒産のニュースは決算期を乗り切ることができないことが判明する3月中かと思っていたが、とてもそこまで持たない待ったなしの状況だった。
太田忠の縦横無尽 2010.1.20
「投資をしてはいけない企業には近寄るな-JALの教訓」