東京のレーコーはまずかった
東京で初めて「レーコー」を注文した。
ところで、レーコーをご存知だろうか。全く同一のモノを関西と関東では呼び名が異なる場合がいくつかあり、これもそのうちのひとつなのだが、東京でまさかレーコーがあることを知らなかった。
先日、妻と近所の駒沢公園を散歩していた時のことである。前々から気になっていたちょっと店構えが変わっている喫茶店があるのだが、いつも人がいっぱいで入れたためしがなかった。しかし、その日はガラス越しに覗いてみるとどうやら空席らしきものがあり、入ってみたのだ。
メニューを出されてパラパラみていると、ふざけたネーミングのものばかりが並んでおり笑っていたのだが、パッとその名前が目に飛び込んできて驚くとともに懐かしさがこみ上げた。「冷コーヒー」があるではないか。そう、冷えたコーヒー、すなわちアイスコーヒーのことである。関西では「アイスコーヒー」と呼ばずに「冷コー」と呼ぶ。大阪出身の私は「あれ、東京でレーコーというのは初めて見た」と思わず妻に言った。東京人の妻は「え、レーコーって、何?」という反応で、やはりそういう呼び方は知らなかった。とはいえ、この私ももはや人生の半分を東京で過ごしており、ほとんど記憶の底に沈んでいた言葉がゆらゆらと水面に浮かんできたような感じだった。
さて、10分ほどして出されたレーコーを飲んだのだが、これが全くのヒドい代物だった。炭のカスのような味ばかりして、少し口に入れただけなのに胸焼けがするのだ。コーヒー特有のまろやかな香りも、ほっとさせる雰囲気のカケラも全くない。明らかに粗悪な材料を使っていた。
喫茶店でまずいコーヒーが出された時ほどがっかりすることはない。コーヒーの値段は700円だった。その原価はおそらく数十円だろう。わずかな原価をケチってしまい粗悪なものを使うとこうなってしまう。勘定するときに「この店の人たちは、自分たちが煎れたコーヒーを飲んだことがあるんですか」と思わず聞いてみたくなった。実際は聞かなかったのだが、面と向かって聞かなかったことをあとで後悔した。
新幹線のコーヒーもまずい。車内販売で出される300円のコーヒーは煮詰まってしまっており、あれを飲むと確実に胸やけがする。また、いろんな会社へ訪問した際に、よく出される黒いカップ受けに白のプラスチック容器に入れられたコーヒーもよくない。「ひょっとして、今回は大丈夫か」と思いつつも一口つけて「ああ、やっぱり」となってしまう。
ところで、コーヒーで最近一番驚いたのはマクドナルドである。誰かが「マックのコーヒーはすごくおいしくなった」と言っているのを聞いて、「マクドのコーヒーがおいしいはずがない」(注:関西ではマクドナルドはマックと言わず、マクドと言う)と私は内心思っていたのだが、先月ふらっと立ち寄って飲んでみたところ、びっくりした。「おいしい」のだ。普通の喫茶店で出されるコーヒーよりも味が良い。
たった数十円のことだが人を失望させることと、喜ばせることの違いが出る。とにかく、胸焼けのするコーヒーだけはごめんである。リラックスするための時間が、ストレスに変わってしまう。
太田忠の縦横無尽 2009.10.5
「東京のレーコーはまずかった」
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