3ヶ月連続で出演するIRセミナーを取り巻く背景とは
昨日、日本IR協議会・日本経済新聞社共催による「名古屋IRセミナー2009」の講演会に出かけてきた。企業側の視点、個人投資家の視点、機関投資家の視点という3つの角度から今求められるIR活動とは何なのかを追求するというのが趣旨である。お題も『激変する市場環境と有事の業績説明』。
企業側からはプロトコーポレーションの入川達三社長による「変わる経営トップの説明責任」、個人投資家側からはフィナンシャルプランナーである木村佳子さんによる「個人投資家が聞きたいIR」、そして機関投資家側からは私が「機関投資家が求める業績説明と戦略」と題して講演をおこなった後、パネルディスカッションに移った。
急激な不況の波が押し寄せたことによってIRを取り巻く企業側の環境が急速に悪化したことは確かなのだが、それ以上にアナリストや機関投資家といった証券業界・運用業界の環境が急変しているのが大きな問題となっている。とりわけ、中小型株の分野はリーマンショックをさかのぼること2年半前からマーケットが急落し、それがベンチマークに勝てない中小型株ファンドの続出を招き(中小型株市場にいまだに適切なベンチマークがないことが大いに関係している)、世界の株式市場の中で最もパフォーマンスが悪いリスクアセットに成り下がったために、運用資金の引き上げや運用体制の縮小が顕著になっている。パッシブ運用が過度に支持され、アクティブ運用受難の時代になれば、企業調査だって不必要になってくる。一方、証券会社側も合併や調査体制の縮小によってアナリストの数が相当減少している。
こうなると、今までのIR戦略が通用しなくなるのは容易におわかりになるだろう。とにかく1社でも継続カバーされる状況を死に物狂いにでも作り出す努力をする一方で、今後新旧交代が加速していくと予想されるアナリストやファンド・マネジャーにおいて経験値の少ない新たな担当者に対するベーシックな布教活動が重要になってくることは間違いない。
それにしても、今回の環境の中であらわになったのは「IRは業績の良い時も悪い時も一貫した姿勢が必要だ」と言っていた企業が次から次へとIR活動を後退させてしまったことである。業績悪化時こそIR力が試されるとは本当で、企業の弱点や本質部分が透けて見えてくるのだ。
不況から好況の局面で企業間格差は実は一番大きく開く。業績不振なのはどこでも同じ。株価が低迷している時だからこそ、投資家に中長期的に大きなパフォーマンスをもたらすチャンスと割り切って、歯を食いしばってでも頑張ってほしいというのが私からのメッセージである。
8月にはジャスダック証券取引所主催のIRセミナーがあり、ここでも講演をおこなう(詳細はこちらを参照
)。また、9月にも宝印刷主催のIRセミナーがあり、パネリストとして参加することになった。IRセミナーといっても、個人投資家向けのIRイベントではなく、IR担当者に対する啓蒙活動が3ヶ月連続で続くというのは非常に意義深いと思っている。なぜならば、IR活動の陰の極では、普通はこれだけ活発にIRセミナーが開催されることは過去の不況時には見たことがないからだ。それだけ、「IRに対する必要性」という認識はまだ廃れているわけではないということだ。
太田忠の縦横無尽 2009.7.29
「3ヶ月連続で出演するIRセミナーを取り巻く背景とは」