42年間も間違った習慣を続ける | 太田忠の縦横無尽

42年間も間違った習慣を続ける

生活習慣として長く身についたことは、生きる上で無意識に忘れることなく呼吸しているのと変わらないくらい、当たり前におこなっている。顔を洗う、歯を磨く、お風呂に入るetc... ― 何も考えずに日常繰り返し行動していることが全部そうだ。


小学生の頃はよく虫歯に悩まされた。そもそも我が家では朝歯磨きするのが日課で、夜にもう一度歯を磨く習慣などなかったからだ。今の私からすると、ちょっと信じられないことだがそうだった。当人たちがおかしいと思わなければ、おかしくなくそれは常識となる。だが、歯磨きせずに寝ると、虫歯菌がこれ天国とばかりに大活躍する。虫歯が簡単にできるのは当たり前だった。だが、その悪習慣も高校生くらいの時に、世間の常識を知るようになったため矯正された。


ところが、歯磨きの時間帯だけでなく、私の場合もう一つ間違った習慣があったのだ。それが判明したのはわずかに2年前。42年にもわたっておこなってきた歯の磨きかたが間違いだったことを知り、愕然とするとともに大きなショックを受けた。


私が小学生の頃、歯磨きの常識は、歯に当てたブラシを上下にキュ、キュと歯並びにしたがって磨いていくというものだった。すなわち、歯と歯の間の食べかすを掻き出していくのを目的とする磨きかただ。デンターライオンのコマーシャルでもそのような磨き方をしてみせて、歯がピカピカになると宣伝をしていたのを覚えている。


「太田さん、どうやって歯を磨いていますか?」。昔処置した歯のかぶせ物が取れたので近所の歯医者で治療を受けていた時のことだ。突然若い先生が歯ブラシを私に握らせて実演してみろ、と促した。もはや虫歯にほとんど悩まされることもない状況だったので、堂々といつものやり方をやってみた。


「あー、それは違います。間違ってますね」と一蹴された。「歯茎の状態も上の奥歯のところが少し腫れていて、あまりよくないですね」と言う。全く意に反した返答だった。


「歯と歯茎の間に約45度の角度で軽くブラシを当てて、小刻みに左右に磨くんですよ」。「とにかく、歯垢をつくらないことが重要で、これができていれば歯には十分なんです」。これを聞いた瞬間、わが42年の習慣の歴史がガラガラと崩壊していった。私にとっては、歯ブラシを横に左右に動かして磨くなんて非常識なことだった。「そんなことしても歯と歯の間の隙間は磨けていないじゃないか?」と切り返した。「歯と歯の間は歯間ブラシとか糸ようじのようなものを使ってください」とのことである。


一体、いつから磨きかたが変わったのだろう。とすれば、少なくとも私よりも上の世代の歯磨きの常識は、今や非常識ということではないか?


この日を境に私は横磨きを毎日実践している。そして、4ヶ月に一度PMTCとよばれるメンテナンスに通い、歯のクリーニングとチェックを受けている。実は昨日PMTCに行ってきたのだが、「いやー、歯も歯茎の状態も非常にいいですね。一生、歯の病気とは無縁ですよ」と太鼓判を押された。


これから42年分を取り戻すつもりだ。84歳でようやくトントンになるのは少々厳しいが。