便利さを求めれば、ボタンひとつで何でも手に入る時代。
だけど最近、そんな日常の中でふと気づいたことがある。
「手間をかける暮らし」には、目には見えない力が宿っている。
◆素材を選ぶところから、暮らしは始まっていた
調味料売り場には、安価なものから高価なものまでさまざま並んでいる。
けれど、昔ながらの本醸造の醤油、黒酢、味噌、日本酒――
時間をかけて発酵させ、“育てられた”調味料には、ただの味以上のものがある。
それは 先人たちが編み続けてきた「知恵」そのもの だ。
食卓に並ぶ料理の味はもちろん、体の調子まで左右する。
「何を選ぶか」は、自分や家族の未来を選んでいるのと同じだと気づいた。
◆干し柿づくりに宿る“待つ力”
今年も同様に本格的に干し柿を吊るしてみた。
皮をむき、紐で結び、吊るし、ただ待つ。
それだけの作業なのに、途中で雨に降られたり、風通しを工夫したり、柿の状態を毎日確かめたり……
まるで柿と対話しているようだった。
干す前と後では、見た目も味もまるで別物。
自然のチカラと時間が、食べ物を“宝物”に変える瞬間 を目の当たりにした。
便利な時代になればなるほど、こういう手間の中にこそ心が喜ぶ理由があるのだと思う。
◆食卓は「暮らしの答え合わせ」
丁寧に選んだ素材と、手間をかけた保存食。
それらが並んだ食卓を見ると、不思議と満たされた気持ちになる。
豪華じゃない。
けれど、どこか懐かしく、からだが「これでいい」と納得している感覚。
食べることは、生きることの練習 なのだと実感した。
◆知恵は読んだ瞬間ではなく、“使った瞬間”に自分のものになる
久しぶりに読んだ『農家の知恵袋』には、昔の暮らしのヒントがたくさん載っている。
でも、それをただ「知る」だけでは意味がない。
使ってみて初めて、知識は智慧になる。
干し柿をつくり、調味料を選び、食卓に並べる。
その一連の流れの中で、ようやく本の言葉が “自分の暮らしの言葉” に変わっていくのを感じた。
■おわりに
暮らしは消費するものではなく、育てるもの なのかもしれない。
時間も手間もかかるけれど、その中にこそ豊かさの種は宿っている。
あなたの家の中にも、今すぐ使える知恵が眠っているかもしれない。
その扉を開くきっかけは、案外こんな 小さな手間 から始まるのだろう。



