学校ズル休み---その2--- | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

学校ズル休み---その2---

そーっと忍び足でイチロウの部屋を覗く。


座ってマンガを読んでいる。


小声で……


タロウ     「おーい。イチロウ……。」


一瞬肩を「ピクッ」とさせる。

いつも怒られている子供の悲しき条件反射……。


イチロウ    「……なに?」


イチロウもユミコとイチコに気を使ってか小声で返す。

2LDKのアパートでは、ちょっとした物音も意外と響くのである。


タロウ     「ちょっとそれ置いてこっちにおいで。」


決して怒るようにではなく、諭すように言う。


イチロウ    「あ……うん……。」


学校を休んだ少々の後ろめたさからか……素直に従うイチロウ。

リビングへ誘導して、朝ご飯を食べていた机の前に座らせる。


我が家ではテレビの正面にちゃぶ台に毛が生えたような机がある。

ここが生活基盤の机である。


テレビのベストボジションにワタシ。

並んでイチコ。

角を曲がってユミコ。

更に曲がってイチロウと座っている。


要するにイチロウはテレビに背を向けてワタシの正面である。


タロウ     「あのさ……そこに正座。」

イチロウ    「え~~~……。」

タロウ     「理由は後から説明するから……とりあえず正座。」

イチロウ    「……………。」


渋々、正座するイチロウ。


………2~3分黙って見ているとイチロウが聞いてきた。


イチロウ    「父さん……どうして正座なの?ボク、マンガの続き読みたいよ……。」

タロウ     「ん……ああ……。」


少々勿体を付けて話す。


タロウ     「今日お前、学校休んだだろう。」

イチロウ    「うん……でも父さんがいいって……。」

タロウ     「うん……行きたくないヤツが学校行っても、周りのみんなに迷惑だからさ……。」

イチロウ    「どうして?」

タロウ     「だって、やる気の無いヤツがグループにいたら、気持ちが下がるだろう?」

イチロウ    「そうだね……。」


……………。


ここまでは納得したらしい。

本番はここから。


タロウ     「それでさ……父さん今日、『学校休んでいい』とは言ったけど……

         マンガ読んでいいなんて一言も言って無いぞ。」

イチロウ    「え?」


少々驚きのイチロウ……。

「休み」イコール「自由」と思ったらしい。

作戦の要はここにある。


タロウ     「学校休んだヤツがマンガ読んでたなんて……学校に行ってる

         真面目な子供達が聞いたら……それこそ明日から誰も学校に来なくなるだろ?」

イチロウ    「………うん………。」

タロウ     「だからそこで正座。」

イチロウ    「…………うん……。」


黙って座るイチロウ……。

子供にわかりやすく、それでいて強引な話の展開だが……ここを諭すように説明する。


タロウ     「背筋をピンとして座れよ。……あと手はグーにして膝の上。」

イチロウ    「………うん。」


姿勢を正すイチロウ。


タロウ     「父さんテレビ見るから。」

イチロウ    「………うん。」


寝転がってテレビのスイッチを入れる。

音は小さめにするが、もちろんイチロウには聞こえる。


タロウ     「あと、返事は『はい』な。」

イチロウ    「………はい。」


……………。


たまにしか見ない朝のワイドショーを寝転がって見るワタシ。

音だけしか入って来ないイチロウ。


……………。


タロウ     「ちょっと背中が丸くなってきたんじゃないか?」


姿勢を正すイチロウ。


……………。


インスタントコーヒを煎れ……戸棚からスティックパンを取り出してゴロゴロやりながらテレビを見るワタシ。


タロウ     「モゾモゾしちゃいかんぞ。学校休んだヤツがモゾモゾしちゃいかん……。」


動きを止めるイチロウ。


……………。


時々横目でイチロウの所作を確認しながらテレビを見るワタシ。


タロウ     「頭掻いちゃいかん。学校休んだヤツが頭掻いちゃいかん……。」


手を膝の上に戻すイチロウ。


……………。


そろそろ足がしびれてきた様子。

時間は30分を越えている。


タロウ     「体がさっきから揺れているぞ……。」

イチロウ    「……うん………あ……はい……。」

タロウ     「揺れちゃいかん。学校休んだヤツが揺れちゃいかん……。」


しびれを切らせかけたイチロウが尋ねる。


イチロウ    「父さん……放課はあるの?」

タロウ     「放課?……ないよ。」

イチロウ    「なんでさ?」

タロウ     「だって放課は一生懸命勉強した子供の為のものだろ?」

イチロウ    「……そうだね……。」


……………。


タロウ     「ああ……給食も無いからな……もちろん。」

イチロウ    「……………。」


……………。






……………。






……………。


1時間もした頃であろうか……。

イチロウの頬に一筋の涙が……。


イチロウ    「……父さん……。」

タロウ     「なんだ?」

イチロウ    「学校行かせてください。」

タロウ     「どうした?休むんじゃなかったのか?」


堰を切ったようにブワッと泣き出す。


イチロウ    「お願い!!学校行かせてくださいっ!!」

タロウ     「どうしても行きたい?」

イチロウ    「どうしても行きたいっ!!」


もそっと立って、イチロウの頭をポンッと一叩き。


タロウ     「だったら急いで支度して……走って学校行きな。」

イチロウ    「うん………。」


涙でグシャグシャになった顔を、半袖のTシャツの裾で無理やり拭う。


タロウ     「2時間遅刻だからなー。その分しっかり勉強してくるんだぞっ!!」

イチロウ    「うんっ!」

タロウ     「返事は『はい』だっ!」

イチロウ    「はいっ!」


勢い良く飛び出して行ったイチロウ。

また、朝の支度がのんびりだったら……「学校休むか?」と聞いてやろう。






以下次号。