サンマの思い出 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

サンマの思い出

今年はサンマが安いらしい。


去年に比べて豊漁だそうだ。

ヤリイカも豊漁だそうだ。


たくさん獲れると安くなる。

需要と供給の基本的な経済システムである。


飲食店に置いて仕入れ値が安くなると言うのはいい事である。

だが、あまり大々的に新聞やテレビなんかで

「サンマが安い!サンマが安い!」などとやられてしまうと少々困る。


「仕入れが安いから、最近サンマのメニューが多いんじゃないの?」などと客にツッコまれてしまう。


去年は程々であった。

高くなく安くなく標準価格であった。


そんな去年の今頃の……いや……もう少し前……去年のお盆明けくらいのお話である。




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朝一番に市場に仕入れに行く。

市場と言ってもそこらへんのスーパーではない。

東京で言う築地のような卸市場である。


新サンマが程よい値段で売っていたので、更に値切って一箱(約20尾)買う。

その他にも焼き魚用、刺身用、煮魚用と適当に魚を買う。


仕入れを済ませ、帰宅したのは朝6時半。

妻のユミコもイチロウもイチコも、まだまだ夢の中である。


市場で買った絶品の鉄火巻を食べながら、小一時間ほど朝のテレビを見ていると……

ユミコが起きて来た。


ユミコ     「あ。おはようお父さん。」

タロウ     「おはよう。」

ユミコ     「早いね。」

タロウ     「うん、ほら……今日市場に仕入れに行って来たから。」

ユミコ     「ああ……そうかそうか……昨日なんか言ってたね。忘れてた。」


忘れてたらしい。

亭主の言う事は、だいたいスルーである。

それが夫婦円満の秘訣らしい。


ユミコ     「ああ……。そう言えば……。」


と言いながらカレンダーを見る。


ユミコ     「今日、子ども会の掃除当番だから……。子供たちお願いね。」

タロウ     「はぁ?仕事は?ワタシ……。」

ユミコ     「ああっ!?お盆前に言ってあるわよ!!」


と語尾を上げ怒りの様子。

嫁の言うことは、だいたいスルーである。

それが夫婦円満の秘訣である。


ユミコ     「ちょっとばあちゃん(ヨシコ)に確認とってよ!

         ワタシ子供2人も見ながら町内の掃除なんて無理だからねっ!!」

タロウ     「ああ……わかったよ……。」


キレかけたユミコを横目に、店に電話をかける。


ヨシコ     「もしもしー」

タロウ     「あ。母さん?」

ヨシコ     「なに?」

タロウ     「あのさ…今日さ……町内の掃除があるんだってさ……。」

ヨシコ     「ああ……前にユミちゃんから聞いてるよ。」


既に連絡済みだった様子だ。

なら話が早い。


ヨシコ     「で……何時に来れるんだい?」

タロウ     「そうだなー……。多分昼過ぎくらい。」

ヨシコ     「何でもいいから早く来ておくれ。」

タロウ     「はいよー。」


と電話を切りかけて……。


タロウ     「あ!ちょっと!!」

ヨシコ     「なんだいっ!?こっちは忙しいんだけど!早くしてくれる!?」


母のヨシコも妻のユミコに負けず劣らずセッカチである。


タロウ     「今日、仕入れに行ってきたからさ……サカナが10時頃に届くと思う。」

ヨシコ     「……あんたバカかいっ!?」


かなりのキレっぷり……。


ヨシコ     「タダでさえ、あんたが来なくて忙しいってのに……サカナ仕入れてどうするんだいっ!」


ごもっともである。


タロウ     「いや……でもさ……新サンマが安かったから……。」

ヨシコ     「で?」

タロウ     「だからランチは新サンマで……。」

ヨシコ     「ふーん…………で?」


まだ納得しない様子である。


タロウ     「あとは、オレが行ってからやっつけるから……サカナ。」

ヨシコ     「当たり前だ!」


電話を切ろうとする様子のヨシコ……。


タロウ     「あっ!ちょっと待って!!」

ヨシコ     「まだなんかあんのかい?」


更にキレる……忙しい様子である。

そしてイライラマックスモードである。


タロウ     「バイトのミドリちゃんいるだろ?ちょっと代わって!」


無言で受話器を机の上に放り投げた様子……。

向こうの受話器が「ゴーン……ゴトゴト……」なんて言っている。


遠くで「ミドリちゃーん!ボケから電話ー!」と言っているのが聞こえる。

自分の息子をバイトに向かって「ボケ」呼ばわりである。


ミドリ      「おはようございますタロウさん。で……なんでしょうか?」

タロウ     「おお……あのさ……いつもメニュー書いてるでしょ…ワシ。」

ミドリ      「はいはいランチのメニューですね。」

タロウ     「そうそう。」


いつもはワタシがランチのメニューをマジックやら筆ペンを駆使して書いている。

11時半には書き終えて、外のよく見える所に張り出すのである。


タロウ     「あれを書いておいてくれるかな?とても時間までには行けそうに無いから……。」

ミドリ      「えーーーー?ワタシが書くんですか?才能無いですよーーー。」


尻込みするミドリ……。

だがヨシコがキレキレ状態なので、頼めるのはミドリしかいない。


タロウ     「いいよ。この際『才能』とか言ってられないから……適当で……。」

ミドリ      「……うーん。……わかりました。では……」


渋々だが引き受けた。


タロウ     「今日、市場で新サンマ買ってきたからさ……そう書いてくれればいいから!」

ミドリ      「新サンマですね。わかりました。」


と……ここで一つお願いをする。


タロウ     「あのさ……ミドリちゃんのセンスでさ……『新サンマ』ってのを強烈にアピールして

         書いておいてくれる?」

ミドリ      「センスでですか?強烈ですか?…………わかりました…やってみます。」



「ふぅ」


これで店は一安心である。


振り向くとユミコがワタシの絶品の鉄火巻を平らげている。

まだ半分以上もあったのに。


タロウ     「あっ!オレの鉄火巻!!」

ユミコ     「ああ……おいしく頂きました。」


とペコリとお辞儀する。


タロウ     「喰っていいって言ってないぞ!」

ユミコ     「いや…だっておいしそうだったから……。それに電話で忙しそうだったし……。

         だから緊急特例措置で食べてしまいました。」

タロウ     「くっ……。」


悔しがるワタシに……。


ユミコ     「なんなら出そうか?」


と喉に指を突っ込む真似をする。


タロウ     「いや……いい……。」


緊急特例措置……。

我が家のルールの第一箇条である。


「本人が不在、もしくは対応できない状況に置いて、『事』を起そうとする場合は

『起そうとする人』の意思を第一とする。」


現在、裁判を経験中であるので……難しく書いてしまったが

簡単に言うと

「冷蔵庫の中の物は食べた者勝ち」 「おもちゃを出しっぱなしにして壊された場合、壊した者勝ち」

と言うルールである。


イヤならば「先に食べる」 「壊されたくない物は隠す」のである。


なのでワタシは全く反論できない……。



ユミコ、身支度を始めながら……


ユミコ     「あのさ……夏休みだからワタシが出てった後も子供たちは寝かしておけばいいから。」

タロウ     「ああ……。」

ユミコ     「そのうち起きて来るから……その時はよろしく。」

タロウ     「ああ……。」


……………。


なんのかんのでユミコが掃除に出て行った。

ワタシはテレビをボケっと観る。


……………。


子供たちも起きてきて……子供たち……バラバラに事件を起す…。


イチコは朝飯をぶちまけるし牛乳を噴出すし……

イチロウはおもちゃ箱をひっくり返して「アレが無い…コレが無い…お父さん探して!」などとやっている。


2年生と1歳とちょっとである。

兄妹とはいえ歳の差が7つ。

まとめて面倒を見れる状態ではない。


それをなんとかなんとかやりすごす………。


なんとも長い半日であった。


……………。


ユミコ     「ただいまー。」

タロウ     「お……おかえり。」

ユミコ     「ごめんねー。遅くなっちゃって……。」


時計を見ると12時半


タロウ     「じゃ……店行くから。」

ユミコ     「がんばってね!」

タロウ     「はいはいー。」


急いで車で店に向かう。

店でも多分戦争状態である。


「今日はどっぷりお疲れコースだな……」


店に飛び込み参戦する。


……………。


あっという間に2時を回った。


……今日も一日なんとか山場は乗り越えた……。



ヨシコ     「タロウー。表の看板下げてきて!」

タロウ     「あいよー。」


そう言えば、今日の看板はミドリちゃんに書いてもらった……。

さっきは慌てていて確認していなかったが……なんと書いてあるのであろう。


楽しみに見てみる。



「今日のランチ

        -----新サンマ-----

               2004年ニューモデル先行入荷!!---限定20食---




………スニーカーか?



                                     サンマ イラスト:




以下次号。