続・一大プロジェクト | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

続・一大プロジェクト

8月21日(日)………今日は店が休みである。

昨日の母ヨシコの提案から……一晩新たに計画を練った。


朝8時……ネボスケのイチロウを叩き起こして……「朝のネコ捜索」である。

杉森のおばさんとヨメサンの協力で他ネコの写真は4枚になった。

「これ以上必要ないかも」と思いつつも一応チェックに出掛ける。



……………。



散歩から帰って、新たに製作を開始。


……………。


今度は簡単に出来た。


昨日の「シェルター」を一旦解体して、3枚の段ボールにする。

「コ」の字に折り一枚でも立つようにする。

そしてそれを縦長につなげて「バリゲード」のようにする……大きな「盾」のような感じだ。


裏側から「アサガオの棒」で補強をしてガムテープで止める。

覗き穴をイチロウの高さとワタシの高さに作る。


………完成。


ほんの15分ほどで出来た。

昨日の作業が嘘のようである。


タロウ     「ポジション的には昨日の位置で問題ないな……。」

イチロウ    「そうだね……。」


位置決めをして床に布テープで固定する。

ガムテープを使わないのは、布テープのほうが剥がし易いからだ。


イチロウ    「あ……父さん。この辺にもう一個穴作ってよ。」

タロウ     「ん?……ああ……いいよ。」


イチロウが立て膝をして位置を指差す。


イチロウ    「だって、ずっと立ってると疲れるじゃん。」

タロウ     「子供が『疲れる』とか言うなよ……。」


などど言いながら……お……ナイスアイデアと思った。


「自分用の穴も作ろう」と思ったら……イチロウの立った時の穴がちょうどいい高さだった。

儲かった。

「真似したな……。」などと言われなくて済む。


タロウ     「じゃ……30分交代な……。」

イチロウ    「OK。」


一時間くらいで交代にしたかったが……昨日1時間でイチロウが折れている。

なので30分にしておいた。


トップバッターはワタシだ。

一応父親と言う立場なので先陣を切ることとする。


後から扇風機を当てる。
イヤホンから聞こえる音でテレビを見る。

暇つぶしはバッチリである。……いざとなればビデオを見るという手もある。


…………。


30分経過……。サービスであと10分見張って交代要員を呼びに店に行く。


タロウ     「イチロウー。交代ー。」

イチロウ    「はいよー。」


見ると母のヨシコが帰って来ていた。

日曜の朝のゴルフの練習帰りである。


ヨシコ     「今日もやってんのかい?」

タロウ     「そうだよ。」

ヨシコ     「あのさー。昨日ワタシ……寝ながら考えたんだけどさ……。」

タロウ     「なによ?」


ヨシコ……ちょっぴり神妙である。


ヨシコ     「そのビデオを撮るって事はさ……

         『シロクロが侵入してるのを黙ってみている』って言い出してこないか?相手………。」


確かにそのとおりである。

なにせ相手は「食べてます」の川畑であり……「ネコを摩り替えた」の川畑である。


タロウ     「まぁ……そうは言っても……仕方ないじゃん。それしか立証のしようがないだろ?

         『ウチのサッシを勝手に開けて入ってくるネコ』なんて……シロクロだけなんだし……。」

ヨシコ     「まぁ……そうだけど……。」


……と……まだ心配そうである。


タロウ     「裁判官のおじさんも……この前の口頭弁論の時に……

         ちょっと不思議そうな顔はしてたからなぁ……。『サッシを開けるネコ』

ヨシコ     「そうかい……?……ネコを飼ってない人にとっては不思議なのかもねぇ……。」

タロウ     「うん……今更にゃん太を連れて帰ってきて……サッシを開ける実演をさせるってのも

         無理だろ……。それこそにゃん太のストレスになっちゃうし……。

         アイツは面倒臭がり屋だから……サッシ閉まってたら開くまで待ってるよ……。」

ヨシコ     「うーん……。確かに待ってるねぇ……。」


まだまだ心配そうである。


タロウ     「……うーん……。にゃん太の『サッシを開けるビデオ』を撮ったとしても……原告……

         『このシロクロのネコはサッシを開けられるとは言えない!』って返してきそうだよ……。」

ヨシコ     「まぁ……それも言えるかもね……。」


ちょっとなびいて来た。


タロウ     「もし……シロクロが入って来るビデオが撮れたらさ……すぐに追い出せばいい事だし…。」」

ヨシコ     「まぁ……それもそうだね……。」


快諾せずとも黙認……の程度であろうか……。


タロウ     「よし!イチロウ!頼んだぞ!!……父は30分寝る!!」

イチロウ    「OK。」


……交代……交代……交代……交代……………。


何度目かの交代の頃……。


ヨシコ     「そろそろ昼にするけど……アンタ達はどうする?」

タロウ     「ん……そうだなー……持ち場を離れた瞬間に……って事があったらショックだからな。

         なにか買ってくるよ……。」

ヨシコ     「ふーん。……どうせなら魚でも焼いたらどうかね?」

タロウ     「どうして?」

ヨシコ     「やっぱさ……魚焼いたら寄って来ないか?ネコ。」

タロウ     「ん!」


今までどうしてそんな単純な事に気づかなかったのであろう……。

ウチのにゃん太が「偏食ネコ」であるからだ……。

随分前に書いたが……ウチのにゃん太はキャットフードしか食べない。

それも缶詰はダメだ。

ドライフードのカリカリオンリーである。


……ネコが魚を食べるというのを……正直忘れていた。


タロウ     「じゃ……予定変更。……イチロウ…冷凍庫から塩サバ戻しといて。」

イチロウ    「OK。」

タロウ     「その間に父さん……米洗って味噌汁作るから。」

イチロウ    「OK。」


このあたりの連携プレーは手馴れたものである。

なにせ飲食店。

イチロウも夏休みの後半近くになって、お手伝いの息がようやく合って来た。


イチロウ    「じゃ…魚戻して……見張るわ。」

タロウ     「頼んだ。」


…………交代。


今度はワタシがサバを焼きながらサッシを見張る。

いつもは網戸にして焼いているので、煙はそんなに気にならなかったが……今日はサッシも閉めている。

煙充満だ。


パチパチとサバが焼けてきている……。

暑さと煙でえらい事になっている……。

もちろん換気扇は全力である。


……………。


焼けたサバを持って店に……。

ご飯もちょうど炊けた頃だ……。


タロウ     「父さんがもう少し見張ってるからさ……イチロウ先にメシ喰えよ。」

イチロウ    「OK。」


メシを喰うイチロウと母。


ヨシコ     「最近さ……シロクロが上がって来るのって……週に1~2回だろ。

         どうも……店で焼き魚のランチをやった日のような気がするんだよね。」

タロウ     「……そういう有益な情報は……早く教えてよね……。」

ヨシコ     「はいはい……。」


後ろ手にドアを閉めて、イチロウがメシを喰うまで見張りを続行……。

見たい番組も無く……DVDを見始める……。


…………。


イチロウ    「父さん交代。」

タロウ     「お……ご苦労。」

イチロウ    「じゃ。」


店のエアコンを全開にしてクールダウンする。


……交代……交代……交代……交代……………。


気が付けば既に時間は6時を回った……。


何回交代したであろう……。


タロウ     「夕飯も魚にするか……。」

イチロウ    「え-----?」

タロウ     「いいじゃん。カルシウムだぞ。」

イチロウ    「やだ。魚ばっかり。」

タロウ     「じゃ……今度はサンマ。」

イチロウ    「やだ。」

タロウ     「じゃ……シャケ。」

イチロウ    「…………じゃ…サンマ。」

タロウ     「サンマな。」


昼と同じくサンマを焼きながら見張る……。


そして昼と同じく交代でメシを喰いながら見張る……。


イチロウ    「これ……今日来なかったら……明日も?」

タロウ     「……だな。」

イチロウ    「……まじで……。」


またもガツンとヘコんでいる……。


タロウ     「……まぁいいよ。お前、好きなマンガ……見たいんだろ?……父さんが見張ってるから

         マンガ終わったら代わってくれよ。」

イチロウ    「……うん。」


「イチロウがヘコみから戻るまで……当分オレだな……」などと思いながら見張る。

サンマを焼いた焼き台は、既に冷めて……煙も随分落ち着いている。

換気扇だけが全力で「ゴウゴウ」と働いている。


……………。


「ニャオン」


小さな声で外からネコの鳴き声がした。


タロウ     「?」


「ニャ……」


来た!!

ついに来た!!


サッシの磨りガラス越しに中の様子を伺うネコが一匹……。

シルエットからシロクロであるとわかる。


「パリッ…パリパリッ……。」


まず網戸を引っ掻いている……。

ハンディカムを立ち上げる……。

いや……ケータイの方が立ち上がりが早いっ!!

ケータイを立ち上げる……。


ワタシは息を殺して身動きせずにビデオの録画をスタートする。


「パリッ…パリパリッ……。……ガッ!」


3秒もしないうちに網戸は開いた……。

手馴れたものである。


さらに中の様子を伺う……。

そしてサッシに取り掛かる。


「パリッ…パリパリッ……。パリッ……。」


一旦休憩の様子だ……。

網戸の様にはいかないらしい。


「パリッ…パリパリッ……。パリッ……パリッ…パリパリッ……。パリッ……。ガッ!!ガッ!!」


開いた!


「ニャオン……。」


「どんなもんだい」とでも言っているような感じである。


タロウ     「お疲れさん!」


とバリゲードから飛び出す。


「ビクゥッ!」と一瞬飛び上がるシロクロ……。

そしてワタシと目が合うと……すまなさそうに180°クルっと回って帰っていった……。


「サンマの尻尾くらいやってもよかったかな……。」などと一瞬思ったが……

心を鬼にして更に睨んで庭からも追い返す。


心は躍っている。自分で言うのもなんだが……少年のようである。


勇んで店へ……。


タロウ     「おーい。撮ったぞ!!」

イチロウ    「まじー!?どれ見せて見せて!!」

ヨシコ     「ホントかい?どれどれ……。」


覗き込む二人……。

少々自慢げなワタシ……。


イチロウ    「やったね!ばっちりじゃん!!」

ヨシコ     「しっかし……器用なもんだねぇ……。」


とりあえずケータイの本体のファイルをカードにも移す。


タロウ     「これで証拠がさらに一つ揃ったな。」

ヨシコ     「……だね……変なところで突っ込まれなきゃいいけど……。」

タロウ     「まあね……。何でも揚げ足取ってくるからな……。」

ヨシコ     「最終的には裁判所の判断なんだろ?」

タロウ     「そうだよ。……裁判官がこれを見て……納得すればいいんだ。」

ヨシコ     「まぁいいや……。アンタそろそろ帰んなよ……

         ユミちゃんとイチコは一日中ほったらかしだろ?」

タロウ     「うん。」


……………。


イチロウ    「父さん!恐竜博!!」

タロウ     「わかったわかった!明日か明後日…ランチが終わってから行こう。」

イチロウ    「やったー!母さんとイチコも一緒だよ!!」

タロウ     「もちろん。」

イチロウ    「僕の頑張りで恐竜博って母さんに言うんだ!!」


少々興奮気味のイチロウ……。

やり遂げた満足感なのであろう……。

出来ればイチロウに撮らせてあげたかった……。


荷物をまとめて急いで帰る。

イチロウは……まだまだ実家でバケーションである。


「ふぅ……」っと一息。


今日はおいしいビールが飲めそうだ……。

ただ……きっと言われるユミコの小言だけが災難ではある。

                                   続・続一大 イラスト:

以下次号。