続・続・ネコ探し | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

続・続・ネコ探し

日付は8月12日

前述のユミコが車を発見した日の午後である。


いつものように激しいランチタイムを切り抜けて、「ほっ」と一息ついた。


イチロウとイチコは父(ハジメ)と自転車の旅に出ている。

ユミコが店を手伝う日はお約束である。


鉄砲玉のように出て行っていつ帰ってくるかわからない。


「2時には帰ってきてよー。」などと言っておいた。


だが今まで守った試しは無い……。

逆に忙しい最中にひょこっと帰ってきたりもする……。


ケータイは持って出るのであるが……。繋がった試しが無い……。

もちろん「帰るの遅れる」と電話があった試しも無い……。


おっと話がそれてしまった……。

ここでハジメの愚痴話を始めても仕方ないのである……。



なにせ子供たちはいない。

店にいるのはワタシとユミコと母(ヨシコ)である。


タロウ     「お。ちょっとBM見に行くか……。」

ユミコ     「行ってくれば。」

タロウ     「……………。」


……………。


ユミコ     「……なに?一緒に来て欲しいの?」

タロウ     「……いや……別に……。」


母のヨシコが……


ヨシコ     「店はいいから行ってきなよ。ひと段落してるし……。すぐ裏だろ?」

タロウ     「うん。」


店に3~4人の客が残ってはいるが……

注文はもう済んでいるので、忙しいわけではない。

遅がけのランチの人も……まず、もう来ない時間である。


ユミコ     「なんだぁー。タロちゃん一緒に行きたいならそう言えばいいのに!」

タロウ     「いや。別にいい。一人で行ってくる。」

ユミコ     「……………。」

タロウ     「……………。」

ユミコ     「……………。」

タロウ     「……………。」


無言……。


ユミコ     「はいはい。スネない…スネない。……仕方ない。一緒に行くか……。」


二人ともエプロンをしたまま出発した。


新しいBMの駐車場は八百屋の鈴木さんの裏。

直線距離で100m弱。


町内をクルっと回って行かなければならないが……ものの1~2分である。


タロウ     「お。あったあった。」

ユミコ     「ねぇ。相変わらず汚いでしょ。」


相変わらず汚い。

ユミコがグレーと表現するのも納得である。


ユミコが車に近づく……。


タロウ     「お!触るなよ!……警報機が付いてるみたいだぞ。」

ユミコ     「わかってるよ。」


時に素早く……時にガサツな感じもあるユミコ。

一瞬、ヒヤっとしてしまう時がある。


ワタシも近づいて見てみる。


タロウ     「なんかさー…。この前、裁判所で見たときよりさ……ネコの足跡が増えてない?」

ユミコ     「………増えてる……と思う。」

タロウ     「……だよな……。」

ユミコ     「カウントしとく?」

タロウ     「………無理だろ………。ハンパじゃないぞ……。」


雨の跡……。

ネコの足跡………。


もう汚れたい放題である。


タロウ     「やっぱさー。裁判終わるまで洗わないつもりかなー?」

ユミコ     「そうなんじゃない?……でも今、洗おうが洗おまいが……関係なくない?」


ワタシもそう思う。

裁判で係争中というのと……現在車を洗わないのは関係無い。


タロウ     「………。しかし……どれくらい洗って無いんだろ?」

ユミコ     「さぁ……。でもタロちゃんの車より……汚れているのは確か……。」


そう言うと…


ユミコ     「タロちゃん、車いつ洗った?」

タロウ     「さぁ……。半年くらい前……かな?」


車に無頓着なワタシは、だいたいそんなもの……。


ユミコ     「じゃあ、そんなもんじゃない?」


ひょっとすると川畑は、「訴えてやろう」と思った時から洗っていないのかもしれない。

そうすると3月頃であるから……。

既に5ヶ月以上……。

私の車といい勝負なのも頷ける。


タロウ     「で……。そのネコの傷は……。」


まじまじとボンネットを見るが……。

わからない……。


ユミコ     「どこがネコの傷?」

タロウ     「……さぁ………。」


車を一周してみるが……わからない。


タロウ     「明らかにココはネコじゃないな……。」


ボンネットに一箇所、2mm程の白い点を発見。

塗装が取れている模様。


タロウ     「石かなんかだな……。」


2mm以下のそれらしき傷も数箇所発見。

どう見ても「引掻き傷」では無い。

丸いのだからネコでは無いだろう……。


ユミコ     「あ。」


ユミコが指差す……。


幌の側面に2本線の傷を発見。

後窓のすぐ後ろである。


タロウ     「あ。これ……。例の心霊写真みたいな書証の傷かな?」

ユミコ     「それっぽいね。」


斜め45°に約20cmのまっすぐな傷が付いている。


ユミコ     「タロちゃん……。」

タロウ     「ん?」

ユミコ     「あのさ……。『斜め45°』に傷が付くって……どういう状況?」


…………。


ユミコ     「それに20cmくらいあるよ……。

         ネコってワンストロークでこんなに長く……まっすぐに傷つけるかなぁ?」


確かにそうだ。

傷が斜め45°に付いている時点で不自然である。

垂直に付いていれば………「降りる時に爪を立てた」と言えるかもしれないが……。


ユミコ……なかなかナイス推理である。

伊達に毎週「火曜サスペンス」を見ているわけでは無いようである……。


「片平なぎさ」顔負けである。


…………。


頭の中で「ネコが斜め45°に20cmの傷を付ける様子」をイロイロ想像してみる。



…………。



ユミコ     「無理っぽくない?」

タロウ     「……だな。」

ユミコ     「横でネコ抱いて……付けなきゃ無理っぽいよ。」

タロウ     「……自作自演か……さすがにそこまでして無いだろ……。」


いくら川畑が金を取ろうと思っていても……そこまで疑うのは失礼である。


タロウ     「まぁいいや。写真撮っとこ。」

ユミコ     「うん。」


写真を撮ろうとカメラを構えると……。


ユミコ     「あ。定規と一緒に撮った方がよくない?」

タロウ     「お。そうだな。………でも定規無いよ。今……。」


…………。


タロウ     「とりあえず写真撮っとこ。」

ユミコ     「うん。」


幌の天井部分にも傷がある様子である……。

でも背伸びをしてもハッキリ見えないので、やめた。


車をゆっくり一周するユミコ……。


ユミコ     「お。」

タロウ     「どした?」

ユミコ     「これこれ。」


見ると左後方側面に約1.5cmの「エクボ」………塗装面も若干傷が付いている。


ユミコ     「ぶつけてんじゃん。」

タロウ     「だな。」


更にまじまじと見るユミコ……。


ユミコ     「タロちゃん。これ……。川畑…確認してるよ……。

         だってココだけ指で触ったようにホコリが取れてるもん。」

タロウ     「ホントだな……。」


ユミコが「片平なぎさ」なら……ワタシは「船越英一郎」……。

カメラも持っているし……配役的にはバッチリである。


ユミコ……更に入念にチェック。


ユミコ     「お。また発見。」

タロウ     「どこどこ?」


今度は右後方側面に約7~8cmの白い傷発見。

多分、白い車かガードレールを相手にケンカしたのであろう。


ヘコんではいないが……結構目立つ。


ユミコ     「ここも確認してるな……。ホコリが取れてる。」


正直ユミコを連れてきて正解だった。

ワタシならココまでチェックしないかもしれない。


タロウ     「よしよし……写真。」


エクボと白い傷を写真撮影。


ユミコ     「後で定規と一緒にもう一回撮ったほうがいいよ。」

タロウ     「だな。」


…………。


ユミコ     「こんなところかな……。」

タロウ     「うん。」



かなり入念にチェックし終わった様子のユミコ。

撤退する事にした。


タロウ     「あのさ…。あそこの駐車場さ……。」

ユミコ     「なに?」


ユミコがかなり発見ポイントをリードしているので……ワタシもポイントを取っておかねば……

店に帰って…ユミコが母に……「タロちゃんボーっとして役に立たないんだから!」と言われかねない……。


タロウ     「駐車場、砂利だったよね。」

ユミコ     「そうだね。正確に言うと、砂利じゃなくて砕石ね。」

タロウ     「……うん。」


冴え過ぎである。


タロウ     「あれじゃあ、跳石しても文句言えんぞ……。」

ユミコ     「………と言うか……青空駐車場の時点で……文句言えん……。普通。」

タロウ     「だな。」



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店に帰る。


ヨシコ     「どうだった?」

ユミコ     「大収穫!大収穫!!……でもホント…タロちゃんボーっとして役に立たないんだから!」

タロウ     「……………。」


やっぱり言われた。


ヨシコ     「今頃気付いたの?ユミちゃん……。そんなのワタシ……25年くらい前から気付いてるよ。」


酷い言われようである。


ユミコ     「あ。タロちゃん。……もう一回定規持って撮っておいでよ。」

タロウ     「そうだな……。」


ユミコ     「それとさ……タロちゃんとお母さん……。」

ヨシコ     「なに?」

ユミコ     「ネコの写真さ……。町内の人に頼んでみたら?……ケータイにカメラついてるし……。」


お。ナイスアイディア!人海戦術である。


ヨシコ     「そうだね。……じゃあ杉森のおばさんと八百屋の嫁さんに頼んでおくよ。」

ユミコ     「あとお母さんも……出かける時はケータイカメラを持って行ってね。」

ヨシコ     「そうするよ。」



…………。


時刻は3時ちょっと前……


「2時に帰ってきてよー」と言っておいたはずの「自転車旅団」一行は……まだ帰ってこない………。

相変わらずである。

                                       続々ネコ探し イラスト:
以下次号。