第二回口頭弁論---その10---被告尋問 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論---その10---被告尋問

書記官     「えーっと。これが今日、原告から出された追加の書証です。」

タロウ     「はぁ。」

書記官     「この書類に捺印をお願いします。受け取りのサインみたいなもんです。」


捺印する。


で……。追加と言われた書証を見る……。

…………写真で5枚…。

…しかし………いったいなんだ?何が写っているんだ?


ほとんど真っ黒だ。

所々に光の反射か何かわからないが……。白い部分やら…まだらな部分やら…。

昔々に心霊念写とかってヤツで清田君が撮ったような写真である。


多分、クルマの傷でも撮った写真なのであろう……。


だがそれを白黒でコピーしたもんだから、本当に何が何やらさっぱりである。


一応写真の下に下手糞な字で「リアバンパー」とか「ボンネット」とか書かれているので

「あー。クルマの写真なのね。」……とわかる程度である。


一応聞いてみた。


タロウ     「……なにこれ?」

書記官     「……えっと。クルマの傷の写真……らしいです。」


書記官の顔が笑っているように見えた。


…………………。


裁判官     「始めます。……次は…。被告尋問ですね。……被告、証言台にお願いします。」

タロウ     「はい。」


証言台に移動。

座って証言できるし……書類も持っていける。


裁判官     「えっと……。宣誓は……。先回の時に署名捺印して頂いてますね…。省略しましょう。」


結構適当である。


裁判官     「最初にワタシから質問しましょうかね……。」


そう言うと書類を見ながら……。


裁判官     「被告はネコを飼っていますか?」


お。単刀直入に来た。


タロウ     「はい。飼っています。」

裁判官     「それは本事件の争点である写真に写っている『該当ネコ』ですか?」

タロウ     「いいえ。違います。」

裁判官     「では……。被告の飼っているネコはどんなネコですか?」


今日準備してきた書類を取り出す。

備えあれば憂い無しである。


タロウ     「原告の準備書面が金曜の昼に届いたもので……。急いでその準備書面に対する返答を

         作ってきたんですけど……。まぁ…。今日の審査が終わってから、もう一度若干書き足す

         部分も出るでしょうから…。また書記官さんと相談しますけどね……。」


と…。作ってきた準備書面から「ニャン太」の写真を取り出す。


裁判官     「書記官。ちょっと持ってきて。」

書記官     「はい。」


書記官に渡すと裁判官に回った。

そして裁判官から司法委員に……。


もう一度書記官に戻って……原告の川畑に見せて……書記官に…そしてワタシの元に戻ってきた。



裁判官     「ふむ…。全然違うネコですね……。」

タロウ     「はい。全然違います。」

種類からして違う。色からして違う。

共通点は「ネコ」だけである。


裁判官     「名前は?」

タロウ     「ニャン太です。」

裁判官     「何年飼ってます?」

タロウ     「4~5年でしょうか…」

裁判官     「わかりました。で……。被告の提出された書証の中に……

          『保健所のネコ発見時の通報記録』と言うのがありますが……。

          これはどうして届けたのですか?」

タロウ     「この該当ネコが2月の中頃からウチの裏でウロウロしていたからです。」

裁判官     「他にもウロウロしているネコはいないんですか?」

タロウ     「いますよ。……あの辺りは飼いネコも野良ネコも多いですから。」


一瞬考えた裁判官。


裁判官     「ではどうして該当ネコの届けを出したのですか?他のネコの物は出さずに……。」


なるほど……そういう論法なわけだ………。

「なぜこのネコに限って届けを出したか…?」


タロウ     「それはこのネコが、ウチの家に上がってきてニャン太のエサまで食べてたからです。

         通常飼いネコならば家でエサを食べます。危険を冒してまで他所の家に上がって食べません。

         それにこのネコは異常に人馴れしています。追い払わないと出て行かないし……。

         追い払っても気にせずにまた上がってきますから。」

裁判官     「なるほど。それで『迷いネコ』だと判断したわけですね?」

タロウ     「はい。首輪もしていますし。」

裁判官     「被告は過去にも同じように『迷いネコの届出』をした事がありますか?」

タロウ     「あります。この件を除いて1~2度。家出イヌの報告もした事があります。」

裁判官     「わかりました。………ところで……。答弁書内に……

          警察署にも同様の届出を出されていますが……これはどんな内容なんですか?」


ありがたい。これを聞いてくれて少し安心である。

悠々と話すことが出来る。


タロウ     「通常、イヌの場合……例えば保護した場合…

         警察署に『迷いイヌを保護しました』と通報します。で………。通報しますと……

         『では、拾得物届を提出して下さい。』と言われます。

         ……そして6ヶ月間の保護をお願いされます。

         そして、もし所有者が出てこなければ、その先も通報者のものとなります」

裁判官     「ふむ。」

タロウ     「この際に『保護責任』を断わりますと……。

         『ではイヌは保健所で管理します。』と言う事になり……約一週間の保管の後………。

         処分されます。」


いわゆる「チーン」である。


裁判官、黙って聞いている。


タロウ     「これは『イヌ』が人間に危害を加える可能性のある動物である点と、

         生き物なので警察署内で6ヶ月間保管できないと言う点で仕方の無い事なんです。」

裁判官    「ふむ。」

タロウ     「又、例えば『迷いイヌを見かけました』と通報しますと……その時の状況や

         イヌの特徴が記録されます。この場合、保護していないので『保護責任』は発生しません。

         タダの通報であり、イヌは通報者の元にいないわけですから」


一旦間をおき…。


タロウ     「では……ネコの場合はと言いますと……。まず……保健所の見解では

         『ネコは人間に危害を加える可能性のある動物とはみなされていません。』

         要するにハトスズメと同じなんです。

         それにネコは『土地に住み着く物で人に着くものではない』という見解です。」

裁判官    「ふむ。」

タロウ     「なので迷いネコの発見通報をしますと……。まず『拾得物扱いですか?』と聞かれます。」


皆さん聞き入っている。

いい気分である。

川畑も聞いている。


タロウ     「そこで『拾得しません。』と言いますと……。『通報記録』と言う形で記録されます。

         これはイヌの場合と一緒です。『管理責任』『保護責任』は発生しません。

         『拾得します』と言うと……『管理責任』『保護責任』も発生します。」

裁判官    「…………。」

タロウ     「ネコの場合は今、申し上げたように『人間に危害を加える動物ではない』と言う見解の元、

         苦情や申し出がない限り……。保健所が捕まえに来る事も無いんです。」


途中何回も噛みそうになった。

一文が長すぎる。


タロウ     「ですから今回の場合……ウチの場合ですが……。ニャン太君も飼っていますし…

         更にネコを飼う甲斐性も無いですから……。『通報記録』と言う形で申請しました。

         ペットを飼うと言うことは『責任が発生する』と言うことは前々から重々承知していますし。

         ………だから。収得せずに『通報記録』と言う形で記録を残してあります。」

裁判官    「ふむ。」

タロウ     「ぶっちゃけて言えば……。『見かけるしウチにも上がってくるネコがいるんだけど……。

         飼い主さんはいなくなって困ってないかな?』ってかんじです。」


ぶっちゃけた。

このほうが喋りやすい。


裁判官    「改めて聞きますが……。被告が保健所と警察署に届けた理由は?」

タロウ     「飼い主さんが困ってたら役立ててもらうためです。ただそれだけです。」

裁判官    「わかりました。」


川畑イライラしながら………資料をまた漁る…。

何を探しているのであろうか?


裁判官    「質問を変えます。……この裏口……。いつも開いていますか?」

タロウ     「開いています。」

裁判官    「物騒ですね。」

タロウ     「物騒と言うか……。大丈夫ですよ。近所の目を信じてますし……。それにウチのネコが

         極稀に出掛ける事がありましたから、開けておいてあげないと……。」

裁判官    「ふむ。」

タロウ     「まぁ今現在は……ニャン太君は祖母の家に行きましたので……。網戸にしていますが…。」

裁判官    「でも、答弁書を見る限りでは……。網戸を開けるのですよね?該当ネコ。」

タロウ     「そうです。サッシも開けますよ。」

裁判官    「サッシも開けますか……。」


サッシも開ける事に興味津々である。


裁判官     「ちなみにニャン太君はいつから祖母の家に引っ越したのですか?」

タロウ     「えっと……。怪我をしてからですから…。4月の終わりか5月の初めです。

         ウメキチじいさん宛の訴状が着く前なのは確かです。」


これは覚えている。


裁判官     「普段、鍵はかけないのですか?」

タロウ     「一日に何回か出入りしますし……。それに今、鍵は食器棚の裏になってしまっているんです。

         だから……出来ない事は無いのですが……面倒で……。」

裁判官     「なるほど。」

タロウ     「まぁ……。今現在の話をしても仕方ないですが……。

         少なくとも訴訟内容の時期にはニャン太君がいて……。締め切ることは出来ませんでした。」

裁判官     「なるほど。」


裁判官……資料を探る。


裁判官     「ここのサッシを締め切らない理由は……。今聞きましたが……。現在はどうです?

          参考までに聞かせてください。」

タロウ     「現在、ニャン太君が居なくなった今でも……。網戸にしています。」


隠すことも無い。

本当の事を話すまでだ。


裁判官     「該当ネコが入って来るかもわからないのにですか?」

タロウ     「ここの部屋は……。昔は居間として使っていたんですけど……。

         現在は業務用の大型冷蔵庫が2台も入ってましてね……。

         ほとんど倉庫状態です。テレビが置いてあって…少し休憩くらいは出来ますが…。

         で………。サッシで締め切ると……夏場は40℃近くになっちゃいます。南向きですし……。」

裁判官     「はぁ。」

タロウ     「そうすると、常温保存できる野菜……例えば、ジャガイモとかタマネギとかでも

         腐ってしまうんです。………。だから網戸にしています。」

裁判官     「ほう。」

タロウ     「もちろん、一回被害にあった乾物類なんかは…ネコが入ってきても被害にあわない場所に

         保管しなおしましたが………。」

裁判官     「なるほど……。で……。今現在……。乾物の保管場所を変えても……。

          飼いネコの餌箱が無くなっても……。該当ネコは来ますか?」

タロウ     「来ますよ。周回ルートに入ってるみたいですね。ウチの中も。」


後ろの傍聴席で山本さんが笑っている声がする……。


裁判官     「頻度は?訴訟内容期間と現在とでは?」

タロウ     「変わってないですよ。ほとんど。若干減ったかな…。週に1回か2回は見ます。

         上がっているのとか……。上がった形跡を。」

裁判官     「上がった形跡とは?」

タロウ     「網戸がネコの幅で開いているので、一発です。」

裁判官     「なるほど。でどうするんです?上がっていたら。」

タロウ     「手か足で突っついて…。誘導して…お帰り願います。………。

         尚、追っかけたり殴ったりと言う物騒な事はしていません。相手がいくらネコでも。」


何かを書く…裁判官。


裁判官     「ちなみに……。ここが居間から倉庫みたいになったのはいつ頃ですか?」

タロウ      「かなり前ですよ………。もう10年以上。」

裁判官     「そんなに前ですか…。」


なぜかビックリした様子の裁判官。


タロウ      「ちなみと言えば…ちなみに…。ここの今、問題になってる駐車場ですが……。

          駐車場になる前は…古い平屋が建ってましてね。泥棒も入れない様な

          密集具合でしたので…。戸締りしなきゃいけなくなったのは……。

          本当にここ3~4年ですよ。」

裁判官     「……。なるほど……。」


と言ってまた何かを書いている。


裁判官     「まぁ……。ワタシからはこんな所ですかね……。原告…。質問事項ありますか?」


急に振られた川畑。

ちょっと焦り気味。

ちゃんと聞いていたか?


川畑      「あ。あります。」

裁判官     「では、どうぞ。」


かかってこい。

どうぞかかってこい。


「ワタシは誰の挑戦でも受ける!」と言う気分である。

                                        第二回その10 イラスト:

以下次号。