第二回口頭弁論---その8---迷いネコ | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論---その8---迷いネコ

まず最初に聞く事は、引田くんと同様である。


タロウ     「証人の山本さん…。では質問させて頂きます。」

山本さん    「はい。」

タロウ     「あなたがこの係争場所駐車場で見かけたネコはこの該当ネコ一匹ですか?」

山本さん    「そうです。調査の2時間の間では…。この猫しか見ていません。」


ふむ。


タロウ     「証人はこの北側の家……。被告宅内で該当ネコを見たと証言しましたが、

          このネコに給餌している被告又は被告家族を見ましたか?」

山本さん    「いいえ。この日2時間の調査中、家の中に人はいませんでしたよ。」

タロウ     「では、その写真も………。ないですね?」

山本さん    「もちろん無いですよ。」


写真なしと……。


タロウ     「証人は被告宅内で該当ネコを見たと証言していますよね…。餌を食べていると…。

         このネコに給餌している場面を見ましたか?」

山本さん    「誰も見ていませんから……。見ていませんよ。

          ご飯は多分、餌箱の中に既にあったんだと思いますよ……。」


この後、「遊んでいるところ」も聞こうかと思ったが……。くどいので辞めた。

人を見ていないのであるから以上である。


タロウ     「証人は、このネコを被告の……ワタシの飼っているネコだと思われているようですが……。

         その理由は?」

山本さん    「ここのお宅に上がって、警戒する様子も無く……ご飯を食べていましたから…。」

タロウ     「なるほど……。」


まぁ、この状態のみを見れば…仕方の無いことである。


タロウ     「山本さん…こういう話はどうでしょう……。ワタシはネコを飼っています。

         ですがそれはこのネコではなくて……。全く他のネコなんです。

         そういう理由なら、ここに餌箱があっても普通だと思いませんか?」

山本さん    「そうですねぇ。猫を飼っていれば餌箱は置いておきますから……。」

タロウ     「で……。山本さん。あなたが見たネコは2月の中頃から、

         この辺りで見かけるようになった『迷いネコ』なんです。」


一瞬なにを言っているのかわからない様子の山本さん


山本さん    「はぁ……。」

タロウ     「『迷いネコ』であれば人を見ても逃げないし……。

         家に上がるというのにも抵抗が無いネコがいますよね?

         ……まぁネコの性格にもよるとは思いますが………。」


さっきから原告席で川畑が何か言いたそうである。

まぁ言えないので黙っているしかないのであるが…。


山本さん    「そうですね…。飼い猫でも他人には警戒心剥き出しで近寄らない猫もいますし……。

          逆にベタベタ寄って来る猫もいますね。」

タロウ     「ふむ……。で、山本さんは『このネコ』の性格はどうだと判断しました?」


一瞬山本さんの顔がにこやかになる。

ネコ好きの人がネコ話をする時の……。孫の話をする時のおばあちゃんの様な顔である。


山本さん    「そりゃあもう可愛い猫ちゃんでねぇ。ワタシに寄って来てスリスリしてきましたよ。

          だからワタシもナデコナデコしてあげてねぇ。コロコロと駐車場で転がりだしちゃって……。

          猫が無防備にお腹を出すって言うのはね……警戒していない証拠なんです。

          だからワタシは『よっぽど可愛がられている猫なんだなぁ』と思いましたよ。

          人間に叩かれたり追われたりした猫は……こんな態度を取らないですから…。」


ネコ……ナデコナデコと撫でたのか……。山本さん……。

引田くんの証言が台無しである。

こっちにとってはご馳走様であるが……。


タロウ     「で……。山本さん。実際このネコ『迷いネコ』なんですよ。ネコが勝手にウチに上がって

         ウチの飼いネコのエサを食べているんです。」

山本さん    「はぁ……。」

タロウ     「少なくともウチはそのように思っています。

         原告の川畑さんはどう思っているか知りませんけど」

山本さん    「はぁ……。」


まだ事態をすべてわかっていない様子の山本さんである。


タロウ     「もう一度確認致します……と言うかわかりやすく説明致しますが…。

         あなたの調査内容ですが…私の話を加味してもらうと

         『迷いネコがここの家の人が居ない隙に上がりこんで……。

         そして勝手にここの家のネコのエサを食べた。』という風には見えませんか?調査結果。」


一瞬考える山本さん。


山本さん    「そういう事情であるなら……。そういう事になるかもしれませんね……。」


更にご馳走様である。


タロウ     「ところで……。川畑さんからどのように調査依頼を受けましたか?……もう少し詳しく。」

山本さん    「ですから……。猫の被害で困っているので……。

          この猫の飼い主のお宅を見つけて欲しいと……。それで調査に来たんです。

          それで…お宅に上がりこむので……。このお宅の猫じゃないかと判断したんですよ。」

タロウ     「なるほど。ありがとうございます。」


まぁ、余計な情報の無い人が見れば……。当然の結果ではある。

もう一つ二つ聞きたいので質問を続ける。


タロウ     「えっと…。これは一般的な質問です。今回の事例は置いておいて……。

         山本さんの活動の経験からお答えください。」

山本さん    「はい…。」


用意してきた箇条書きの質疑事項から選ぶ……。


タロウ     「よく公園なんかで、野良ネコにエサをあげてる人がいますよね?朝とか晩とか…定期的に。」

山本さん    「はい。」


少し上を見上げた山本さん。

頭の中を空っぽにして状況を想像しているのであろう。


タロウ     「ああいう人達に『そのネコに対する飼い主責任』って発生すると思います?」

山本さん    「そうですね……。餌を与えている以上……その猫たちが迷惑を掛ければ……

          それはそれで悲しいことなんですが……。飼い主としての責任ですか………?」

タロウ     「そうです。飼い主としての責任です。」


横目で川畑を見ると……。

落ち着きが無い。

さっき山本さんに質問していた時の冷静さはどこにいったんだ?


山本さん    「私個人としましては……。取って頂くに越した事は無いんですけど……。

          正直よくわかりません……。

          ちなみに『環境庁』の見解では……

          『猫に餌をやっていても本人が猫の飼育を認めなければ飼い主とは認めない』

          という判断なんです。」


ぶっ。

ここで「お上」の見解が出るとは思わなかった…。

思わぬ拾い物である。

もう満腹状態である。


タロウ     「では……。無断で侵入してエサを食べちゃってるネコに対しては……?」

山本さん    「無断で侵入してるんでしょ?そんなの飼ってるって言えませんよ。」


そりゃごもっともである。

でも、それが聞きたかった。


タロウ     「裁判官。質問以上です。……証人の山本さんも証言していますように……。

         ネコにエサを与えた場合でも『ネコの飼い主』とは言えないようです。

         ましてや勝手に入ってくるネコに対しては『問題外』らしいです。

         これは『中立的』な立場の 『愛護動物の適正飼育を指導する会』 代表の見解であり…

         合わせて『環境庁』の見解と言うことです。」


川畑は引田くんの時と同様、必要以上に資料を探している……。

唇のフルフルは言うまでも無く……更に貧乏揺すりまで始まった様子である。


裁判官     「わかりました。……では被告質問を終わります。………証人ご苦労様でした。

          どうぞお帰りいただいても……傍聴席で傍聴されても結構です。」

山本さん    「はい。失礼しました。」


軽く会釈をする山本さん。

疲れた様子も無い。

このくらいの歳の女性はいたって気丈である。

うちのばあちゃんもかなり気丈であるし……。


山本さん、傍聴席にちょこんと座った。

                                       第二回その8 イラスト:

以下次号。