第一回口頭弁論---その7---追加証書確認 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第一回口頭弁論---その7---追加証書確認

みんなが席に着くと裁判官がこう切り出した。


裁判官     「被告に示談の相談をしましたが、示談の意思が無いようなので継続して審議いたします」


さて、次はなにをするのであろうか?


裁判官     「現在提出されている訴状・答弁書・甲乙号証の他に

          新たに提出しておきたいものはありますか?」

タロウ     「こちらは以上ですが…。」

裁判官     「原告は?」

川畑      「以上ですが…この写真でウチのクルマの傷とか、

          ネコが被告宅で飼われているという証拠になりますか?」

裁判官     「…………。」


ふぅ………。

本当に大丈夫か?それを聞くなら弁護士だろう…。普通。


裁判官     「いいですか?原告。

          先程も言いましたが「裁判所」は中立の立場です。出された訴状・答弁書・甲乙号証で検討して

          公平な判断を下すだけの立場です。

          『原告の甲号証が通ります』『被告の乙号証が通ります』なんて事は言えませんよ」

川畑      「はぁ。」


裁判官も少々怒り気味である。

こちらも少々呆れてきたので提案してみた。


タロウ     「裁判長。原告はイマイチ裁判の意味を理解していないように思います。

         …思いますが…。

         このように時々初歩的質問を繰り返されては裁判の進行に支障がありますし

         原告としても後顧を残す事になりかねませんので、少々説明してあげてくださいませんか?」


敵に塩を送ってみた。

と言うより皮肉ってみた。


裁判官     「いいんですか?」

タロウ     「どうぞ」

裁判官     「では。」


姿勢をちょっぴり正すと原告に向かってこう切り出す。


裁判官     「例えばですね、この『クルマの傷の写真』ですが…。

          これではどのように付いているのか確認できませんね。

          薄っすらとホコリを手で触ったようにネコの足跡が見えますが、傷まではどうにも…。」

川畑      「じゃあ、この写真のアップを撮って来ればいいでしょうか?」

裁判官     「撮れるんですか?直したんじゃないんですか?」

川畑      「まだ直してません」

裁判官     「!!!!まだ直してないんですか?!!!


まあ、当たり前と言えば当たり前であるが…。

川畑は裁判で金を取ってから直すつもりであるのであろう。

裁判で負ければ車はたぶんそのままだ。

そんな事はコチラは重々承知である。


川畑      「はぁ。」

裁判官     「……。あとですね。このネコと被告宅のネコの餌箱の写っている写真ですが……。

          被告が別のネコを飼っていると答弁書に書いてありますので、

          この餌箱は被告の飼いネコのものであると判断します。」

川畑      「でも、食べてますよね?被告の家の中にあるネコの餌を!」

裁判官     「食べているでしょうね。ただ、被告がこのネコに対して給餌しているとは立証できません」

川畑      「被告の答弁書にも書いてあるじゃないですか!」

裁判官     「どのへんでしたっけ…。『私の言い分に関する記述の①のニ』 ですね…。

          ですが、『該当ネコには被告も迷惑している』と書いてありますので

          食べていても給餌していることにはなりかねないですね」

川畑      「でも食べてますよね?」


「食べてます」連発である。


裁判官     「裁判所としては、このネコに対して給餌している証拠を出していただかないと…」

川畑      「例えば…」

裁判官     「……被告…よろしいでしょうか?」

タロウ     「どうぞ」

裁判官     「例えばですね、被告もしくは被告家族がこのネコに給餌している瞬間の写真ですね」

川畑      「そんなの無理じゃないですか?」

裁判官     「どうして無理なんですか?給餌していれば、その事実があるわけですから」

川畑      「一日中見ていろと?」

裁判官     「そういった事情に関しては関知いたしません。なにしろ原告には立証責任があるのですよ」


まだ理解していないのか…。


裁判官     「立証責任とは、『こういう事実がある』と客観的に見てわかる物の事です。

          例えば、『この車の所有者』を立証する為にはこの車の車検書と所有者と見られる人の

          身分証明証と提示してもらえれば確認できます」

川畑      「はぁ…。」

裁判官     「ですのでこのネコが被告のネコであると立証したければ、

          『被告と一緒にこのネコが写っている写真』『被告が給餌している状況の写真』

          が必要となります。まぁ、その他にも色々出来るでしょうが…。

          それらは全て原告の判断で本来提出していただくものなのです」

川畑      「………。」


押し黙ってしまった……。

裁判がこんなにシビアなものである事を実感した様子の形相である。

                              第一回その7 イラスト:

ちょっと長くなってきたので以下次号。