【オーディルの冒険 –Brain Heart Infusion】 0014 | こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

はじめまして。
とうとう、ブログを始めることにしました‼️

アークエンジェル、始動します。

ヌワンジェの元から離れたオーディルは数日間、彷徨いつづけた。スクールの人々、パブリロのこと、人が死ぬということ、ヌワンジェの言葉。この世界で起こった様々な出来事に思いを巡らしながら、とぼとぼと道を歩いていく。

 

彼の心には、不審感が幾重にも募っていた。

 

ぼくは、この世界に来てから、いままでずっと頑張ってきた。毎日、勉強に励み弱音も吐かなかった。必至にこの世界の人になろうと、皆と同じように振舞ってきた。でも、ここに来てからというもの、笑うことを忘れてしまった。スクールに行くようになって一度も笑顔を見せていない。楽しいと思ったことなど一回もなかった。ほかの皆はどうなんだろうか、楽しいと思って勉強してるのだろうか。

 

試験に落ちたいま、オーディルはスクールでの出来事が意味あるものなのか、無駄なものなのかを考えていた。

 

勉強して高いレベルのクラスに行くことが大切な事なんだろうか。試験に合格して資格を持つことに、どれ程の価値があるのだろう。そりゃあ、ぼくだって立派な家や真っ赤な車を見てカッコいいと思ったけど、あれは単なる憧れにすぎなかったように思う。

 

たぶん、心の底からそう思ってたんじゃないんだ。高級な家や車、贅沢な暮らしがそれ程重要だとも思わないし、そんな事よりも、太陽や青空、草木や動物たちと接して、どんなに質素でも笑顔を絶やさない生活のほうが、よほど意味あるものだと思う。

 

ヌワンジェの言ってた常識に縛られて、挙げ句の果てに死を選んだ人々は、皆そう思ってたんじゃないかな。・・・でも、人が死ぬってどういうことだろう。

 

そう思ったとき、オーディルにはハッきりと分かった。人が死んだのに何も感じないほうがおかしいということを、この世界の人たちはどこかが壊れているということを・・。

 

目的もなく、路上をほっつき歩くオーディルの目前に、閑散とした街並が開けていた。

ぼんやりと眺めるオーディル。

 

色褪せたペンキで<OSCUROS>という文字が目にとまる。けれど、オーディルの好奇心は影を潜めていた。神経も肉体も消耗しきっていた。そんな中で足だけが無意識に動き、一定の歩調で前に進む。そして何の感情も抱かずに新しい街に入ろうとしたそのとき、一台のトラックが彼の傍を通り過ぎていった。しかし、オーディルは気にも止めず、そのまま街のなかへ入っていった。

 

     **

 

パブリロは一瞬、オーディルの姿を見たような気がしたが“そんなことはない”と、心のなかで呟いて、すぐにその思いを打ち消した。そして、トラックの揺れに身を任せながら尋ねた。

 

「ほかの人は、なぜ死んだんだよ。」

 

「アル中にシャブ中・・。それにもう一人は栄養失調ってとこだなまあ、自然死ってやつよ。」シビルは、一度言葉をきって、煙をひとつ吸い込んでから更に続けた。「みんな悲しい奴らだぜ、まったく。楽しみは適度にやれってもんよ。じゃなきゃ、こうなっちまうのさ。何処かイカれちまうんだ。」

 

パブリロは、シビルの口からこういう言葉を聞くのは初めてだった。いつも思わせぶりで事務的な口調のシビルが初めて見せた、心ある言葉のように思えた。

 

パブリロはちらりと彼を見た。

 

彼の横顔は何となく、感慨深げに映った。態度や口調はいつもクールで、どこか人を寄せ付けない処があるけど、本当は良い人なんだ。身の上に起こった出来事から派生する孤独に打ち勝ってきた人なんだ。これは全てを知り尽くしたからこそ取れる態度なのかも・・・。

 

パブリロは、シビルに対して今までにない親近感をおぼえた。そして「どこへ行くの」と聞いてみた。彼はまた元のシビルに戻って「そのうちわかるさ。」と言ったきり黙ってしまった。パブリロも仕方なく口を閉ざし、変わらぬ風景に流された。

 

     **

 

いつの間にか眠ってしまったパブリロは、トラックがあげるブレーキの悲鳴に目を開けた。

 

どうやら目的地に辿り着いたようだ。

 

シビルは銜え煙草のままトラックを降り、荷台へと向かった。それを見たパブリロも慌てて後ろにまわった。そして、死体をひとつ一つ荷台から引摺り下ろした。

 

停めたトラックの傍には、直径三十メートル程の摺り鉢状の窪みがあって、その中へ死体を放り投げていく。死者を葬り去るには、あまりにも呆気ない作業である。

 

二十分たらずで全ての死体を捨て去ったあと、パブリロは大きな窪みを見下ろした。そこには人の形そのままの骨格が山積みされ、幾千ものガイコツが天と地を見つめたまま転がっていた。黒く窪んだ眼窩が彼らの悲しみを訴えているかのように、パブリロを凝視していた。瞳のなくなったその眼に吸い込まれそうになりながらも、パブリロは肉づきのない死者を暫らく眺めていた。

 

死という一大行事がこんなにも呆気ないものなのか。

 

一瞬、自分の死がパブリロの脳裏をかすめたが、「行くぜ。」というシビルの声に掻き消された。パブリロが助手席に戻るとすぐに、仕事をやり終えたトラックは引き返していった。

 

トラックの中で、ぼんやりと前を見つめているパブリロ。彼の頭からは先程の光景が離れない。

捨てる者と捨てられる者。

この世界にやってきてから強者と弱者が常に存在している。強い者が勝ち弱い者が敗れる、という論理が当然のこととして世界を支配している。弱肉強食、競争社会という自然淘汰が渦を巻いて人々に襲いかかり、知らず知らずのうちに傷つけ合い暗闇に沈む。

 

でも、これが正しいのか間違ってるのか、自分には解らないけど、どこか間違ってるような気がする。・・・死とは何だろう。人が死ぬってどういうことだろう。そもそも、生きることに何か意味があるんだろうか。・・・

 

パブリロに何かが宿り始めていたが、それは漠然とした思考の中でもがいていた。

 

トラックは石ころを弾きながら、尚もでこぼこ道を走っていく。

 

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