荒井由実の純音楽的考察  第2回「曇り空」 | 柑橘スローライフ

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※本原稿は、私が4~5年前に、他サイト(現在閉鎖しました)に依頼され寄稿した原稿です。

ここに若干の修正のうえ、再録させていただきます。


「曇り空」の主題 ~ひこうき雲との対照性
「曇り空」は、荒井由実さんのデビューアルバム「ひこうき雲」の2曲目。
この曲は「あの子」を主人公とした1曲目の表題曲といろいろな意味で対照的な曲に感じます。
「ひこうき雲」 は、まず「あの子」を語る「三人称」の世界であり、

視覚的には、広がりのあるうっすらとした青い空という外界を感じます。

音的にも、哀しい題材にかかわらず、なにか抜けたようなメジャー調性で描かれています。

一方「曇り空」は「私」という表現は無いものの、明らかな「一人称」でごく私的であり、

視覚的には、「二階の窓」というプライベート空間から一歩も動かず、

そこから眺めた外部も、どんよりとした厚い雲に覆われたグレーの世界。

主題は、恋愛を感じた「多感な10代女性」のメランコリックで気まぐれな心象というところ

でしょうか。

音的にも、マイナー調性で、「ひこうき雲」のどこかドライな聴感と比べると、ウェットでブルー、

深刻さは少ないとはいえ、何か圧迫されたような閉塞感を感じます。

多少話はずれますが、サビの歌詞の中に「~きっとそのせいかしら」という一節が頻繁に

出てきます。

荒井由実さんが特徴的に使う「きっと」という言葉なのですが、

これは、本来「断定的な推測」を表す際に使う副詞と思いますが、荒井さんは多くの場合、

少し違和感のある使い方をしています。

この曲の詩でも、語尾が「~かしら」と、いきなり「疑問的」な助詞になっています。

私は初め、このような言い回しは、メロディーの譜割りに合わせるための歌詞の調節と

思っていましたが、かなり頻繁に出てくるので、

どうも荒井由実さん独特の癖のような言い回しなのかなと、のちに思いあらためました。

少なくとも、聴いた人の脳裏に引っかかるので、印象を深める効果はあるようです。


「曇り空」の音楽表現

空間の広がり感が少ない「曇り空」。

そんな天候の圧迫感に触発されたような10代女性の気まぐれなメランコリー。

そのあたりが、音的に表現されているような曲ですね。


【概要】

この曲は、キーはGm(ト短調)で4/4拍子。

楽曲構成はイントロ4小節→ヴァース(1番)16小節→サビ8小節(ミドルエイト)→ブリッジ4小節→ヴァース(2番)16小節→→サビ8小節→ブリッジ4小節~フルートソロ12小節→サビ8小節→

ブリッジ2小節→アウトロのFO(フェイドアウト)となっています。

この内、イントロ、ブリッジ、フルートソロは全て同じコード進行で、ヴァースとアウトロも

同じコード進行のようです。常に4小節であったブリッジが、ラストだけドラムスのフィルインに

触発されるように、2小節で切り上げるところなど細かい工夫があるようです。


【イントロ】
イントロの4小節は、ルートが半音関係にあるGm7→A6の繰り返しで、
半音の導音機能によるごく短いリフのようなものと理解すればよいでしょうか。
市販の楽譜では、A6A♭△7となっているものもありますが、
いずれにせよ、2つのコードの音程は狭く、曇り空という閉塞感を感じさせます。
このコード進行は、途中のブリッジやフルートソロにも出て、

この曲の空気感を支配しているようです。鈴木茂氏のエレキGが印象的です。


【ヴァース】
イントロ終わりで、エレピによりA♭6のコードが高い6thの音から鳴らされ、
トニックコードからの循環コードでできたヴァースが始まります。
ここでのコード進行は特筆する要素は少ないですが、サビに移行する前に
一旦トニックに帰結させているところは面白いかもしれません。


【サビ】
一旦トニックに帰結したコードがサブドミナントコードのCm7からのサビに移行し、
この曲の中でも比較的躍動する場面となります。ディグリーネームで構成コードの進行を表すと、
①Ⅳm7→♭Ⅶ7→②Ⅴm7→Ⅰm7→③Ⅳm7→♭Ⅶ7→④♭Ⅲ△7
⑤Ⅳm7→♭Ⅶ7→⑥Ⅴm7→Ⅰm7→⑦Ⅳm7→Ⅴm7→⑧Ⅳm7(丸数字は小節)となるようで、
実際にピアノなどで演奏すると機能的でスムーズな流れが楽しい場面です。
このスムーズさは、①⑤や②⑥における強進行(五度(四度)進行)が活きているためでしょう。
ここではナイロンギターによる細野晴臣氏の裏ノリのオブリガートが印象的で、
また、1オクターブ下でつけている松任谷正隆氏のハーモニー(?)も珍しいですね。
この曲が松任谷氏の唯一のコーラスなのでしょうか?


【ブリッジ】
サビ終わりからヴァース2番は、イントロと同じ進行の4小節でブリッジしています。


【フルートソロ】
ヴァース2番~ブリッジに引き続き、イントロと同じコード進行によるフルートソロが始まります。
フルートは、宮沢昭さんという人のようですが、私は存じ上げません。
ここでは、イントロと同じ狭い音程の行ったりきたりの2コードのバックになっているので、
閉塞的で晴れない主人公のアンニュイな心象を表現しているかのようです。
「ひこうき雲」全体を通してもそうなのですが、キャロル・キングのアルバム「つづれおり」と
何か共通したニュアンスを感じます。
この曲のフルートも「SO FAR AWAY」などと微かにイメージがだぶります。


【アウトロ】
フルートソロから最後のサビになり、ブリッジを2小節で強引に切り上げ、
ヴァースと同進行でアウトロがフェイドアウトしていきます。
何かソロ楽器が入っても良さそうなのですが、終止オブリガートのみで進行していきます。

「ひこうき雲」の哀しいけれど大きな視界の感覚からは対照的に、
私小説的に閉塞した視界での「曇り空」。音表現も対照的なようです。
場所的な具体イメージが、何故か私には、国分寺・国立あたりに感じますが、如何でしょうか。

次回は「恋のスーパーパラシューター」 (予定)です。













荒井由実の純音楽的考察/過去記事一覧 第1回「ひこうき雲」① 第1回「ひこうき雲」② 第2回「曇り空」 第3回「恋のスーパーパラシューター」 第4回「空と海の輝きに向けて」 第5回「きっと言える」① 第5回「きっと言える」② 第6回「ベルベット・イースター」 第7回「紙ヒコ-キ」

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