伊藤美誠選手は2018年11月に行われたITTFワールドツアー・スウェーデンオープン女子シングルスで、劉詩ブン選手(当時世界ランキング6位,2018-2019年超級リーグ個人成績4位20勝9敗),丁寧選手(当時世界ランキング2位,リオ五輪シングルス金,2018-2019年超級リーグ個人成績5位16勝13敗),朱雨玲(当時世界ランキング1位,2018-2019年超級リーグ個人成績3位22勝7敗)を破り優勝を果たした(注2)。中国ではこの伊藤美誠選手の快挙が驚きをもって報じられ彼女には一部のメディアから’大魔王’というあだ名をつけられた。このことは日本のメディアでも報道されているがこの記事では中国が伊藤美誠選手に’大魔王’というあだ名をつけるその意味を考察したい。

 

中国には5人の’大魔王’と呼ばれる女子卓球選手がいる

 

  中国には5人の’大魔王’と呼ばれる女子卓球選手が存在する。その5人とは鄧亞萍選手(注3),王楠選手(注4),張怡寧選手(注5),李暁霞選手(注6),丁寧選手(注7)である。この5人の女子選手はいずれもワールドカップ,オリンピック,世界選手権のシングルスで優勝経験があるいわいる大満貫を達成した選手たちである。

 

初代大魔王 鄧亞萍選手

 この選手のことは筆者と世代が違いすぎるのであまり分からない。よって(信憑性のほどは分からないが)wikipediaの情報を頼りに書いていく。この選手は1991年から1998年12月まで世界ランキング1位に君臨した選手である(注8)。1992年と1996年のバルセロナオリンピックとアトランタピンピックのシングルスとダブルスにおいて金メダルを4つ獲得している。また世界選手権では金メダルを計9コ,銀メダルを4つ獲得しており,世界卓球殿堂(注9)に登録されている。20世紀の中国を代表する女子スポーツ選手である。

2代目大魔王 王楠選手

  この選手はシドニー,アテネ,北京オリンピックで金メダルを獲得しているサウスポーのトップ選手です。日本女子の石川佳純選手くらいの年代のサウスポーの選手だと王楠選手と郭躍選手は憧れの存在だったと思う(男子の場合はドイツのティモボル様や陳玘選手)。またこの選手は福原愛選手と非常に仲がよく,超級リーグの同じチームでプレーしている(注10)。この選手は(あまり知られているのか分からないが)2005年に甲状腺癌を患ったがそれを乗り越え2008年の北京オリンピックで金メダルを獲ったというエピソードもある(凄すぎる...)。

3代目大魔王 張怡寧選手 

 この選手は女子卓球界の長い歴史の中で現時点で史上最強の選手である(と筆者は思っている)。2003年1月から2009年11月までほぼ世界ランキング1位を維持していた選手であり,現時点までで大満貫を2回達成したことの唯一の選手である(アテネ,北京五輪のシングルス金,世界選手権上海(2005)と横浜(2009)で金,ワールドカップ2002,2004,2005でシングルス金(注11))。日本では北京五輪のシングルス4回戦で福原愛選手を,世界選手権横浜(2009)のシングルス準々決勝で石川佳純を破ったことで有名かもしれない。石川佳純選手が北京五輪のとき現地で張怡寧選手の絵柄が入った冷凍食品を見つけはしゃいでいる映像が当時の若手選手にとって張怡寧選手がどれだけあこがれの存在であったかを具体的に表していると思う。それほど圧倒的に強いな選手だった。

4代目大魔王 李暁霞選手

 ロンドン五輪のシングルスで金メダル,世界選手権パリ大会(2013)でシングルス金メダル,ワールドカップクアラルンプール(2008)で金メダルを獲得し,大満貫を達成している選手である。この選手は当時の中国女子卓球のプレーの男性化を象徴していた選手であると思う。日本では世界選手権2015蘇州のシングルス準々決勝の伊藤美誠選手との試合が有名かもしれない。(引用;テレビ東京様)

 

 

 

5代目大魔王 丁寧選手

 最後はメディアの報道からご存知の方が多いかもしれない丁寧選手です。この選手もリオオリンピックのシングルスで金,世界選手権ロッテルダム(2011)とデュッセドルフ(2017)で金,ワールドカップ(2011,2014, 2018)のシングルスで金めでるを獲得し,大満貫を達成している選手である。現在(2019/2月)時点でも世界ランキング2位をキープしており,東京五輪の出場も十分考えられる選手である。

 

以上のように中国の大魔王と呼ばれる5人の選手を紹介してきたがどの選手も世界一を経験し,大満貫を達成した選手である。これらの事実を把握した上で伊藤美誠選手が中国から’大魔王’と呼ばれることを考察してみると彼女の実力が十分中国に認められていることが分かる。個人的には中国の超有力な孫穎莎選手が’小魔王’と呼ばれている中で伊藤美誠選手を’大魔王’と呼ぶのは時期尚早な感じも否めないが,伊藤美誠選手が上記の5人に劣らないような活躍をしてくれることを期待したい。

 

 

(参考文献)

(注1)卓球王国の当時の記事その1http://world-tt.com/ps_info/ps_report_detail.php?bn=1&pg=HEAD&page=BACK&rpcdno=2826#2826

その2http://world-tt.com/ps_info/ps_report_detail.php?bn=1&pg=HEAD&page=BACK&rpcdno=2828#2828

(注2)チャイナレコードの記事https://www.recordchina.co.jp/b662658-s0-c50-d0139.html

(注3)鄧亞萍選手のwiki https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A6%E4%BA%9E%E8%90%8D

(注4)王楠選手のwikihttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E6%A5%A0

(注5)張怡寧選手のwikihttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E6%80%A1%E5%AF%A7

(注6)李暁霞選手のwikihttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E6%9A%81%E9%9C%9E

(注7)丁寧選手のwikihttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%81%E5%AF%A7_(%E5%8D%93%E7%90%83%E9%81%B8%E6%89%8B)

(注8)ITTF-Ranking-1987-2000.pdfhttps://web.archive.org/web/20170804215503/http://www.old.ittf.com/museum/ITTF-Ranking-1987-2000.pdf

(注9)世界卓球殿堂のwikihttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8D%93%E7%90%83%E6%AE%BF%E5%A0%82

(注10)中国卓球チームに愛され続ける福原愛http://j.people.com.cn/n3/2016/0810/c94473-9098254-6.html

王楠夫妻が福原夫妻を盛大におもてなし 送迎はロールスロイスhttp://j.people.com.cn/n3/2016/1018/c94659-9129008.html

日本生まれ、中国育ちの「磁娃娃」 福原愛選手http://japanese.china.org.cn/japanese/185495.htm

世界最高峰での経験。中国で福原はタフになる。Number web

https://number.bunshun.jp/articles/-/11028

(注11)ワールドカップ(卓球)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97_(%E5%8D%93%E7%90%83)

(注12)卓球王国の当時の記事http://world-tt.com/ps_info/ps_report_detail.php?bn=132&pg=HEAD&page=BACK&rpcdno=89

卓球王国の当時の記事http://world-tt.com/ps_info/ps_report_detail.php?&pg=HEAD&page=BACK&bn=2&rpcdno=329