私が旅行エッセイストである宮田珠己さんの作品に初めて出会ったのはエッセイでなく、『西の旅(企画:JR西日本、発行:京阪神エルマガジン社)』という観光ガイドブックの誌面だった。
2006年秋、今から11年前のことである。
関西出張を終え、駅の売店でお弁当とスポーツ新聞を物色していたら、“びっくり”九州発見記。と大きなタイトル、長崎皿うどんの表紙に思わずジャケ買い。
まず、目次を開いてびっくりした。別府や由布院、長崎などの有名観光地を押さえて、鉄道では周れない国東半島が二番目に紹介されていたからだ。
「やるなぁ、JR西日本。」思わず出た独り言に、同行者は雑誌を覗き込んだ。
一、うつわの肥前、聖地巡礼。 有田・嬉野・唐津・波佐見
二、宮田珠己、磨崖仏との遭遇。 国東半島
三、バーガーが、郷土料理。 佐世保
四、シュガーロードでお三時探し。 小倉・飯塚・博多・鳥栖・佐賀・小城・塩田・長崎
五、九州エキゾチックポートレート。 門司港・大刀洗・HTB・長崎
六、デザイン列車で行こう! JR九州
七、博多で見つけたアジアの片鱗。 博多・太宰府
八、別府、天国と地獄。 別府
九、由布院はなぜ美味しい? 由布院
真っ先に国東半島の記事から読み出し、さらにびっくり。
文化財特有のカタグルシサや寺院の線香クササを一切感じさせないばかりか、全く新しいジャンルの読み物に出会った気がした。
六郷満山についてここまで自由に書かれた例は過去になく、よくある「六郷満山とは・・・」の書き出しや「どれが国宝で、県指定はこれこれで。」みたいな文章はない。
ただただ、書き手の興味にそって純粋に対象を見ている点が清々しく感じられた。
富貴寺では大堂でなく八臂弁才天についてご住職との会話があったり、石仏は<風や陽射しとともにあり>と言っていたかと思えば<そのほか、クモの巣や鳥のフンなんかも、ともにあるんだけれども>と続いてあって、飲んでいた缶ビールを吹き出してしまった。
だが、読み終えて冷静に分析してみると、ただ面白いだけではなく、巧妙に計算されたライティングであることがすぐに分かった。
文章量や写真点数は別にして、両子寺・岩戸寺・文殊仙寺・富貴寺・真木大堂・熊野磨崖仏・川中不動など、クライアントや地元観光行政が必ず外さないでと言いそうなポイントはしっかり押さえてあり、他のガイドブックやパンフレットなどで大凡書いていそうな情報でなく、現地を取材してこそ分かる貴重な情報に文字数を費やしているのである。
キャプションもお見事。
川中不動/川筋が変わるほどの大洪水もあったそうだが、摩耗し切らずに残るのは霊験か。川には錦鯉が悠々と泳ぐ。鯉は洪水がくると流れていってしまうそうだ。南無~
元宮八幡/数ある石造仁王のなかで、もっとも笑えたのがここ。「えっ、ちょっと、暴力はあかんで、暴力は。」頭の苔もプリティ
真木大堂/大威徳明王像がまたがる素晴らしすぎる牛。私が見る限り堂内のメインはこの牛。負けるな明王
以来、この『西の旅』が国東半島PRの新たなバイブルになった。伝承される歴史や文化を正しく伝えなければいけないという義務的なものでなく、訪れた人の見たまま感じたままの声にこそ人を惹きつける答えがつまっているんじゃないかと思うようにもなった。
そして、記事の中で<最後に、どこか半島全体を見晴らせる展望台のようなところで写真を撮ろうとクルマを走らせたが、そんな場所を見つけることができなかった。国東半島はどこまで行っても森の中である。>とあり、ずっとその文章が頭の中に残っていた。
『インスタ映え』とも少々異なる。
つまり、別府なら湯けむり、由布院なら由布岳とかいった具合にその土地をイメージさせる雄大な景色が国東半島にはなかった、というか知られていないのである。
そこで、(ずいぶん前フリが長くなったが)次回より私がお薦めしたい国東半島を見晴らせる絶景スポットを紹介したいと思う。
でわ!