さ、三年四ヶ月?


うん…もうかなり前の話よ。

学生時代の先輩だったけど、

いいように使われたわ。

当時は、身なりも構わず、

メガネもかけてたダサい女だったわ。

卒論まで書いてあげたのに、

ある日、突然、女ができた!

別れよう!って。性格も顔も

私の方がいいけど、金持ちの女の

方が良いって!


なんて奴だ!そいつとは?


ああ、ヨンと同じよ。

一度口づけたというか、軽くチュッ

としただけ。

ねえ?イワシのおにぎりって、

引く?家では普通に美味しかった

けど…。

付き合っていたうちに入るのかな?

言いように使われた感じだったわ。

涙も出なかったもの。

その男が初めて付き合った男だったわ。

恋愛に関しては、初心者だったから

こんなモノなのか?って。


イワシのおにぎり?ご馳走だろ?


なんかね、私は、変わった女に

見られてたみたい。

だから、医者になってからは、

手術ばかりしていたわ。

胸部外科に居たけど、

毎日手術で、そこそこ教授に

追いつく位の手術をしたわ。

何十時間も手術しても、

お給料は変わらないの。

だから、美容外科に移ったの。

例えばね、トクマン君が、

もっと目を大きくして、

顔の線を細くしたい!って言ったら、

物凄い報酬になるのよ?


は?そんな事が可能なのか?


私を誰だと思ってるの?

これでも、日本、あっ、倭国や、

他の国から、取材を受ける程だったのよ。


取材?


少しは名の知れた医者だったのよ。


チュホンをゆっくりと歩き

出させた。


私だって、ヨンの過去は、

気になるわ。

でも、私が初めてだったって、

ヨンが一番よく知ってるでしょ?


ああ、ごめん…。

俺の過去か…。

まだ二十歳そこそこのガキだったから

赤月隊に入って、技を習得するのに

必死だった。

師匠が可愛がっていたメヒと

任務を共にするようなって、

俺の背中を守ると言った。

妹のような存在から、恋心に

変わって、将来を約束したが、

本当にただ浮かれていただけかも

知れない。だから、ガンジュとの

関係も師匠は知っていたかも

知れない。

赤月隊には、女人に惑わされる事が

ないようにと、妓楼に行ったり、

山奥まで、そういった女人が

来たけど、俺だけは、外された。


どうして?


さあ、父上と知り合いだった師匠が

何か思う事があったのかも知れぬ。


お父様って、どんな方だったの?


父上は、俺より死んだ母上の事を

思っていたからな。


素敵なお父様ね。

お母様だけを愛したなんて…。


寡黙な人だったから、

病に倒れて、亡くなるまでは、

あっという間だったな…


どんな病だったの?


胸を押さえて倒れてから、

息ぐるしそうだったが、

最期は穏やかだったな…


心不全かしら?肺に水が溜まって、

心臓を圧迫していたのね。


イムジャなら、治せたか?


そうね、チャン先生の薬草の知識と

私の知識で病名を診断できたら、

あらゆる手段を使ったけど、

その頃は、まだ私も医者じゃなかったわ。



だよな。俺は父上が死んで、

赤月隊に入ったんだ。

師匠を頼って。



メヒさんって…言うのね。

可愛いらしい名前ね。


あっ!気を悪くしたのか?


そうじゃないけど…


今では…顔も思いだせないんだ。


死んだ時の無惨な姿しか

思いだせなかったけど、レンちゃんが

それを消してくれたみたいだ。


それが、ヨンの心を凍らせた要因

だって、レンちゃんには、わかったのね。


えっ?


昔ね、心理学の研修中に、

車に一緒に乗ってて、事故に合って、

彼女を亡くした患者さんがいたの。

結婚も決まっていたらしいわ。

楽しかった思い出が沢山あるのに

思い出せないって。亡くなった時の

無惨な姿した目に浮かばないって。

とても衝撃的な事を脳が吸収すると、

人間は、それにとらわれるのよ。

担当の先生も睡眠療法で、

悪い記憶を消すと言っていたけど…


どうなったのだ?


その人、眠れないって、薬を

貰っていたのを飲まないで貯めていて

大量に薬を飲んで、病院の屋上から

飛び降りて亡くなったわ。

意識が朦朧とする中で遺書を

書いたみたいで、やっと君の顔を

思い出せたよ。直ぐに行くから、

待ってて。と書かれていたらしいわ。


先生は、悔やんでいたけど、

ある意味、幸せだったのかもしれない!

って、言ってたけど、私は

そう思わなかったの。

だって、飛び降りた無惨な姿を

今度は身内が見る事になるのよ?

連鎖になるのでは?って思ったの。


イムジャの話を聞いて、自分が

どれ程周りに迷惑をかけたか、

わかった気がする。


あっ、ごめんなさい。ヨンの事を

言った訳ではないのよ?


わかってる。

ギュッと後ろから抱きしめられた。


俺は…今は…ウンスと楽しく暮らして

行く事で、胸がいっぱいだ。


海辺の別邸って、遠いの?


開京と西京の間辺りの海の側だぞ。


海なんて暫くみてないし、

ヨンとは、逃げてばかりだったから

ワクワクする!


わくわくとは、心躍ると言う事か?


そうよ!

ニコッと微笑む妻が綺麗で、

馬上で口づけた。





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後々、揉めない様に、

大事な話ですよね?

長くなったので、分けました。