オリジナル小説 【いつもジャーニーが流れていた】(第10回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(253作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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5年振りだった。それまで絵里の節目の時々で恭子と話をする機会があったが、今回ほど古い話しに拘ったことはなかった。恭子がしきりと気にしていた川名と恭子が、共に60歳を迎えていたことが影響していたのかもしれないと川名は考えた。

少なくとも川名にとっては60歳と言う年齢は単なる通過点でしか過ぎなかったが、そう言えば恭子だけでなく同じ歳の佐藤もしきりに60歳と言う年齢に拘っていたのを川名は思い出していた。恭子も佐藤も2人は過去の時代の風景に想いを寄せていた。

そして2人はどちらかと言うと後悔の念を抱いているように、川名には感じられた。それより正式に酒蔵の社長に就いたせいだろうか、川名には恭子の経営者らしい成長の方が光り輝いているかのように思われていた。恐らく恭子も佐藤も60歳と言う区切りの年を迎えるまでに、何らかのやり遂げた感があったのかもしれなかった。

強く意識するまでもなく何となく自分で定めていた目標みたいなものに、恭子と佐藤の2人は辿り着いていたのかもしれなかった。それにくらべると川名には、好きな小説を書き続けると言う行為そのものが大切なことであった。

小説を書き続けた先に見えるかもしれない風景に、川名はさほどの関心はなかった。川名にとって何時も大切だったのは、自分が何をしたいのかということだった。川名にとって才能と言う言葉は、気にはなったが絶対のものではなかった。

もしそのことを絶対のものとしたら、川名はとっくに小説を書くことから遠ざかっていたかもしれない。川名は小説を書いている時間がただ好きだった。勿論今まで書き上げた作品を数多く出版社の新人賞に投稿してきた。結果は一度たりとも評価されることは無かった。

もしそんな現実から目を離さないまま自分の才能と言う物差しで眺めてみたら、もうとっくに小説を書くことを止めていただろう。勿論逆に自分に才能があると思った事なども全く無かった。川名は自分自身に大きな期待を抱いたこともなかった。自分が自分自身からも期待されていないと言う状況は、いつのときも自分自身を気楽にさせた。結論から言えば川名が小説を書くと言うことに対して、周囲からの評価を全く得られなくとも失望感など抱くことなど全く無かった。

川名の1泊2日の恭子の家までの出張は、東京で再会してから1週間後にセットされた。当日大きなライトバンを親しい古書店主から借り受けて、川名は遠い昔恭子と過ごした街に向かった。

約束時間より早めに現地に着いた川名は、街全体を見下ろせる小高い丘に車を停めた。この地方都市に初めて川名が来たのは大学卒業後初めての異動で赴任した時だった。その地方支店で3年間勤務して次の異動が迫っていた時に、赴任先で同じように東京の大学から地元の会社に就職していた恭子と結婚することとなった。

正直結婚を考えるほどいつも一緒にいたいと思ったのは、恭子が初めてだった。そしてプライベートで小説を書ける環境さえあれば、勤め先に拘りなど川名には一切無かった。好きな女性のもとで仕事をしながら好きな小説を書くことが出来れば、それだけで川名には十分だった。

恭子の実家はその街で何十年も続いていた老舗の酒蔵を経営していた。恭子自身もそれと何と言っても一人娘である恭子を街の外に送り出すことを望んでいなかった亡くなった恭子の父親は、恭子と川名が互いに惹かれあっている事を知った時に強引すぎるかのように2人が結婚して酒蔵の仕事を手伝う事を強く望んだ。

そんな矢先に何と恭子の父親が脳卒中で倒れて歩くことも不自由な後遺症を背負い込んでしまった。倒れた恭子の父親は、恭子と川名に酒蔵の経営を引き継いでほしいと半ば命令調で懇願した。最終的には他に誰も経営を引き継げる人もいなかったということもあって、あっという間に恭子の父親の願いが実行に移されることとなった。

恭子と一緒にいられて好きな小説が書ける状況がありそうだったので、恭子と恭子の父親からの希望であった2人して銀行を退職して酒蔵の仕事を引き継ぐ選択を川名は受け入れた。銀行の同僚からは、赴任先で地元の会社の経営者の娘さんと結婚してその会社の経営に携わる事なんて珍しくないので羨ましくも思われていた。

結婚して最初のうちは川名が望んでいたような日常が続いていたが、川名と恭子が30歳の時に絵里が誕生した頃には状況が様変わりしていた。父親から引き継いだ酒蔵の経営が上手くいかなくなり、恭子と川名は朝から夜遅くまで身体がフラフラになるまで酒蔵での仕事に専念した。川名は大好きな小説が書けない事でフラストレーションを抱え、恭子は子育てと酒蔵の経営との両方を背負い込んで一気に精神的なバランスを崩してしまった。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ


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