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小説短編集 【65】何故君はキャロルキングが好きなの(原稿用紙30枚)
※啓樹が咲奈と親しく話すようになったのは、高校3年で同じクラスになってからだった。学校帰りに咲奈のイヤホンのコードが外れカバンの中から音楽が流れだしたのを、たまたま後ろを歩いていた啓樹が咲奈に教えてあげたのが全ての始まりだった。
その日咲奈が聴いていた楽曲はキャロルキングの《君の友だち》だった。それこそ1970年代の楽曲だったが、その楽曲を啓樹が知っていたのには訳があった。3年前当時中学3年生だった啓樹のクラスは、イジメ問題が表面化していた。そんな時にクラスの担任でもあった音楽の先生が、クラスメイト全員の前で何度も歌ってくれた楽曲がキャロルキングの《君の友だち》だった。
そんな訳ありの楽曲を高校3年生の咲奈が聴いていたことにも理由があった。そしてそのことを啓樹が知ることとなる経過において2人は、互いが抱え込んでいた事情と互いに寄り添いながら向き合うこととなって行くのだった。高校最後の夏休みを前にしていた啓樹と咲奈にとって、この夏休みには一生忘れることのない風景が拡がっていたことだけは間違いなかった・・・。
小説短編集 【66】メッセージボードのある駅(原稿用紙30枚)
※大学4年生の蒼汰は重苦しい気持ちを引きずったまま大学へ向かっていた。ほとんど授業などなくなっていた蒼汰は、今から卒業論文の指導教授と面談する予定になっていた。本来なら完成した卒業論文を提出するタイミングだったが、蒼汰は卒業論文を来年提出する積りであることを教授に報告する予定だった。
実のところ蒼汰は卒業論文は書き上げていた。それなのに提出を延期したのは卒業論文を提出することで蒼汰は、卒業に必要な単位を全て取得してしまうことになってしまうのだった。勿論4年生になった時には、それで無事大学を卒業する予定だった。
ところが4年生の1年間、蒼汰は卒業後の自分の居場所を見つけることが出来ないでいた。大学の同級生たちが早々と就職内定が決まって行く中にあって、蒼汰と言えば具体的な行動などすることなく、そんな同期たちの姿を呆然と見つめていただけだった。
そんな蒼汰の現在地は説明するには単純であり複雑でもあった。正直な気持ちを言えば大学を卒業したくなかった。それだけのことだった。アルバイトをしながら気ままに映画を観たりコンサートに行ったりと、とにかくいまの生活を続けていきたかった。
複雑な言葉で語るならば、自分のやりたいことが見つからなかった。同級生たちはサラリーマンになるなら結局は何処でも同じだから、就労環境が楽で高収入が見込める企業を探せばいいだけと余計なアドバイスをしてくれていた。本当に余計なアドバイスだった。何故ならそもそも蒼汰は就職する気がなかったからだった。
こんなはずではなかった。というのも蒼汰は大学に入学するまで、とにかく自分の周囲にいる仲間たちと同じ行動をしていくことに何の疑問も持つことなどなかった。俗に言えばみんなと一緒に流されて行くことに違和感など全く抱くことなどなかった。その限られた時空間で時に精一杯に、時に手抜きをしながら先へ進んできていた ・・・。