オリジナル小説 【フォークソングが消えた日】(第11回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(253作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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大学に入学した4月から6月末までのたった3ヶ月間の井口のフォークソング部での活動は、あっけなく終わりを迎えた。井口は自分があまりにも自分だけの世界に固執しているのでは考える事もあった。池田部長が井口に話してくれたことを、井口は最後まで受け入れなかった。

ひょっとして池田部長の話に真正面から対峙することから、ただ逃げているだけなのかもしれない。池田部長の言葉の向こう側に、何か違った世界が隠されている様に井口には思えてならなかった。井口がそんな風に感じてしまうのは、井口自身の中に池田部長に対するいや池田部長が熱く語った内容にどこか井口自身が目を逸らせようとしているだけかもしれない。

井口の中にある様々な想いの中に、ふとした瞬間に迷いと言うものが井口の中で拡がって行く。その迷いが井口を池田部長から遠ざけたと、井口は考えたこともあった。それほどまでに井口は自分自身に自信は無かった。自分の考えに固執すると井口は今まで周囲の人間に不快な思いをさせて来たことが間違いなくあった。

今回もそんなことの繰り返しなのかも知れない。それでも井口は最終的に自分の中にある感性を手放すことはしなかった。ただ好きだからただ心地良いから、そんな感性を井口は手放したくなかった。どれほど高邁な理屈付けがなされたとしても、井口にとってはその2つの感性が大切だった。

だからこそ、井口はその感性に従って行動することに拘った。それに拘らなくなってしまっては、井口自身の身の置き場が無くなってしまうのだ。その事に最後まで拘って行くことが井口にとってとても重要なのだ。確かに池田部長がしきりと井口に語ってくれたフォークソングのあるべき姿は、その通りだと思う事もある。

ただその反面すぐに、それだけではないと思ってしまう。どれほど説得力のある言葉を並べられても、井口は自分自身のただ好きだからただ心地良いからと言う感性に基づいて行動して行きたいと考えた。きっとそこには時として何等の進歩も無い、怠惰な道筋が続いて行くことになるかもしれなかった。

それでもそれまで知らなかった様々な知恵を備える事から遠ざかってしまっても、やはり井口は自分自身のただ好きだからただ心地良いからと言う感性から遠ざかった世界に自分の身をおくことを受け入れることが出来なかった。大学入学してからたった3ヶ月、池田部長が井口に語ったフォークソングの話がどんどん井口の視界から遠ざかって行っていた。池田部長にフォークソング部からの退部申出をした日が、随分と昔の話様に井口には思えていた。