シリア

 

さらに、イスラエルとヒズボラが停戦に合意した直後に、今度はシリアの反体制派が攻勢を開始した。具体的には停戦の発効する日の午前4時に攻勢を開始した。

 

このタイミングだったのは、ヒズボラがアサド政権支援に動く前にとの計算だったのか。いずれにしろヒズボラは動かなかった。あるいは、動けなかったのか。これまでアサド政権を支えていたヒズボラは、イスラエルとの戦争で大きな打撃を受けていたからだ。

 

反体制派は、たちまち首都のダマスカスを陥落させた。それまで独裁を振るっていた親イランのアサド大統領はモスクワに亡命した。

 

さて長年イスラエルはイランの核関連施設の空爆を主張してきた。そして、今が絶好のチャンスだと見ている。なぜか。繰り返しになるが、確認しておこう。まずイスラエルは2023年秋からの攻勢でガザのハマスの軍事力をそいだ。ハマスはイランの支援を受けている。また2024年秋の攻勢で北の隣国ヒズボラのミサイル部隊に大打撃を与えた。ヒズボラもイランの支援を受けており、イスラエルとイランの本格的な戦争の場合には、そのミサイルがイスラエルに向けて使われると予想されていた。そして昨年の12月シリアのアサド政権が崩壊した。イランの同盟者だった。

 

この政変をとらえて、イスラエル軍が動いた。まず陸軍はシリア南部を侵略してゴラン高原のシリア側を占領した。ゴラン高原は1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領した。その全体が国際法上は、シリア領である。

 

その後の兵力引き離し協定などを経て状況は安定していた。高原の大半をイスラエルが占領し続け、残された少しの部分をシリアが支配した。そして両者間に兵力を引き離すための非武装地帯が設定された。かつて日本の陸上自衛隊がPKO(平和維持活動)で監視していたのが、この地帯である。

 

一方でイスラエル陸軍は非武装地帯を占領し、またゴラン高原のシリア側をも占領し、さらにシリア・レバノン国境に沿って占領地を広げた。つまり南レバノンを包み込むような形でシリアを侵略した。ヒズボラとシリアの連絡を絶つのが目標だろうか。少なくとも、これで、仮にイランがヒズボラへの補給を再開しようとしても、陸上からのルートは使えなくなった。

 

 

シリアの空

 

他方でイスラエル空軍は、化学兵器関連施設、ミサイル関連施設、防空施設、空軍基地、海軍基地、弾薬庫などを500派以上にわたって組織的に爆撃し破壊した。今後、どのような政権が立ち上がるにしろ、しばらくはイスラエルに軍事力ではシリアが対抗できないようにした。

 

いずれにしろシリア軍は、兵器の面から見ると壊滅状態に陥った。その意味は何か。イスラエル空軍は、攻撃される懸念を抱かずにシリアの上空を利用できるようになった。もし仮にイスラエルがイランの核関連施設を爆撃するというシナリオを検討する際には、この事実は大きい。なぜならばシリアの上空を危険なく通過できるばかりでなく、大型の空中給油機を安全に飛行させられるようになったからだ。空中給油ができれば、イスラエルの攻撃機は同国とイランの間を重い爆弾を積んでも往復できる。

 

 

イランの防空体制

 

そして何よりも重要には昨年10月の空襲でイスラエルはイランの防空システムの無力化に成功した。少なくとも、イスラエルとアメリカは、そう認識している。つまりイランの同盟者たちは次々と打撃を受けたり倒れたいした。しかも、その防空体制が弱体化している。今がイランを叩く時だとのイスラエルの議論の背景である。

 

いつまでも、この絶好の機会が続くわけではない。というのがロシアが最新式の対空ミサイルS400のイランへの輸出を発表したからだ。これまでイランの要望をロシアは無視していたのだが。1月のロシアとイランの包括的な安全保障合意の一環として、ロシアは輸出を決断したのだろう。このミサイルの配備が完了すれば、攻撃は難しくなる。その前にというのが、イスラエルそしたアメリカのタカ派の議論である。

 

 

トランプの“復活”

 

そして、昨年11月の大統領選挙の結果、トランプが“復活”した。親イスラエルの大統領になるはずだった。ところが、イスラエルから見ると、大統領に当選後のトランプの言動が「怪しい」。トランプは、イランの核兵器保有は許さないが、それ以外は問題ないと繰り返し発言している。

 

トランプがイランとの戦争に反対ならば、その就任前にイスラエルが攻撃するのではとの懸念が高まった。そのイスラエルをけん制するような動きがあった。まず昨年11月には、トランプの当選直後に、イーロン・マスクがニューヨークの国連代表部のイラン大使と会談したと『ニューヨーク・タイムズ』紙が報道した。世界一の富豪とされるマスクは、現在トランプに最も近い人物とされる。会談内容は、イラン・アメリカ関係の緊張緩和だった。なおイラン側は、この報道を否定している。

 

またトランプが突然にSNS上にコロンビア大学のジェフリー・サックス教授のインタビューを投稿した。内容は、イスラエルがアメリカをイランとの戦争に引きずり込もうとしているとの警告だった。サックス教授はイスラエルに対する批判で知られる人物だ。イランを攻撃しないようにとのトランプのメッセージとも解釈された投稿だった。

 

*2025年1月27日(月) 記

 

>次回に続く