イエメン・フーシ派によるドローン攻撃とその運用について | 高橋和夫の国際政治ブログ

イエメン・フーシ派によるドローン攻撃とその運用について

重要かつ優れた論考ですので、著者の牧田純平氏の許しを得て、ブログにアップさせていただきます。


ドローンとイエメンに興味のある方には必読の文献かと判断しています。


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1.激化するドローン戦争


「この攻撃は、300カ所の重要施設に対する攻撃の始まりに過ぎない」

フーシ派によるドローン攻撃の激しさが、かつてないレベルに達している。2019年5月11日、サウジアラムコの石油圧送施設に対して、フーシ派はドローンを用いた攻撃を実施、施設の一部で火災が発生し、同施設の操業を4日間停止させた。冒頭の発言は、この攻撃事案の後、フーシ派の軍関係者の発言としてメディアで紹介されたものだが、この発言を裏付けるかのように、サウジアラビア-イエメン国境付近の都市に対し、フーシ派ドローンが連日のように攻撃を仕掛けている。


イエメンでは2015年以来、サウジアラビアらが支援するハーディ大統領派(以下「イエメン政府」と記載)と、イランが支援するフーシ派、そしてAQAP傘下のアンサール・アル・シャリーヤの三者が争い、人道上の危機とまで呼ばれる状態に至っている。そして、この悲惨な内戦において、大きな役割を果たしているのがドローンだ。


本稿は、この内戦におけるフーシ派側、とくに5月11日の石油施設攻撃以降の運用に焦点を当てて検討を試みる。まず、5月11日の石油施設攻撃の概要を確認した上で、この前後のフーシ派によるドローン攻撃を攻撃頻度、精度、使用兵器などの観点から比較し、イエメンにおけるドローン戦争の現状の一側面を明らかにしていきたい。


2.石油圧送施設への攻撃事案


①攻撃の概要

5月11日、フーシ派側の広報媒体アルマシラは、フーシ派がサウジ国内の重要施設に対して、7機のドローンを使って攻撃したと報じた 。


アルマシラの第一報では、攻撃対象や与えた被害などの詳細は明らかにされていなかったが、3日後の5月14日、サウジアラビア政府のファリハ・エネルギー相は、爆発物を搭載したドローンにより、サウジアラムコが操業するリヤド西方約320kmの石油圧送施設2カ所が攻撃を受けたと発表した 。この攻撃により、施設では小規模な火災が発生したが、すぐに消し止められたとのことである。


同日、イラン革命防衛隊とつながりを持つIran Fars news agencyが、7機のドローンが施設を攻撃する様子を示したビデオを公表、フーシ派・イラン陣営からも攻撃の詳細な状況が発表されだした 。


サウジアラムコは、被害状況の確認と復旧作業の間施設の稼働を停止するとしつつも、攻撃による石油生産と輸出への影響はないと発表、国際石油市場の動揺を抑えようとした 。石油価格の指標の一つであるブレント原油の価格は、1バーレル当たり71.32米ドルと、攻撃前から1.09米ドル上昇、攻撃に対して市場側も反応を示したが、致命的な混乱にまでは至らなかった。


最終的に、攻撃を受けた石油圧送施設の復旧は5月15日に完了、同日パイプライン全体の操業が再開された 。


②攻撃対象施設の概要


攻撃を受けた施設を含むパイプラインは、サウジアラビア東部から、西部紅海側の港町ヤンブーの間を繋ぐ供給路であり、ホルムズ海峡を使わずにサウジアラビアが石油を輸出するためのルートの一つでもある。とある輸送業者はフィナンシャルタイムズの取材に対して、2019年はヤンブー港から一日当たり10万バーレルを輸出していると回答している 。


本事案発生直前には、ホルムズ海峡の外側にあるオマーン湾にて、サウジアラビアの船舶2隻を含む4隻のタンカーが、ドローンボートによる攻撃を受けている 。アメリカ-イラン間の緊張が高まり、ホルムズ海峡を経由する石油供給の安定性に疑問が呈される中での本事案の発生である。ホルムズ海峡以外の石油供給ルートを狙ったこの攻撃は場当たり的なものではなく、計画的に実行されたものという見解を示す専門家もいる 。


③イランの関与の有無を巡る論争


5月16日、サウジアラビア国防副大臣のハリード・ビン・サルマンは、フーシ派はイラン革命防衛隊と不可分の組織であり、後者の指示を実行に移す存在にすぎず、本事案もイランの指示を受けて実行したものと、イランの関与を指摘した 。同日サウジアラビア外務大臣のアーディル・アル=ジュベイルも同様の見解を示し、フーシ派はイエメン市民を犠牲にイランの利益のために行動しているとして、フーシ派の正統性に対しても疑問を呈した 。


これに対し、フーシ派側は、イランによる指示を否定、自分たちは独立した存在であり、独自の判断に基づいて攻撃を実行したと反論した 。またイラン外務省も、サウジアラビア外務大臣の発言を否定する発表を行い、サウジアラビア側の主張が根拠薄弱であると批判した 。


総じて欧米メディアはサウジアラビア側の発言などを引用、本事案の背後にイランがいると報じている一方、フーシ派やイラン側メディアはこれを否定するという構図となっており、明確な証拠が出ていないことから、はっきりとしたことは分かっていないというのが現状である。


3.石油圧送施設攻撃以降のドローン攻撃事案


本稿冒頭に引用した5月19日の発言の通り、フーシ派によるサウジ国内へのドローン攻撃はこれ以降、かつてないほどの激しさをもって展開されていった。


アルマシラは8月3日付の記事で、ドローン部隊は過去3か月間に60回の作戦を実行したというフーシ派広報官の発言を紹介している。この記事には内訳として、サウジアラビア-イエメンの国境付近にあるアブハ空港に16回、ジーザーン空港に14回、ナジュラーン空港に11回、そしてハミース・ムシャイトに9回という数字が掲載されている 。いずれもサウジアラビア-イエメン国境付近の空港や都市であるが、この記事では、全60回の作戦の内、残り10回がどこに実施されたのかは紹介されておらず、内訳数が掲載されている作戦についても、いつ、どのように実行されたのかが分からない。


そこで、5月11日の攻撃事案以降のフーシ派による攻撃の実態を明らかにするため、フーシ派、サウジアラビア各々のメディアで報道された、7月末までの間のドローン攻撃事案を時系列でリスト化し、それぞれの攻撃の様子、使用された兵器、被害状況などについて紹介していく。


フーシ派側の情報は同派の広報媒体であるアルマシラを、サウジアラビア側の情報はアルアラビーヤを用いて調査し、適宜他のメディアの情報も参照する形でリストを作成している。なお、双方のメディアの主張が異なっている場合は、攻撃に関する双方の認識や評価の違いを明らかにするためにも、各メディアの記載を併記することとした。


>>表1 5月21日~7/28のフーシ派ドローンによるサウジ国内への攻撃事案 (PDF:597KB)


4.ドローン運用の変化


これまで、5月11日の攻撃事案及びその後のフーシ派によるサウジアラビア国内へのドローン攻撃の経過を見てきた。ここからは、5月11日以降とそれ以前の比較を通じて、フーシ派のドローン運用にどのような変化が生じたのかを、頻度、精度、そして攻撃に使用した兵器という観点から考察していく。


①頻度


表2に、2018年4月から1年間に報道されたフーシ派のドローン攻撃事案をまとめてみた(計上の手法は表1を作成した際と同じである)。表1にまとめた攻撃事案数と比較すると、この2019年5月11日以降約3か月間の攻撃事案数は、過去1年間の累計数と同等に達していることが分かる。両表の比較から、5月11日以降、フーシ派のドローンによる攻撃が量的に激化していることが分かる。


また、各攻撃の対象施設を見てみると、表1・2ともに、サウジアラビア-イエメン国境付近の都市や、同地域に展開中の部隊が主要な攻撃対象となっている。一方、数は少ないが、ドバイやアブダビの空港など、国境地帯から離れた対立国の政治経済の中心に対しても攻撃を仕掛けている。


ところで、ドローンは衛星から受信する位置情報を用いてターゲットに向けて飛行し、攻撃を実行する。当然ながらフーシ派は独自の軍事用衛星を保有していないため、商用衛星の位置情報を利用することとなるが、商用衛星の情報を戦闘に利用するには、画像解析技術、通信技術等に精通した専門家集団が必要となる 。こうした専門家集団の存在は、これまでの攻撃の成功からもうかがえるが、5月11日以降の高頻度の攻撃の実施は、これまでの攻撃実績の蓄積と専門家集団と実戦部隊の連携の円滑化が進んでいることの証左とも言えるだろう。


一方、これまでの攻撃を見ていると、同日同時刻に多方面に対して同時に攻撃をしかけている事例というのは見受けられない。保有しているドローンの数量的な制約なのか、それとも同時多方面での作戦運用能力上の制約なのかは不明であるが、今後そうした攻撃が発生・成功するかどうかが、フーシ派のドローン運用能力を測る一つの指標となるだろう。


>>表2 2018年4月から2019年4月の間のフーシ派ドローンによる攻撃事案 (PDF:597KB)


②精度


攻撃の頻度という量的な側面では向上が見られたが、個々の攻撃の精度、すなわち標的に対する攻撃の成否という観点ではどうだろうか?


フーシ派側も有志連合側も、多くの攻撃事案に関して、攻撃を受けた施設や迎撃の状況の画像や映像を公表しておらず、かつその情報がメディアごとに異なっている状態では、攻撃精度についての厳密な評価はできない。正直なところ、5月11日前後でフーシ派の攻撃精度が上昇したか否かの比較評価については、筆者が利用可能な公開情報からは、判断し難い。


しかし、画像が公開されている5月11日の石油圧送施設攻撃事案では、攻撃を受けた施設が4日間操業を停止せざるを得ないだけの打撃を与えている 。施設を物理的に完全破壊する能力は無いものの、国境から遠く離れた施設に対して、事前に枢要な部位を調査し、そこに焦点を当てた攻撃を成功させており、フーシ派のドローンによる攻撃精度は決して低いものではない、とは言えるだろう。


また、度重なる空港施設の妨害については、ドローンが空港施設を直接攻撃せずとも空港敷地内に侵入できれば妨害が成立してしまう。有志連合側の行動を妨害するという意味では、これ以上攻撃精度を向上させなくとも、現状の能力で十分に効果を発揮していると言えるかもしれない。


③使用兵器


フーシ派が攻撃に使用したドローンという観点から比較してみると、表1・2のとおり、2019年1月10日を境にQasef-1からQasef-2kへと転換している。


Qasef-1は、幅250㎝、長さ300㎝、滞空時間は120分、作戦行動半径は150kmとされ 、形状等の面でイラン製のAbabil-2に類似している。


一方Qasef-2kは、アデン近郊のアルアナド空軍基地で2019年1月10日に発生した軍事パレード攻撃において使用されたドローンであり、Qasef-1の性能を向上させたものとされる。スペック等の詳細は不明だが、このドローンは弾頭部に爆発物や榴散弾を搭載することができ、高度10m~20mで爆発すると、半径150m圏内の地上の標的に対して破片をばらまくことが出来るという情報も出ている  。


この他、2019年5月11日以降の攻撃で使用兵器が明らかになっている事案については、全てがQasef-2kにより実行されているのに対して、5月11日以前、とりわけ2018年中は、遠距離の目標に対してはSammad 2やSammad 3といった他のタイプのドローンが使用されている点も異なっている。


Sammad 2は、2018年7月18日のリヤド近郊のサウジアラムコの施設攻撃を実行したドローンであり、700km以上の継続飛行能力を有するとされている。攻撃手段については、Qasef-1と同様の自爆攻撃用なのか、それとも爆発物を搭載し、爆撃を行うのかは明らかにされていない 。


またSammad 3は、継続飛行距離1500~1700kmと遠隔地での作戦行動が可能な機体で、爆発物を搭載して投下することも、自爆攻撃をすることも可能とされている。フーシ派は、Sammad 3がサウジ側のレーダーに探知されないための新技術も搭載しているとも報じている 。


上記以外で、公開資料により確認ができているフーシ派のドローンは以下のとおりである。


ア)Sammad 1


500km以上の継続飛行能力を有するドローンで、主に偵察活動に用いられる。Jizan
地域上空を飛行している映像が公開されている 。


イ)Rased


幅2.2m、長さ約1m、120分間の連続飛行が可能で、半径35kmの範囲内で作戦行動が可能とされる 。


ウ)Hudhud 1


幅1.9m、長さ1.5m、90分間の連続飛行が可能で、作戦行動範囲は半径30kmとされる 。上空からの偵察などに用いられる。


エ)Raqeep


幅1.4m、長さ1m、連続飛行時間90分、作戦行動半径15mの偵察用のドローンで、情報の蓄積や転送なども行う 。


オ)UAV-X


フーシ派の新型ドローンで、国連の調査官によると、時速240kmでの飛行が可能で、1400km以上の作戦行動半径を有するとされる 。


カ)Unmanned Boat


ここまで紹介してきたのは飛行型のドローンであるが、これ以外にもフーシ派は、無人操縦型のボート(形式等詳細不明)に爆発物を搭載し、サウジ側の船舶や港湾施設に対する攻撃を実行したという情報もある 。


5.イランの影


フーシ派によるドローン攻撃が激化した背景には、米国のイラン核合意離脱と制裁強化を受けての米―イラン間の対立の激化があると言われている。


2018年1月28日に国連の専門家パネルが安全保障理事会に提出したレポートでは、フーシ派の使用しているQasef-1の部品の一部が、2015年4月14日の禁輸措置発動後にイランからイエメンに流れたものであるとして、イランが禁輸措置を誠実に履行していないと非難、これを受け、欧米メディアはフーシ派のドローン攻撃はイランが支援しているものとしてイランへの批判を強めてきた  。


表1・2で確認したように、フーシ派の攻撃は国境付近や対立国の経済的中心に対するものがほとんどである。2019年5月11日を境に頻度の面では明らかな変化が見られるが、それも攻撃対象や精度、使用兵器という観点から見ればこれまでの範疇に収まるものであり、変化はあるものの不自然さまでは感じない。


むしろ前後の比較を通じて明らかになったと感じるのは、2019年5月11日の攻撃事案の不自然さである。攻撃の時期や対象施設を見ても、単にイエメン内戦の動向に止まらない、より広い戦略的意図に基づいて実施されたものと見るのが妥当であり、欧米メディアが報じるように、攻撃の背後にイランの指示があると考えるのも、あながち的外れではないと思える。


イエメンをめぐる情勢が容易に解決しない以上、フーシ派のドローン攻撃は減ることは無く、ますます激しさを増していくはずだ。圧倒的弱者がドローンを用いた時に強者に対してどれほどのダメージを与えうるのか。ドローンの軍事利用に関心を持つ者は、今まさにイエメンで行われている試みから目を離すことが出来ないだろう。


以上