『西湖畔(せいこはん)に生きる』★★★
『ふれる』★★★
(満点は★★★★★)




9月も最終週。おかげさまで忙しく、なんだかあっと言う間の1ヶ月でした。
実は10月公開の試写を、まだ1本も観られていなくて…。
かなり焦ってます(笑)。
さぁ、今週は2本です!




『西湖畔(せいこはん)に生きる』は、中国映画。


抗州、西湖のほとりに暮らす、母のタイホアと息子のムーリェン。
父が蒸発して10年。タイホアはムーリェンを育てるために、茶畑で茶摘みの仕事に勤しんでいます。
ところが、社長のチェンと恋仲になったことを社長の母に咎められ、タイホアは仕事をクビになってしまうんですね。
途方に暮れていた時、同僚に紹介されたのが、何にでも効くという足裏シートを売るバタフライ社でした。
実はこのバタフライ社が行っていたのは、マルチ商法。説明会で洗脳されたタイホアは一攫千金を信じて、どんどんと金をつぎ込んでいきます。
そんな母を目覚めさせようとするムーリェンでしたが、彼女は聞く耳を持ちません。
ムーリェンは、母のために意を決し、ある大胆な行動に出るのでした…。


タイトルや公式サイトの写真から、自然豊かで、のどかな土地に暮らす中国の人々の物語かと思っていたら、まったく違いました。写真もよくよく見ると、下のほうには輪になって寝そべる人々の姿が。そのコントラストこそが、この映画の趣旨のようです。
これが2作目となるグー・シャオガン監督は、前作で映像の美学、山水画の哲学を追求した、“山水映画”を確立したと。それを一般的な商業映画のテーマにも応用できないかと考え、犯罪というジャンルに挑戦したそうです。
木々やお茶の緑を湛える山を天とするならば、犯罪に染まる人間の愚かさは地獄であると。掛け軸の如く、上から下へ、下から上へと視線を動かす映画だということのようです。
中国ならではのスケールの大きな自然と、ちっぽけな人間の浅はかな欲と。その対比に唸らされると思います。
もちろん、親子の情愛にも…です。★3つ。




『ふれる』は、ト書きのみで作ったという60分の映画。


美咲は小学4年生の女の子。
父の和仁と姉の美和との3人暮らしですが、そこに母の姿はありません。実は、母を数年前に亡くしていたのです。
食卓に母の箸とお皿を並べようとする美咲に、父の表情は曇ります。
優しく諭す美和。美咲はそれを理解しながらも、母のことが忘れられずにいたのです。
そんなある日のこと、父がひとりの女性を家に連れてきます。美咲は、いつかこの人が新しいお母さんになるんだろうと、頭ではわかっていたのですが…。


“ト書き”とは、台本に書かれているセリフ以外の部分のこと。つまり、情景の説明や、配役の動きの指示などの表記の部分を指します。
高田恭輔監督は、セリフを決めずに、俳優たちと話し合いながら作品を組み立てていったと言います。
子どもから大人へと成長する過程で母を亡くした美咲のセリフは、美咲役の鈴木唯が感じた言葉でもある。そこにある種のリアリティを求めた、実験的映画なのかもしれません。
60分という尺も好感が持てる長さだと思います。
この作品は、第45回ぴあフィルムフェスティバル2023で、準グランプリを受賞しています。★3つ。