皆さんこんにちは。夏本番になりました。私は個人的には寒いほうが嫌いなので、暑さはあんまり苦になりません。もちろん快適ではないですし、クーラー無いと生きていけません(軟弱)が、まぶしい太陽は大好きですね。
さて、医院も開院して1ヶ月半ほど経過しました。院長として初診相談を行って参りましたが、強く感じたことは、想像していた以上に世の人々は矯正治療を必要なものと考えているんだということでした。矯正を生業としている私にとってはありがたいことです。
初診相談には1時間とっていますが、みなさん来る前によく調べていらっしゃって、質問がかなり専門的かつ本質的な内容のために、詳細に説明しないといけないことが多く、あっという間に時間がなくなってしまいます。
これは私にとっては驚くべきことでした。とにかくいろんな情報を知っていらっしゃる。専門医の私でさえたじたじになるほど調べていらっしゃる方もおられます。
しかし逆に、それは少し間違って解釈されているなと思うことも正直あります。
情報源はほとんどの方がインターネットです。便利な世の中になったものです。
しかし、ネットの情報は残念ながらすべてが客観的に常に正しいわけではありません。矯正治療に関しても全く同様で、いろんな人がいろんなことを言っています。表現の自由、言論の自由が保障されている日本では、ネット上では誰が見ても明らかに違法なことでなければ、言いたい放題、規制のしようがない状態です。
解釈を間違いやすい具体的な例をあげると、絶対に歯を抜かないで治療できる、とか、6か月で治療が終わる、とか、取り外し式の装置でどんな症例も治療できる、とかのコメントでしょうか。
患者さんの立場からすれば、歯を抜かずに治療ができて、6か月という短期間で治療が終わり、取り外し式の装置だけで最後まで治療が終わるならそれに越したことはありません。もうガッツポーズものです。
かみ合わせのずれの程度が非常に少なくて、1、2本だけをわずかに動かせば理想的なかみ合わせができる症例なら、上の3条件はクリアできるでしょう。
しかし、本当に治療をしようと悩んでいる患者さんが、それにあてはまるケースなのかどうかが重要な問題ですよね。
中等度以上の不正の症例を、上の条件をクリアするためには、相当に過激なことをしなければならなかったり、いろんなことに無理をかけて、横顔やかみ合わせのいろんなところに不都合が生じても仕方のない、質の落ちた結果になっているかもしれません。
少々おかしいと感じても、自分の描いていた結果と違っていても、専門家である先生が問題ないと言えば、言い返しにくいものです。立場的には、医者と患者はイーブンでも、専門的知識は圧倒的に医者が優位ですから。
医者の立場からすると、本当は難症例だとわかっていても、患者を獲得したいがために、患者の希望する治療方針を採用するという人もいます。
つまり、抜歯をしないと無理なのに、絶対抜歯しないでほしいという希望が強く、もし抜くというなら抜かないで治療をしてくれる歯医者に行きます、という言葉に負けて、抜歯をしないで治療してしまう。結果は無理がたたってへんてこなかみ合わせができてくるわけです。
この症例は表側に固定式装置をつけないとちゃんと治らないと思っていても、患者が裏側からの装置を希望したり、取り外し式の装置を希望したら、しょうがないとその方針にしてしまう。こんな場合も実際あるわけです。こんな後輩がいると、ついお説教してしまうわたしです。
その方法が悪いと言っているわけではないんですよ。その患者さんを治療してきちんと治せる装置なのかどうかを考えているか、ということを言っているんです。
トヨタの自動車なら、ベルトコンベアーに乗った車が、次々と組み立てられて、完成へと進行していきます。いつも均質なクオリティーの高い完成車ができるわけです。みなさんこれにおかしいと疑問はお持ちにならないでしょう。
しかし、医療となるとどうでしょう。患者がベルトコンベアー式に治療が進んでいくことが、いい医療とは思えないでしょう。そうなんです。医療は患者さん個々によって全くさまざまな取り組み、治療方法になるわけで、いつも同じ手が使えるわけではないのです。
ファーストフードのキャッチコピーに「早い、安い、うまい」がありますね。医療でもこれができれば間違いなくいいです。しかし、工業製品のように同じように作っているファーストフード製品と、いろんなタイプの不正咬合をもった生身の人間に、いつも皆と同じような医療を提供するということは土台無理があるわけです。
製品でたとえれば、工業製品ではなく、伝統工芸品のようなものです。素材を見極め、温度や湿度、天候などにも気を配り、匠の技を用いて、世に二つとない最高品質のものを、あせらずじっくりと作り出していく。このように、矯正治療はできる限り高品質にはできますが、症例によっては、早く、安くはできにくい性格のものだとご理解していただくしかありません。
目指しているものは、最高品質のかみ合わせを手に入れるということで、それが、早くて簡単にできるならそれにこしたことはありません。超ラッキーということです。しかし、それが難しい症例なら、時間をかけて、重装備の装置を用いてでも壁を登っていかなければ越えられない場合があるというわけです。
ここで医療者が悩む葛藤は、患者がそれを求めない場合どうするかということです。つまり、そこそこでいいです、気になるところはここだけですので、そこだけ治してほしいとなった場合です。
私たちは、最高の結果はこうであること、ここまで行くにはどれぐらい期間がかかるなどをお話し、それを理解してもらったうえで、でもそこまでの結果は求めないと決断したら、それを尊重することにしています。その結果、収入にはつながらないこともあるかもしれませんが、それはそれで仕方ないとあきらめられます。
医療は押し付けになってはならないと思っています。しかし、大変だと分かっていても、頑張れば、時間はかかるけども、ここまで変わることができる、ということをお知らせすることも重要なことだと思っています。
こうなると、患者さんの気持ちが感じ取れる人間でなければならないわけです。時によって患者さんは本心と違うことを言う場合もあります。それを見抜けるか・・・。ちょっとした表情の変化や、会話での間、無言、のなかに、どんな本心が隠れているのかを見抜かなければなりません。
難しいのは、その時には理解して頑張る気持になっても、後になって気持ちが変わったりします。人の気持ちとは読み切れないです。これは、わたくしまだまだ未熟者で、修行がもっともっと必要です。今までも反省、後悔すること山のようにあります。人の心理はつかみ切れません・・・。
とにかく自分の目指す医療というものを、しっかりとして、ぶれないようにしたいと常々思っています。
矯正治療を開始しようと思っている方は、耳に心地よい言葉ばかりに惹かれ過ぎないようにご注意ください。
それが可能な症例なら全く問題がないわけですが、そうじゃない場合は、相談しているドクターが、真実を、自信を持って、きっぱりとおっしゃているかどうかを、しっかりと見抜く必要があると思います。
少しでもこのブログの内容が参考になれば幸いです。
今回も長い文章となってしまいました。申し訳ありません。
それでは今日はこれまでです。
徳島の歯列矯正治療専門医院 藤崎矯正歯科クリニック
当院のホームページ http://fujisaki-kyousei.com もご覧ください。