2014年、全国実業団大会は和歌山県が会場だった。1991年山形の米沢で開催された大会に出てから7年後。1998年札幌での大会から再び出て、その後20年連続で出場した。その中でも和歌山の大会は台風が接近したこともあり、なかなかの悪天候。大会出場をきっかけに近場を観光するのが例年のお約束だったが、この年は全く行かなかった。そもそも却って近いからなのか、奈良県、和歌山県にあまり縁がない。というか、行こうとしたことがあまりなかった。決して行きたくないわけではないが、機会を作りきれなかったのだ。


だが、中上健次を愛読していた私にとって和歌山…いや、紀州は訪れなければならない場所だったはず。そう思って、2000年5月、ついに和歌山旅行を企画した。泊まるのは白浜。3泊したが、中の1日を使って新宮まで行ってやろうという魂胆だった。しかし、その前に東京へ車で行っていたもので、遠い遠い。大阪まで戻ってきてから阪和道に載り、結構な時間をかけて白浜へ。ぐったりするドライブだった。


中上健次の世界を堪能しに行く予定だった新宮も、白浜から遠い遠い遠い。往復で6時間くらいだったから、新宮では2時間くらいの滞在で終わり、路地はおろか、中上健次作品の紀州サーガの欠片さえ触れられずガッカリして白浜に戻る。


あまり、収穫もなく、ただ、白浜という土地だけはなんかウキウキする南国感漂う街だったので、夏に新宮は無視して白浜旅行を計画した。今度は徳島から船で和歌山に渡り、そのまま南下。前回は真っ暗な中のドライブだったが、今回は明るいぞ、などと独りごちる。


そして、白浜に近づいた時、ふとJRの駅の案内板が目に入る。


んっ?


聞いたことのある名前やな。


とりあえず通過する。


再び、聞いたことのある名前の駅名が…。


あっ、これやったんか!


帰りは、敢えて両方の駅に寄ってみた。紀勢本線各駅停車「南部(みなべ)駅」。そして、次の「岩代駅」。1982年にNHK-FMで録音したその曲の中に入ってた駅名やんけ!

なるほど、「紀勢本線各駅停車みなべの次の岩代駅」ということは、南から天王寺に向いて走る電車なのか。そして、岩代駅、海に本当に近いやんけ…そう実感した。


帰宅してからカセットを探しだし、何回も聴いた。テングサはホームになかったけどな、などと思いながら。


「テングサの歌」 谷山浩子