叔父が家を継いだ母方の祖父母宅。母は三姉妹の真ん中で、その下に産まれたのが叔父。叔父以外はそれぞれ家を出ているので叔父が継ぐのは流れとしては必然だった。が、封建的な家が特に多かったであろう熊本の田舎では、叔父が未成年の頃から殿様扱いだったようだ。だから、本来平屋であった家に叔父用の二階を増築し、そこが叔父の部屋になっていた。叔父と私は14歳差。だから、小学校に入学した頃、まだ叔父は大学生であった。田舎に帰省すると、従兄弟が揃えば楽しく遊べるのだが、我が家だけが帰省しても特に行事もなく、昼間は遊ぶこともできず叔父の部屋に上がる急な階段に腰かける。その階段の横には戸棚の要領で収納が作られており、そこに叔父のマンガが大量にあった。ゴルゴ13やら、ちょっと大人が読むマンガばかりだった。でも、暇潰しにはもってこいだ。ほぼ、全て読んだ。その中に、小説を劇画化したものがあり、少し色っぽい内容も入っていたが、九州を舞台にしているだけに少し身近に感じられたものだ。そのマンガの中に、音符マークとともに歌詞が書かれていたが、当然、興味の欠片もない頃だ。小学校2~6年くらいまでの祖父母の家は、やはり、マンガが一番の想い出である。


2010年6月12日、42歳の誕生日は日曜日。その日はGrindhouseという徳島のライブハウスで親しく付き合っていた四星球が主催のライブをする日だった。リーダーのU太君にゲストとして招待されていたのだが、同じ日、近くの寅家という一回り小さいライブハウスであるアーティストのライブがあった。私は迷った末に後者を選ぶ。


そのアーティストの曲は、ヒットしていた頃、同時代として聴いていたわけではない。が、ピープル時代、有線でリクエストしてかけていたことがあった。周りから「怖い」だの「気持ち悪い」だの言われてすぐにやめたが…。


叔父の家のマンガの中にあった歌詞もそのアーティストのものだった。


そして、せっかくライブに行くのだから、と近年発売されたアルバムを購入する。やはり、いいのだ。あまり知られなくなったし、知られていても懐メロとして扱われるアーティストだったが、現在進行形でええやんけ、と思わずにいられなかった。そもそも、「怖い」と言われた曲は、ネタ的な部分もあったのは否めない。実際、よく歌詞を聴くとそれはそれで自らへの内省的な歌詞だから本当は前向きな曲。「呪い」。そして、叔父の家で見たのは「織江の歌」。その日のセットリストに前者は入っていなかったが、後者はもちろん歌ってくれた。


そして、新しく買ったアルバムの中にあった曲も歌ってくれた。充実した2時間を終えて、歩いて5分くらいの場所にあるGrindhouseに行くと、もうライブは終わっていた。

「何しよったんですか、終わってますやん…」

メンバーやスタッフ、顔馴染みのファンに笑われながらも、さっき聴いたあの曲がグルグル頭の中をリフレインしていた。独りで誕生日を祝われたような気になったあの日の夜。


「Beetle」 山崎ハコ