うっすら気になる異性はいるものの本気で好きになることもない時期。それは、相手に非があるわけでもなく、ただ、自分に自信がなく、どうせふられるのだから…と、ふられた自分を想像して二の足を踏んでしまっていたのが中2の秋~中3くらい。でも、好きな人がいないことの寂しさ、虚しさは忘れられない。キャピキャピしたい思春期の年頃。中2の頃、少し付き合っていた、いや、付き合うことができた女の子と別れてしまい、未練しかなく新しい恋に移行できず、しかも、未練を持っていることを肯定するのがカッコ悪いと思っていた。とっくに忘れてるわいっ、そんなポーズを見せないと自分を律することができなかったのだ。それが、恋に恋する不幸を生み出す。たとえばふられても実生活に影響を及ぼさないためには

同じ学校はタブー、同じスイミングもタブー。毎日、会うのは避けないと互いに気まずくなる。そう思っていた。だが、田舎の一中学生が日常に影響のない対象など出会う機械は殆どないはずだ。


そんなある日、地味だが可愛い無口な女の子に目が向く。ある女子校の水泳部で一つ下の子。その女子校は中間一貫だから、同じ学校になる可能性もない。気まずさはなさそうだ。同じ学年に仲の良いスイマーはいたのだが、前の彼女もスイマーだったし、2人が付き合っていたのは有名だったからなかなか一歩目を踏み出せなかった。


中3の秋、全国SCブロック対抗という大会が広島で開催され、私も四国代表として参加。ピープル高知は参加させない方針だったが、私が広島出身で出場を強く希望したので、引率なしとの条件で参加する。帰りは、前述の女子校の同期2人と一つ下の1人が高知から参加していたので、広島から船で松山、松山からバスで山を越え高知へ。合計5時間くらいかかった。誰にとっても暇な時間。それを埋めるには語るしかない。そこで、同期のエミがバスで横に座り、長々とそれまでの恋、そして、新たに女子校の子を気になっている旨を話したところ、同期たちがノリノリになってくれた。次の大会の時に、エミがその子にプロフィールを書いてもらったと紙を渡してくれた。

確か、名前と住所、電話番号、好きな色、歌手、趣味くらいの素っ気ない一枚。だが、好きな歌手くらいは頑張って好きになってみようと思い、当時出たばかりの新曲をラジオで録音した。


んっ? カッコいい。色っぽいぞ。意外とハマる。


その恋は翌年、新しく「好きな人」ができたことでようやく終わった。


でも、あの曲を聴くと、好きな人を作りたかった切望を思い出す。


「艶姿ナミダ娘」 小泉今日子