昨日は俺にとって、非常に長くタフな一日となった。なぜなら、3連勤の最終日となる17時間勤務を終えた後、普段は直行する自宅には戻らずに、そのまま東京ドームに向かっていたからだ。現在の東京ドームといえば、言わずと知れた都市対抗野球の開催期間。今日から2連休とはいえ、なぜわざわざ夜勤明けでの観戦に行っていたのかというと、昨日の第2試合である東芝-Honda戦を、スリランカ人審判のスジーワ・ウィジジャヤナーヤケさんが裁くことになっていたからだ。
スジーワさんといえば、元スリランカ代表の左腕エースで、NPB選手会とも協力して、母国への野球道具送付活動を行っていたことでもおなじみ。スリランカ球界にとってはなくてはならない存在として、国際野球ファンの皆さんの間でもおなじみだろう。現在は九州の方で、大学野球の審判をされているそうだ。普段はホテルマンとして働いてらっしゃるそうで、その意味でも何となく個人的にはシンパシーがある(笑)。
今回、俺が彼の出場を知ったきっかけは、もともと彼とフレンド同士だったフェイスブックで、今回の試合に誘われたからだ(と言っても個人的なものじゃなく、1000人以上もいるフレンド全体に向けてのお誘いだったんだけどね)。実は、この日の彼の出場は、外国人としては大会史上初めてのことなんだそう。野球の本場であるアメリカ、国民の間で野球が熱狂的な支持を受け、日本ともつながりの深い台湾、あるいは、外国人選手の輸入先として、比較的メジャーな存在であるブラジルなどを差し置いて、スリランカ人が今回抜擢された。これは国際野球ファンとして、ぜひとも見に行かねばというわけで、疲労や睡魔なんぞぶっ飛ばして見に行ったというわけ(なお、無意識のうちにエネルギーを使い果たしていたせいか、18時ごろに帰ってきてから今朝5時まで爆睡してしまい、更新がこんな時間になってしまった模様)。
この日俺が観たのは、第1試合のJR東日本-富士重工業の試合を含め、計2試合。俺にとっては、自身初となる社会人野球の生観戦だ。以前、神宮に早慶戦を見に行った際、Twitterでのフォロワーさんを通じて知り合った、大学の野球好きの後輩(ご家族が務めてらっしゃることもあり、大の東芝ファンらしい)とも合流し、第1試合はJR東日本に近いライト側、第2試合は東芝に近いレフト側スタンドで、ちょくちょくおしゃべりしながら試合を見ていた。
まず中に入って驚いたのは、各チームの応援団の規模だ。この日観た4チームとも、チアリーダーやブラスバンドに率いられた、大規模な応援団を連れてきていた。特に驚かされたのが、第1試合で見たJR東日本のそれだ。彼らは一塁側に陣取っていたんだけど、ライトスタンドのすぐそばまで、一面コーポレートカラーの緑と、チアスティックの黄色で埋め尽くされていた。応援団に関しては、試合が始まってからもどんどん人が増えていく東芝も負けてはいなかったけど、JR東日本の大応援団には、さすがの後輩も「あれはヤバいですよ」と目を丸くしていた。本当は、第1試合の間はずっと寝てるつもりだったんだけど、結局音が大きすぎて寝られず。見通しが甘かったね(笑)。
そして2つ目に驚いたのが、予想していた以上に投手のレベルが高いこと。この日観た2試合は、第1試合が3-1でJR東日本、第2試合が3-0で東芝の勝利と、どちらも1点を争う接戦だった。特に第2試合のカードは、それほど社会人野球には詳しくない俺でも知っている、好打者として有名な多幡雄一と西郷泰之(ともにHonda)が出ていたこともあり、もっと点の取り合いになるのかと思いきや、全然そんな流れにはならず。長打も両チーム1本ずつだけで、終盤まで1-0の展開が続いた。お互いの打線にとっては、フラストレーションがたまる試合だったかもしれないね。
その第2試合、スジーワさんは三塁塁審として、1試合を見事に裁いてみせた。一番の見せ場は、1-0で迎えた8回無死二塁の場面からのHondaの送りバントを、東芝の守備陣が素早く三塁に転送した場面。非常に際どいタイミングだったんだけど、スジーワさんは自信を持って「アウト」のコール。これがセーフになっていれば、無死一、三塁。チャンスで多幡と西郷にも回るという、Hondaにとっては非常に得点の期待度の高い場面にもなっていただけに、終盤の流れを形作るうえでは、物凄く大きなプレーだった。スジーワさん自身は試合後、「100%の自信を持ってよくできた」と語ったそうだ(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120719-00000112-mai-base )。
今大会で、スジーワさんが審判として出場を果たしたことは、単に「大会史上初の、外国人審判の出場」という言葉だけでは語れないような、物凄く大きな意義があると思う。それは、スリランカという南アジアの成長株からやってきた1人の野球人が、アジア球界の筆頭国である日本において、国際大会にも出るようなレベルの選手たちのプレーを、肌で体感することができたということだ。百聞は一見にしかずとことわざでもいうとおり、単に人づてに聞いたり、あるいはテレビなどの媒体を通して見たりというだけじゃ、本当の意味での凄さは伝わらない。やっぱり、最後は自分自身で触れなければ、リアルな感覚にはならないんだろうなと思う。
ヨーロッパにおけるフランスが、ちょうど吉田義男さんの指導の下強くなったように、スリランカもまた、日本球界との関係を強めながら、自身の力を大きく伸ばそうとしている。その最先端を走り続けているスジーワさんが、今回社会人野球の全国大会に出たということは、彼の母国の野球にとって、とてつもないプラスになることは間違いないだろう。もともと彼が今大会に出ることになったのも、「スジーワさんに南アジアでの野球指導者になってもらいたい」という、彼を推薦した福岡県野球連盟の思いがあったからなんだそうだ。彼が自身の経験を母国にも伝え、それに刺激を受けた母国の選手たちがさらに強くなって、やがては選手として日本の地を踏むなんてことがあったら、それは本当に素晴らしいことだよね。
これまで日本球界全体としては、例えば海外にアカデミーを作ったり、MLB入りを目指す選手向けにトライアウトを開催したりしている、アメリカ球界の動きと比較すると、野球を通じた国際貢献という面においては、残念ながらあまりインパクトのある動きはできなかったと、自分自身は思っていた。ただ、日本でもちゃんとこういう取り組みがあるというのは嬉しく思うし、これからも機会があれば、どんどん人材交流は進めてもらいたいなと思っている。単に実力が高いというだけじゃなく、同じ野球をプレーする仲間にも積極的に手助けができてこそ、真の意味での「アジアの盟主」だと思うからさ。
スジーワさんは、今日10時からの試合でも、審判としてグラウンドに立つらしい。また彼は、都市対抗に続いて「甲子園でも審判をしたい」という夢をお持ちなんだそうだ。日本球界にとっても、スリランカ球界にとっても、そしてもちろん彼自身にとっても、その夢の実現は非常に大きな出来事であるはずだ。是非、その夢を叶えてほしいと思うし、1人の国際野球ファンとして全力で応援したい。彼が都市対抗の試合に出られたことは、1つのゴールかもしれないけど、それは同時に新たなスタートでもあると思うんだ。お互いに立場は全く違うけど、俺も曲がりなりにも国際野球に関わる1人の人間として、彼から大きな刺激を受けながら、これからも日々頑張って行きたいと思う。