刑事裁判の大半が,いわゆる自白事件である。
自白事件において,被告人の関心事は量刑,つまり,どのような刑を言渡されるかに尽きるといっても過言ではない。
懲役もしくは禁錮刑の実刑なのか,執行猶予なのか。実刑だった場合にどのくらいの刑期になるのか。
実刑と執行猶予は同じ有罪であって「前科モノ」になることに変わりはないが,刑務所に行くかどうかは大きな違いで,雲泥の差がある。
微妙な事案では,被告人は執行猶予になるのを切に願い,弁護人の情状立証がうまくいくことに心が行ってしまう。
法の建前は,検察官が主張する公訴事実の立証が刑事裁判の主目的であるのに,実務の大勢はこの情状立証に心血が注がれており,ここに机上と現場とのねじれがある。
弁護人が行う情状立証にはいくつかの方法があるが,被告人の生来の性格,今後の指導監督を立証するために情状証人の取調べを請求することがある。
本来,被告人は自ら反省し更生して行くべきであるが,犯罪に手を染めているということは,意志が弱い者が多く,不幸な身の上の者であれば,単独で更生していくよりは他人の力添えがあったほうがうまくいくことは自明だ。
更生しうる下地があることを裁判所に印象付ければ情状としてはプラスとなる。
そのようなことを狙い,家族,特に親御さんや雇用先の上司などが情状証人となる場合があるのだ。
実際に情状証人からどのような言葉を引き出すかは証人の被告人への思いと弁護人の腕によって千差万別である。
今日,いわゆる振り込め詐欺の公判で取り調べた情状証人は対照的であった。
共同被告の事件である。つまり,共犯者を一つの審理で裁く。
被告人らは若年者であるため,それぞれの情状証人はいずれも親が出廷した。
一人は,
被告人は昔から心優しく,正義感があり,家族思いの人間で,こんな事件を起こすなんて夢にも思っていなかった
親の借金を背負い,致し方なく振り込め詐欺に加担してしまった
被害者には示談金を支払った
今後,親元へ戻らせ,規則正しい生活をさせる
被害者には申し訳ないが,被告人にやり直すチャンスをもらいたい
と語り,
一人は,
被告人はやさしい面があるが,それは自分の意志が弱いところが多々ある裏返しでもあり,お金にルーズだった
借金癖があり,そういったところを上手く教育するところができなかった
家族でコミュニケーションがうまくとれなかった
汗水垂らして働くことの意味を一緒に考えたい
示談金は一時肩代わりして払ったが社会復帰した後は払ってもらう
被害者には申し訳なく,お詫び行脚をしたい
被告人にはしかるべき償いをしてもらいたい
と語った。
情状立証という意味では,両者はあまり変わるところがないかもしれない。
しかし,被告人の更生ということを考えたとき,証人をして被告人と罪と向き合い,償いを考えているのは後者ではないかと思ってしまう。
確かに前者は親の子を思う気持ちがよく現れていると思うが,それは甘やかしとの裏返しでもある。
被告人らはいずれも男。
証人は前者が母親,後者が父親である。
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