「家の裏の崖から竹が落ちてくるんですよ。命の危険すら感じます。でも誰も取り合ってくれなくて」。特命取材班にSOSが寄せられた。現場では確かに危険を感じた。ただ、取材を進めると「手放したくても手放せない」、土地所有権の問題に行き着きました。
Aさんによると、それは、台風に見舞われた2016年の夏の日のこと。庭先に長さ7メートルほどの竹が落ちていました。屋根の上にも枝が散乱。以来、風が強いと竹が落ちてくるようになったといいます。
洗濯物を干しに庭に出ると、雨どいにすっぽりはまっていたこともありました。恐怖を覚えたのは昨年11月。庭を掃除していると背後でストン、と音がしました。「凶器みたいでしたよ」。折れて落ちてきた竹でした。自宅前には今も5メートルほどの竹が約20本積み上がる。
Aさんは当初、行政に助けを求めた。消防署の職員が3回、竹を切りに足を運んでくれたが4度目はありませんでした。西区役所の職員は「間違った対応だった。個人所有の土地なので行政が介入するべきではなかった」。樹木は財産にもなり得るため「慎重に対応しなければならなかった」と申し訳なさそうに話しました。
取材用のヘリで上空から確認した。木々がこんもり茂る斜面のすぐそばに住宅が張り付いている。伸び放題であふれ返った竹が横に張り出し、小道を挟んだ中島さん宅に飛びかかろうとしているように見えました。
竹が生い茂る土地の持ち主は同区の80代の女性。ようやく捜し当てた女性の自宅を訪ねると「あの土地にいくら使ったか。もう、お金はないです」。工事や測量…。束になった領収書を見せてくれました。
女性によると、問題の土地は亡き夫から1970年に相続。引き取ってもらえないか不動産業者や西区役所に頼んだが「使い道がない」と断られたといいます。
2001年に斜面が崩れた。市や消防が土砂を撤去してくれたが、安全管理は自己負担と言われた。コンクリートの吹き付け工事にかかった費用は367万5千円。親戚などから借金して支払いました。
今度は竹が落ちるようになる。近隣の苦情を受けた西区役所から対応を促す書類が届いたときには「事故が起きたら誰かを殺してしまうかもしれない」と頭が真っ白になったといいます。
足が悪く、とても自分で処分はできない。年金生活で業者を雇う余裕もない。「もう諦めました。事故があったら刑務所にでも入れてください」。女性は目に涙を浮かべていました。
福岡市財務局によると、市が譲渡を受けるのは「使い道がある場合」に限られる。16年度に寄付を受けた土地は道路用地154件、農業用のため池1件。山林は難しそうだ。
そもそも「土地」は手放せないものなのか。民法学者に尋ねると、土地所有権の放棄が可能か否かは民法にも規定がない。「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という条文はあるが、今回のように管理に負担がかかる土地の放棄は一般的には認められないといいます。
土地の相続放棄を目的に国に所有権移転登記を求めた裁判では松江地裁が一昨年5月、「土地の負担、責任を国に押し付けるもので社会の倫理観念に反する」とし、所有権放棄は無効と判断。広島高裁松江支部もこれを支持しています。
一方、相続関係のNPO法人によると、土地を手放したいという相談はこの1年で増加中。「山林は使い道がないので特に深刻。管理負担を避けるため登記をせず、所有者不明の土地を生む原因にもなっているはずだ」と分析します。
解決策はないのか-。学者は、国土保全の観点からも国や市町村を受け皿にして活用方法を模索する必要があると指摘。「地域の荒廃を防ぐためにも、一定の基準を設け政策として引き受ける仕組みが必要ではないか」と話しました。
いつかあがるかもしれないから、という理由でそのままに放置している土地をお持ちの方が数多くいらっしゃいます。
ご子息のため、と思っていてもご子息は不動産はいらない、と思っている方も最近は多くいらっしゃいます。
まずは一度、不動産の資産の今後の保有計画をたてるため、弊社にご相談下さい。