中黒記号「・」を含む結合商標の解釈が争われた例 | SIPO

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判決例18

 

 

<事件の概要>

知財高裁令和元年(行ケ)第10152号審決取消(商標)請求事件である。

本件は、原告が本願商標について拒絶査定を受けたことから、不服審判請求をしたところ、請求は成り立たない旨の審決がされたので、原告がその取消しを求めた事案である。争点は、本願商標が登録第6120234号商標(引用商標)と類似し、商標法4条1項11号に該当するとの判断の誤り(取消事由)である。指定商品が同一又は類似である旨の審決の判断については争いがない。

 

<裁判所の判断>

1.類否判断の手法について

商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許されないが、他方で、商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などには、商標の構成部分の一部だけを取り出して、他人の商標と比較し、その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

 

2.本願商標について

本願商標は、「ベジバリア」の文字及び「塩・糖・脂」の文字を、いずれも標準的な書体で2段にして成る商標であり、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないから、「ベジバリア」の部分と「塩・糖・脂」の部分を分離して観察すること自体は不可能とはいえない。しかし、「ベジバリア」の部分は、自他識別力を有すると考えられるのに対し、「塩・糖・脂」の部分は、「・」が存在することもあって3つの文字がそれぞれ独立し、「塩」は塩分を、「糖」は糖分を、「脂」は脂肪分を意味する一般的、普遍的な意味を有する文字として認識されるものであるといえる。そして、これらの文字は、それが、指定商品であるサプリメント、栄養補助食品に用いられた場合には、当該商品が塩分、糖分及び脂肪分のコントロールに良い影響を与えるなどといった記述的、説明的意味を表すのにとどまり、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える自他識別力を有するものではない(引用商標の「塩糖脂」は、3つの文字が一体となっているところから、それらが一体の文字として自他識別力を有するという余地が生ずるが、「塩・糖・脂」の場合には、「・」により分離されているため、「塩糖脂」と同列に論じることはできないものである。)。このことと、「塩・糖・脂」の部分は、「ベジバリア」の部分と比べ、明らかに小さい文字で構成されており、その分目立たなくなっていることを併せ考えれば、この部分は、自他識別標識としての称呼、観念は生じないものであるというべきである。

したがって、本願商標は、「ベジバリア塩・糖・脂」全体として、又は「ベジバリア」の部分としてのみ自他識別標識としての称呼、観念が生じるということになる。

 

3.本願商標と引用商標の類否

上記2.で検討した本願商標のうち自他識別標識として機能する部分を前提に、本願商標と引用商標の類否判断を行うと以下のとおりとなる。

まず、外観は、本願商標が「ベジバリア/塩・糖・脂」(「/」は改行を表す。)又は「ベジバリア」であるのに対し、引用商標は「塩糖脂」であるから、両者は異なる。

次に、称呼は、本願商標が「ベジバリアエントウシ」、「ベジバリアシオトウアブラ」又は「ベジバリア」であるのに対し、引用商標は「エントウシ」又は「シオトウアブラ」であるから、これも異なる。

最後に、観念は、本願商標が、「ベジバリア塩・糖・脂」の場合には、野菜(ベジ=ベジタブルの略)由来の障壁(バリア)であって、塩分、糖分、脂肪分の過剰から身体を守る物といった程度の観念が生じるか、あるいは、何ら観念が生じないものであり、「ベジバリア」の場合には、野菜由来の障壁といった程度の観念が生じるか、何ら観念が生じないのに対し、「塩糖脂」からは、塩分と糖分と脂肪分という観念が生じるか、あるいは、何ら観念が生じないものといえ、両者は、観念において異なるか、観念において対比できないものということになる。

以上によれば、本願商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても異なるか、少なくとも外観、称呼において異なるものである。そうすると、本願商標と引用商標とが同一又は類似する商品に使用されたとしても、取引者・需要者において、その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。

したがって、本願商標が引用商標に類似するとはいえないから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の認定判断には誤りがあり、原告の取消事由に係る主張は理由がある。

 

<被告の主張>

被告は、本願商標の上段と下段は、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。そして、本願商標の指定商品の分野においては、複数の標章を並列して使用する例が多数見受けられ、この場合、それぞれの標章が商品の出所識別標識として機能している。本願商標の下段の「塩・糖・脂」は、上段の「ベジバリア」よりも大きさに劣るとはいえ、指定商品との関係において商品の品質等を表示したものとはいえず、上段に対する付記的又は付随的な部分ともいえないから、看者の注意を惹かないとはいえない。また、上段の「ベジバリア」のみを標章として付した商品が市場で大量に流通していたことを示す証拠はなく、上段の「ベジバリア」のみで出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないから、下段の「塩・糖・脂」が出所識別標識として機能しないとはいえない。したがって、審決が、本願商標の下段を分離して類否判断に供したことは、上記各最判に反しない。」旨、主張したが、認められなかった。

 

<所感>

本願商標の下段の「塩・糖・脂」に対する認定の問題である。文字と文字の間にある中黒記号「・」を含むものと含まないものとでどのように解釈するのかが問われた例である。本判決では中黒記号「・」を含むことによって文字が互いに分離し、一体の文字とは把握されないとした。これら中黒記号「・」も文を構成する要素とみれば妥当な解釈であろう。