宮崎駿「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」を読みました。
 
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先日、テレビで「もののけ姫」を見てから、森の世界について考えています。

最近の私は、原始の生活に憧れ、森の生活が素晴らしいものに思えていましたので。

 

「風の谷のナウシカ」では、人間の勝手で自然を壊し、王蟲が怒って襲ってきました。「もののけ姫」ではアシタカを通じて、森で生きるのがいいのか、人間社会で生きるのかいいのか、考えさせられました。

 

宮崎駿さんは、どんな思いで「もののけ姫」を作ったのか知りたくなり、宮崎さんのインタビューが多く掲載された本書を図書館で見つけました。

 

漂泊の製鉄集団

 

・山を削っていくうちに巨大なものがやってきて、ある日突然歩き出すっていう、そういう映画をつくれないかな、って。東映に入ったころから言っていたことなんです。

 

・この漂泊の製鉄集団っていうのにずっと魅力を感じていて掘り下げることはやっていたんです。歴史の表面とか、時代劇には出てこなかったものの中に、魅力のある集団が他にもいっぱいあって、日本の歴史っていうのは、結構豊かで奥行きが深いんだっていう。

 

・だから、僕は侍と農民だけの支配と非支配っていう歴史観だけで映画をつくることが我慢ならなかったんですよ。

 

【私の感想】

お話の舞台は戦国時代以前と思われる日本なんですが、山で狩猟採集をして暮らす村があり、武士が支配する農村や町があり、そして女性が統領の漂泊の集団があります。

アシタカは生まれ育った村を出てきて、この製鉄集団(タタラ場)で、人々が活き活き暮らしているのに惹かれていました。この集団のしていることは、山を壊して鉄をつくっているわけだから、森から見たら「森を壊す悪者の人間たち」なんだけど。

ここの人たちは、楽しそうに暮らしていました。現代に暮らす私たちも同じような側面があると思います。

 

ふと、地元の山、武甲山を思い出しました。人間の暮らしのために石灰石でできた山は削られて痛々しい姿で、秩父の街を見守っています。ある日、武甲山から巨大なものが歩きださんとも限りません。

 

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僕はタタラ場で生きる

 

この映画は「君は森で生きる、僕はタタラ場で生きる」と言い切っています。

 

アシタカはそう言わざるを得ないと思ったんです。「故郷に帰らないんですか?」っていうやつもずいぶんいましたけど。

 

タタラ場で生きないと意味ないですよね。でも、サンを乗せて帰ったらカヤがいるんだぞって言ったら、ああそうですか、って言ったやつがいたけど。いやふたりとも女房にしたっていいんだぞって、追い討ちかけて言いましたけどね(笑)

 

「人間を許すことはできない」と、あの女の子ははっきり言うだろうと。それに対してアシタカは「それでもいいから一緒に生きよう」と言うだろうと。つまり、サンというのはアシタカに突き刺さった棘ですから。これは今後大変な目に遭うだろうなと思いつつ、でもアシタカはそれを背負って生きていくんだというふうに決めたということです。

 

【私の感想】

森の中で人間ではなく、動物として生きているサン。アシタカは、サンに強く惹かれていたし、森のなかで人間社会から離れて、森の呪いから逃れて、生きる道もあったはず。呪いは癒えたのに、森の中に留まらずに、タタラ場で生きるという結論に至る。人間として動物になって森の中で暮らすのが正解じゃないし、幸せではないのかもしれません。

私は、森の中で暮らすのに憧れるけど、サンのように人間を嫌って、人間社会を捨てては生きられません。

 

シシ神のスペクタクル

 

もののけ姫はアシタカを刺す。アシタカはそれを受けとめて抱き合います。それで終わりじゃないんです。

 

いやだって、実際の人生でも終わらないんですよ。ブスッと刺されてね、痛てえって言ったところで、抱き合ったから終われるかっていうね。そこから面倒くさいことを始めなきゃいけない。引き裂かれた状態で生きることを覚悟したわけだから。

 

――――シシ神のスペクタクルは必要あったのか?

とにかく起きちゃったシシ神はなんとかしなきゃしょうがないですから。やっぱりそれは広げた風呂敷に対する一定の責任っていうのがあるわけで。やっぱり途方に暮れながらもやらざるを得ないですよ。それはああいうデカいもん出しちゃった以上しょうがないです。

 

【私の感想】

ものすごいスケールのでかい場面が思い起こされます。それは人と人とのドラマだけでなく、壮大な森の大きさ、圧倒的な力を描いてくれたのだと思います。

「ナウシカ」では、人々は森の力に潰されそうになりました。「トトロ」では、森を怖れず、仲良くなりました。「もののけ姫」では、森と人間の暮らしを考えさせられました。

 
先日、息子とちょっとだけ森を歩きました。小学生の息子は「怖い」と言っていました。
やはり、森には漠然とした怖さがあります。森に入ると、ひとりの人間として小さな存在にならざるを得ませんから。
 
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ありがとうございました。